第18話 大事でもなかった話

 

 村を出た5人は、吉井が後方、みきが前方となり、その間にはっきり言う兵士、ススリゴ、最初黙っていた兵士の順で並んで街道に入った。


 道中、「武器は持ってないのか?」と最初黙っていた兵士は何度も吉井に訊き、吉井は「大丈夫だ」「そのうち棒でも拾う」「棒がなければ手ごろな石でも拾う」と都度答えていたが、最初黙っていた兵士は納得していない様子だったので、「どこかの街に寄ったときに買う」と話すと安心したようだった。


「どうせ2人は逃げるか死ぬだけだから武器は必要ないんじゃないか?」

 はっきり言う兵士は吉井とみきが聞こえるような声で言った。


「まあ、一応買っておきますよ」

 吉井はそう言った後、村を出る前のことを思い出した。



 入り口の柵の所で大まかな日程と予定を確認している時、みきは何度も肘で吉井を突き、ほら、今ですよ。おれつええからと言って下さい!と促した。

 その度に吉井は、わかってるから。とみきを制して口を開こうとするも、ススリゴ達の会話に入って行けず、あのー、と言いながら、体を少し前後に揺らしただけで機会を逃し続けた。

 結果、そのまま出発することとなり、みきはため息と共に前方に歩き始め吉井にすれ違う際、逆コナン君ですか? と半笑いで呟いた。


 

 最初に言っとけば、この無駄なやり取りはなかったのか。いや、言える雰囲気ではなかったし、言ってたら違う形でいじられてたはずだ。そこを履き違えてはいけない。吉井は落ち着くため何度も深呼吸を繰り返す。

 頼むぞ。今の深呼吸は落ち着くためだ。魔物が来るかもしれないってびびってるわけじゃないぞ。はっきり言う兵士、今おれをいじらないでくれよ。もしそれをされたらおれは。


 吉井は前方にいるはっきり言う兵士が自分を見ていないか確認したが、こちらに気付かずただ前を見て歩いていた。


 いや、だからいっそ今のはいじってくれよ。そしたらおれも踏ん切りがついて、つええしたのに! もうだから嫌なんだよ、こういう流れは!


 吉井は空転していく思考に飲まれながら歩き続けた。



 夕方になり視界が悪くなった頃、進行ルート上に村があったので、ススリゴが交渉した結果、5人はその村の空き家を一つ借りてそこに泊まることになった。


 1部屋のみの平屋内で、全員で中心の火を何となく囲みながらの夕食の時、はっきり言う兵士からの提案で、しばらくの間吉井とみきの食糧を2人の兵士が負担してくれることとが決まった。


「手持ちも多いし遠慮なく貰ってくれ。おれ達のためにもお前らには体調を整えてもらわないと。それに正直重いんだよな」

 

 はっきり言う兵士は笑顔で吉井とみきの前に、乾燥した食べ物の塊ををどん、と置いた。


「いやー、ありがとうございます。そこまで直接的だと気持ちいいですよ。あ、これ肉だ! さいこお!」

 みきは貰った食料を口いっぱいに頬張る。


「そうだな。なんか素直にありがたいって気持ちになる」

 吉井は自分が持っていた小麦粉適当に丸めてを乾燥した食べ物でなく、今貰った肉をある程度乾燥させたものを食べた。


 兵士と吉井達4人はその後も持っている食料について話していたが、無言でそれを聞いていたススリゴはいち早く食事を終え、そのまま何も言わず床に直接横になり寝た。


「どうします、吉井さんもう寝ます?」

「することないしなあ。寝るよ」

 吉井は入り口側の壁にもたれて目を閉じた。



 ……へえそうなんですか。あの土始祖って呼ばれてるんですね。そうそう、でこの国が大陸で一番大きいって知ってる? あ、それは何となく聞いたことが。だから始祖を中心に国が……。なるほど。そういうことだったんですか。じゃあ、この国の……。


 おい、ちょっと待て! はっきり言う兵士とみきの話し声で目を覚ました吉井は薄く目を開けた。


 そういう世界の大事っぽい話をおれが寝てるときにするんじゃねえ! これ今理解しとかないと後で困るやつだろ!


