第9話 土の万能感やばい
洞窟から出て再びみきの村に歩き出した2人は、昼休憩を挟んだ後に太陽が2つあることについて話していた。
「だから日当たりが悪いっていう概念が無いんですよ」
みきは2つの太陽を交互に指差す。
「へえ。じゃあこっちで家借りるとき楽でいいな。方角気にしなくていいから」
「そうですねえ。2つがいい感じに向こうで言う南と北にありますから。だからいっつも日差しがガンガンきてて。日陰がないってしんどいんだって気付きましたよ。あ、そう言えば」
みきは吉井の全身をじっくり眺めた。
「なんであなた魔物をぶっ倒せるんですか?実は以前空手をやってたとかじゃ説明できないんですけど」
「うーん。正直もろに思い当たることがあるんだよなあ。吸収がどうのこうのっていう話を聞いたときから」
「ほう、それを今まで隠していたことは許しますよ。安心してください、みきとしてではなく、副村長としてね。だから説明を」
「まあ要はだな」
吉井は転移してきたときに、飛行機と空港が近くにいたドーム丘に直撃。結果、ドーム丘は消え去って大きなクレーターが残ったということをみきに伝えた。
「あ、あんた。な、なんちゅうことを……」
みきは小刻みに震えながら吉井を見る。
「いや、おれがしたんじゃないし。あれ生物だったんだろ? 落ちたとこに緑の霧みたいなのが残っててさ。それがいわゆる吸収? されたんだと思うけど」
「あ、あれはですね。わたしたちは「でかい土」って呼んでますけど。この世界のなんていうか、決まり? うーん。違うな、元凶? ええと、つまりあれがですね、動物を魔物にしてるって言われてるんですよ。で、めちゃくちゃ強いはずなんですよ。それでかー、いやー。ついてますねえ。いきなり経験値がっぽしじゃないですか。そりゃあオオカミモドキも倒せますわなあ」
「へえ。そういうものなんだ」
「正直、土の詳しいシステムは村まで届いてないんですけど。みんな体感でそう捉えていますね。ちなみにわたしのいる村は、この国で一番やばい土に近いんですよ」
「やばい土って? さっきでかいって」
「ああ、その辺の揚げ足取りいいですから。それで私たちの村はこう呼ばれているんです「はじまり」って。「はじまり」っていうのは昔の言葉で、訳すと「はじまり」っていう意味です」
「え、ごめん。全部「はじまり」なんだけど……」
「またまた冗談を。昔の言葉で「はじまり」訳すと「はじまり」って」
「うーん。だから」
「あ! そうか。吉井さん土をぶっ倒して吸収したからこっちの言葉分かるんですよ」
みきは、そっか、倒した生物の力を吸収ってそれもあるのか。でも、そうだとしたらもしわたしがこっちの人を……。と口に手を当ててぶつぶつと言った。
「君の独り言はあれかい。その周りに聞かせるスタイルかい?」
「ちょっと待って下さい。いくら短いスカートを履こうが覗いたほうが犯罪ですから。その理屈でいうと、吉井さんあなたが」
「わかった、理解した。おれは見ていないし。聞いてないよ」
「それならいいです。でもやっぱすごいですね。土って昔の言葉もわかってたんだ。吉井さん、その土の能力貰ったから勝手に変換されて。だから全部一緒なんですよ」
みきはしゃがみ込んで石を拾い、AUSTAINとアルファベットで書いた。
「あー、そうやると変換されないわ。アウスティンね。なんか気持ち悪いな、外国語を喋ってるみたい」
「そうそう、オーステイン。土はアルファベット知らないですからねえ。しかしその発音なんなんですか。今、気持ち悪いって言ってましたけど。むしろこっちが日本人が無理して英語喋ってる感じ聞かされて不快なんですけど」
「だってそう聞こえ」
「だからあああ!」
みきは大声で吉井の言葉を遮る。
「リィオンじゃなくて、レオンでいいじゃないですか! ネクスト ステーション イズここまではいいですよ。わかりますよね、乗り物のアナウンスですよ。で、次の地名のとこですよ、トゥキョウ? ばかな、普通に東京でいいじゃないですか! 大体にして毎回毎回こういうときに、ラジオとレディオがどうのっていう人いますよね? はい、いるんですよ。それとこれとは全然違いますから!」
なんか一人ではまってんなあ。吉井はみきの話を聞き流しながら、ドーム丘から逃げるようにクレーターを駆け上っていたときのことを思い出す。
なんか、ギャッギャギャってカット割り激しい映像とかあったけど。あれでドーム丘が持ってた言語感覚がおれに伝わったとしてだな。
そうだとすると元々ドーム丘は言語を理解していたが、ドーム状だから喋れなかったのかなあ。まあ元凶だのなんだのって言われてるぐらいだからなんでもありか。
でも、気になるのはみきが言ってた独り言だな。要はおれがその辺の人を大量に殺した場合、その人達の知識や経験までおれに……?
