第11話 お前が行くんかい(後)
こういうのは久しぶりだな、まるであの頃みたいだ。タフタは時折相槌を入れながらゴイスとイイマが話しているのを見ていた。
イイマは結婚して子どもがいるし、ゴイスだってもうすぐ。
タフタは1ヵ月前にゴイスが、婚約したから紹介するぞ!と店に連れてきた美人を思い出した。
「んで、配分なんだけどよ。おい、タフタ。聞いてんのか?」
あ、ああ。ごめん。タフタはそう言って2人に笑顔を向ける。
「聞いてるよ。とりあえずその債権は僕が買うよ。だから300万は三等分にしてもらっていいかい」
「え、おい。イイマとおれはどっかから借りるつもりだったぞ。なあ」
ゴイスはイイマとタフタを交互に見た。
「そうだ、客に金貸しがいる。ツケもあるからそこからと思っていたんだが」
ほら、あそこのカウンターにいるやつだ。イイマは顎でカウンターの方向を指す。
「いいよ。いつも世話になってるし」
たまにはいいところ見せたいんだ。そう続け、タフタはイイマの肩を叩いた。
「おし、わかった!借りは今度返す。明日買いに行こう!」
「おいゴイス。50万だぞ。タフタにだって生活があるだろう」
「ほんとに大丈夫なんだ。ちょうどお金溜まってて使い道を考えていたところだったし」
「な、イイマ。タフタもそう言ってるんだ。借りとこう!300万貰ったらすぐ返せるんだからよ」
そして3人はオーステインまでの道のりの確認、持っていく物の相談等のため、翌日からイイマの店が終わってからタフタの店に集まり話し合うこととなった。
そして一週間後の朝、タフタは国直営の債権販売所に並んでいた。
本当に楽しかったな。タフタはこの一週間のことを思い出しながら含み笑いをこらえた。
相談といってもほとんどは関係のない話ばかりで、結局決まったことは、ゴイスが地図を買い、食料はイイマとタフタが用意することだけ。そして昨日の夜は最後だからと、意味のないおさらいと思い出話をしていたら気付けば朝になっていた。
今朝、お前らはいいよな、タフタは休めるし、イイマは昼からだしよ。とタフタの店舗兼住宅を出るときゴイスがぶつぶつと文句を言い、それをイイマがなだめながら帰っていき、2人を見送った後、タフタが店を継いでから初めて使う臨時休業の看板を店の入り口に置いて、朝日が入る2階の部屋でベッドに横になった時、タフタはここ数年得られなかった満足感の中眠りにつくことができた。
そして2時間程度眠ったタフタは家の金庫から金を取り出し、いつもよりも身支度に時間を掛け家を出た。
タフタの番になり、予め受け取っていた希望する債権の番号が書いた札を、机に座っていた係員に渡しタフタは正面の椅子に腰を掛けた。
そしていくつかの書類に記入して金を渡し、国からの証明書を受け取った後、ありがとうございました、と言いながら席を立とうとしたタフタに、
「なあ、こっちはいいんだが。本当に君は行くのかい?」
と係の男が声を掛けた。
「ああ、はい。友人と」
「そうか。まあ気をつけて。あと最近村に確認したら返済できるという返答だった。行くなら早めがいいぞ。あいつらすぐ使い込むからな」
係の男はそう言い、タフタの後方にいる人に向けて、次の人座って下さいと、大きな声で告げた。
「ほんとうにすまん! この借りは50万の借りと合わせて必ず返す!」
ゴイスは両手を机につけて頭を下げた。
債権を買った日の夜、翌々日に控えた出発のため最終打ち合わせを兼ねて3人は集まることになっていたが、約束の時間に遅れてきたゴイスは席に着いた瞬間、2人に明後日から急に仕事で出張になり行けなくなった、と謝った。
「別に謝らなくても。仕事じゃしょうがないよ」
タフタは証明書を鞄にしまいながら頷く。
「で、いつからなら行けるんだ?」
イイマがゴイスの肩を右腕で抱きながら言った。
「来週だな。それまでには戻って来てるはずだから」
「しかしなんだ? 急な出張って」
イイマは酒の入ったコップを傾ける。
「最近モドキの生態がおかしくてよ。いるはずのない個体がその辺をうろうろしてたり、いつもいるやつがいなかったりで。その辺の調査が必要って言われてな」
「そういうことか。じゃあまた来週に集まろう」
タフタはそう言って笑った。
結局その日、ゴイスは明日の準備があると言って早々に帰り、2人になったイイマとタフタは何となく気まずい空気となって、タフタも食事手短に終えた後、じゃあまた、と挨拶をして店を後にした。
そして翌週、ゴイスとタフタが話し込んでいるところにイイマが頭を下げながら割って入り、
「すまん、娘が大けがをしてしまってな。しばらく家を空けるわけには……」
先週のゴイス同様、2人に頭を下げ、イイマはカウンターに立つ妻に視線を移した。
「しょうがないよ。奥さんも一人じゃ不安だと思うし」
「そうだな、ここで無理して行くと死ぬまで言われるぞ。あの時あんたは! ってな。でもタフタそれ期限あるって言ってなかったか?」
「ああ、そうだね。国が補償するのは2ヵ月間だけみたい」
その後、買ってしまった証明書をどうしようかと3人で相談していると、カウンターに座っていた常連客が立ち上がって3人がいるテーブルの席に座り、それおれが買おうか? と言い3人を順に見た。
「お、ススリゴ。それはありがたい、金貸し順調なのか?」
「まあまあってところだよ、イイマ。いつもお前にはうまいメシ食わせてもらってるしな」
ススリゴは帽子を取って頭髪が無い頭を軽くなで、30万でどうだ? とタフタに向かって言った。
「30万、か」
タフタは証明書を見ながら考え込む。
「おい、知ってんのか。これ50万掛かってんだぞ!」
「知ってるよ。ゴイス、でもお前ら行けないんだろ。それに」
ススリゴは証明書を指した。
「期限迫ってるんだろ。買うやついるのか?」
その後、ゴイスとススリゴが言い合ってるのを聞きながら、タフタは半ば売ることを決めていた。
ゴイスに頼めば師団で欲しい人もいるかもしれない。でも今なら村は返済できるっていう話だった。それに期限もあるし転売するならまだ価値がある早い方がいい。
「いいよ。30万で」
タフタは証明書をススリゴの前で揺らした。
「おい、タフタ!おれが探してやるからもうちょっと待て。こんな値段でこいつに売ることはない」
ゴイスはススリゴを指差しながら言った。
「ただし即金だよ、ススリゴさん。明日の朝までには持って来て欲しい」
「いいぞ、今で」
ススリゴはニヤッと笑い、布袋をテーブルの上に置いた。
タフタはそれを見て、この人最初から狙ってたのか?こんな大金持ち歩くなんて。それに中身も数えてなくきっちり30万って。タフタはススリゴの置いた布袋に手を伸ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます