EPISODE2

「――それじゃショート始めるぞ〜」


 窓の外をぼんやりと眺めていたところに、ワイシャツを着崩した担任がいつものように教室へと入ってきた。


 高校二年目の夏。最近は降り注ぐ日差しも強くなり首筋からベタつく汗が気持ち悪い。それでも僕は当たり前のように通学し代わり映えのしない日常を送っている。


 長ったらしい担任の話を聞き流しながら窓の外を眺めた。

 夏の空に相応しい雲一つ無い快晴の空だ。この空を見ると何故か胸が苦しくなる。それが何故かは分からないけれど。


「――そういうわけだからみんな仲良くするようにな」


 ん?仲良く……?

 そこで担任の方に目を向けると見慣れない男が教卓の隣に立っていた。


 チクリ


「……?」





「……。」

「……。」


 これは、きまずいなぁ。

 不幸(?)にも俺はこの転校生と隣の席になってしまった。


 いつも担任の話を聞いていないせいか、転校生の名前すら聞いていなかったためこうして話すことすらままならず沈黙が永遠のように続いている。


 また、初日のため周りのクラスメイトも話しかける様子はない。まだ様子見といったところだろうか。


「おはよー千歳ちとせ

「おはよう真田さなだまた遅刻か?」

「いやぁ電車が遅延した。動物と接触事故だってさ」

「それは運が悪かったなぁ」


 この寝癖を付けっぱのまま俺の前に現れたのは真田涼介さなだりょうすけという一年生の頃からの友人だ。因みに遅刻常習犯である。


「お、千歳隣にいる子って転校生?」


 ふと見慣れないクラスメイトに気になったのか涼介は呑気にそんな事を聞いてきた。取り敢えず無視するわけにもいかないため「うんそうだよ」とだけ相槌を打っておく。


「へぇこの時期に転校生って珍しいーねぇねぇ君、名前は」


 ナイス真田!

 転校生の名前すら知らなかった俺は涼介の言葉に心のなかでガッツポーズをする。


 一方いきなり話を振られた転校生は一瞬目を瞬かせると静かに口を動かした。


「――日翠尋斗ひすいひろとです」

「尋斗って言うんだ。俺は真田涼介、こっちのぼんやりしているやつが葵木千歳よそしく!」

「よろしく」


 幾らか強張っていた緊張が解け、涼介を中間役に尋斗と話す機会が増えていった。

 数ヶ月もすれば自然と一緒にいることも増え、夏休みが過ぎた頃にはいつの間にか尋斗は友達になっていた。




 ――……


「千歳ー!図書館寄って行っていい?」

「あぁいいよ。つか、尋斗ってよく図書館行くよなあんま本読んでいるイメージがないんだけど」

「うわぁ酷い偏見だなぁ」


 尋斗はけらけらと笑い声を上げながら図書館の自動ドアに触れて中へと入る。鞄の中から取り出したのは何やら分厚い本であった。それも数冊。ところどころ擦り切れた部分があることからかなりの月日が感じられる。それらを両手で抱えると受付の人に返却していた。


「何の本?」

「んー……。歴史の本」


 気になって聞いてみた所尋斗はそう答えてくれた。しかしそのときに尋斗の横顔はらしくなく寂しさを含んでいるようで何処か遠くを見ているようであった。


 尋斗は慣れたように館内を歩くとまたしても分厚い本を手に取る。

 本の題名はよく見えなかったが何かの記録書のようだ。


「重っ」

「おー、気をつけろよ?」


 危うげに両手に本を抱える尋斗から二冊ほど本を無理やり受け取ると貸出機まで運んだ。全く、危なっかしいやつだなぁ……。







『――、無茶するなよ?』



「本当にそっくりだよなぁ」

「何が?」

「いやぁ?なんでもない」



 あの日、あの夏の日、俺の前で死んだ親友へ。


 今でも君のことを思い返す。あまりにも人の命なんて儚いことを思い知らされ、そして俺も間もなくして死んだ。


 俺は今でも君を探し続けている。

 君が生きていた痕跡を見つけたいから。


 そしていつの日か、君とまた出会えたら。

 また昔のように君と親友になりたい。

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【短編】君を置いていったあの夏の日 ときたぽん @tokitaponn3014

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