 吉井は、うーん、と小声で言いながら背伸びをした。


「あれ、吉井さん。起きちゃいました?」

「いや大丈夫。ちょっと喉渇いたなって思って」

「すごいですね、喉の渇きで目が覚めるなんて。今この世界の話聞いてたんですよ」

 みきは近くにあった水筒のようなものを吉井に渡した。


「へえ、そうなんだ」

 ありがとう。吉井は水筒を受け取り一口水を飲む。


「途中からだとわからないから、今までの話をわたしが要約して説明しますよ」

 間違ってるところあったら教えて下さいね。みきは、はっきり言う兵士に笑顔で言った。



 昔々、といってもそう遠くない昔。人と魔物たちが争っていました。当時の魔物はとても大きくそしてタフでした。ちょっとした恐竜のようなものをイメージしてもらえばいいです。

 そして最終局面で一番大きな恐竜のような魔物と当時とても強かった6人の兵士が戦うことになりました、それぞれ、槍、剣、斧、弓、盾、棍、を使っていたそうです。いち、にい、さん……。はい、6人であっています。で、倒しました。その後、6人は話し合いました。

「おれたちでそれぞれ国を作ろう。そして得意な武器を国歌とか国旗に入れて国の象徴のようなものにしよう。それを国民色としていれば、おれたちが死んだ後もそれぞれの国の人が集まったとき、いい感じにパーティが組める」というような内容だったみたいです。

 棍の人は反対したみたいです。だっておれ木じゃん。正直今回あまり役に立てなかったし。武器変えたいんってずっと思ってたんだけど。しかし、鉄製の棍にしたらいいんじゃない?って剣の人が言ってくれてそれで納得したそうです。


 しばらく平和な時間が続きます。で、結局続きません。そして国と国の争いが始まりました。


 きっかけは些細なことでした。でかい盾を公園のベンチに置いてたとか、槍が電車で邪魔だったとか。多分そういうことです。

 

 まず槍の国が盾の国に攻め入りました。これが開戦だったと言われています。で、盾の国も頑張りましたけど、攻め手を欠いていたため負けました。そして槍の国が奪った盾を持って弓の国に行きました。最初はいい感じだったけど弓の国が負けました。遠距離は盾で塞がれ、接近戦になったらお手上げだったそうです。


 みきは、これ大陸の勢力図です。縮尺は雰囲気ですけど。兵士から貰った紙の裏に描いた。


   棍  弓       棍  槍

 剣      槍 → 剣      槍

   斧  盾       斧  槍


 


「こうなりました。そうです、槍が大陸の半分を手に入れました」

 

 そして、そしてこれをいいと思うか、悪いと思うかはあなた次第ですが、そう言ってみき片方の唇を上げ、にやりと笑って続けた。


「槍の国、わたしたちが今いるところです」

 

 おいおい。この世界のやつらはあほか。どう考えたって軍隊で戦った場合、槍が有利な気がするんだが。古代マケドニアだって組み立て式の槍を使っていたと聞く。吉井はみきの書いた図を見ながら思った。


「まあ古事記みたいなものっぽいですから信憑性はいまいちですけど。でも無理やり解釈するとしたら、ずーっと一つの国で魔物と戦っていてそれが終わってですね。んで初めて人間同士の集団でがちでやってみたら槍めっちゃ強かったと。だって古代マケドニアだって槍使ってたけどあれも洗練されてああなったと思うし。組み立て式にして運びやすくするとか」


 多分同じ漫画読んでんなあ。吉井はみきの話を聞きながら、毎回続きを忘れてしまう漫画を思い出していた。


「で、大分槍の国が進行してですね」

 最終的に、っていうか今現在が、みきは紙に書き足した。


   棍  弓        棍  槍     

 剣      槍  → 剣      槍 →

   斧  盾        斧  槍     

 

  棍  槍 槍 

  剣  槍 槍 槍

  斧  槍 槍


「もう槍だらけですよ。斧と棍も押されてなんか大陸の3/4ぐらい槍らしいです。で他の三国は数十年前から槍とか盾も使い始めてるみたいですけど」

「なるほどなあ。でも、これ逆転無理だろ」

「ほうほう。その心は」

「だってさ」

 吉井は槍の文字をとんとんと指差した。


「あれだろ。殺したほうがどんどん強くなるんだろ?んでそれは遺伝すると。それだと差が開きまくりだろ」

「あれ、そんなこと言ったっけなあ。村の噂では聞いたことありますけど」

「言ってたって。てか数十年っていってるけどなんで槍は進行しないんだ?」

「それはですねえ」

 よいしょっと、みきは図に再び書き足した。

 

 棍  槍 槍

 剣 〇 槍 槍 槍

 斧  槍 槍


「位置的にこの〇ところに吉井さん、いや空港がぶっ倒したやばい土がいたんですよ。だから進めなかったみたいですねえ」

「いや、これを見るとそうだけど、実際いくらでも迂回できるだろ」

「あの周辺すごい通りやすいんですよ。昔からの街道だし、他のルートとなると上っていうか北? はおっきな川あるし、南は山だらけで」

「ふーん。でかい橋とか山に道を造ってまで行く価値はないということなんだな」

「それもあると思います。あとやばい土も結構移動できるみたいだし」

「へえ、そうだったんだ」

 

 確かにあれなら割と動けそうだったな。吉井は薄れつつある記憶のドーム丘を思い出した。

 

「でも、わたし思うんですけど。今、言ってしまえば初期村を出たわけじゃないですか。で、これからの流れは、吉井さんが各地方を訪れて、それぞれの特産品の武器を学んで強くなっていく感じなんじゃないかと」

「どうかな。それやる意味ある?」

「うーん。それはやっぱり槍の進行を止めて、なんたらかんたらっていうこと?」

「なんたらかんたらっていう部分が一番大事だろ」

 

 そう言った後、吉井がふとはっきり言う兵士を見ると、いつの間にか横になって眠り込んでいた。


「あ、寝てますね。わたしたちもそろそろ休みましょう。明日も早いですし」

 みきは体を丸めて持参していたひざ掛けのようなものにくるまった。


「ああ、そうしよう」

 吉井は再び壁にもたれ目を閉じる。


「あ、でもわたし納得できないところがあって」

 みきは、ひざ掛けから顔を出した。


「最終局面っていう大事な戦いをなぜ6人で戦ったのかっていうのと、盾の人が強いっていう判断基準がいまいち」

「おいおい、昔話に現代人の立場からつっこむのはルール違反だろ」

「つ、つっこんだら過剰反応ともいえる正当防衛でつっこまれた……」

「いいから寝ろ」

 

 そう言って吉井は目を閉じた後、ふと思いついたことがあり、なあ。とみきを揺さぶって起こした。


「ええー。寝ろって言ってたのに」

「さっきさ。6人が倒したとか言ってただろ。でかい魔物を」

「そうですけど、それが?」

 みきはさらにひざ掛けにくるまった。


「ドーム丘がそのでかい魔物でさ。結局その6人倒してないんじゃないの?」

「意味ないですよ、そんなこと考えても。倒した後、またできたんじゃないですか」

「いやいや。これは大事なとこだろ」

「ええー、わたしはどっちでもいいですよ。昔話だし。早く寝て下さいよ」


 そう言った後、みきは反応しなくなり、吉井は、おれが間違ってんのか……。別にいいとこなのか? と納得できないまま目を閉じた。

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