「ちょっと、聞いてるんですか! この発音問題は滋賀県民にも当てはまる話ですよ!」
みきは黙り込んでいた吉井の二の腕を強く掴んだ。
「ああ、ごめん。なんかすげえその辺気にしてたんだな。でもそれって、あ!」
吉井は来た方向を振り返った。
「その、あ! の雰囲気は、大したことないことだったら説教されるレベルだけど大丈夫ですか?」
「いや、忘れてたけど。あそこ人いたんだよ。さっきの洞窟に」
「……ほう。人がいた、と。そろそろ昼食にしようと思ってました。クールダウンしながらそこの岩で詳しく聞きましょう」
みきは目の前にあった大きな岩を指した。
吉井は何かを激しく乾燥させたものをかじりながら、小さなパンを食べているみきに洞窟で起こったことを話した。
「うーん、流れからするとハゲが出てくると思ったんですけどねえ」
みきはパンパンと手を払って水筒のようなものに入っている水を飲んだ。
「あー、そこか。ごめん、残念だけど」
「でもそこにいた人達って、多分」
みきは来た道を振り返った。
「ある程度立場がある人っていうか。国の中央とかにいる人じゃないかなあ」
「へえ、そうなんだ」
「だって名前聞き取れないぐらい長かったんでしょ? こっちってなんかえらい人とか出自がいい人ほど名前長いんですよ」
「ほー。そういうもんなんだ。でもさ、それ別に誰でも好きにつけちゃえばいいんじゃないの。名前なんだし」
「これだからルーキーは。一体何回洗礼を浴びれば気が済むんですか」
みきは大げさに首をぐるっと回す。
「考えても見て下さい。あなたががね、例えば新学期のクラスの自己紹介で、おれ宮家に繋がりあるから名字あるけど慣れてないんだ。だから名前だけで呼んで。みたいなことを言ってごらんなさい。めちゃくちゃいたい奴でしょ? 休み時間みんなあなたいなくなったところで、あいつはやばい、ってなるでしょ? そういうことなんですよ。文化っていうのは」
「まあ、うん。ちょっと言いたいことあるけど。わかったよ、そういうことか。じゃあ、みきってどうなの? 2文字って」
ふっふ。みきは含み笑いを噛み殺す。
「めっちゃちょうどいい。まあ2文字ですよ、わたしのような村人は」
「へえ、吉井の3文字は?」
「うーん、あなたの立場なら、まあぎりかな。わたしはぎりなしの方だけど。多少背伸び感がねえ、大学入ったばっかりの18歳が高級鉄板焼きの店に女の子を誘う感じかなあ。焼き肉でいいじゃん、2文字でいいじゃんって」
「そうか……。感じ方は人それぞれだから、おれはこのまま吉井でいくよ。めんどくさいし。でもわざわざ死体持っていくんだな。こっから近いの? 国の中央部って」
「そうですねえ。村の人誰も行ったことないんですよ。たまたまわたしが、噂で聞いたという感じで商人っぽい人達が会話の中で話しているを市場で盗み聞きした時は、馬で五十日ぐらい。また別のとこで盗み聞いたら徒歩で六十日ぐらいって」
「盗み聞きかあ。なんか信憑性に欠けるなあ。それに多分どっちかが間違ってるし」
「ですよねえ。馬と人の時速考えたら、色々込みでもなんか合わないですもんねえ。やっぱり吉井さん。ちょっとまずいんじゃないですか?悪目立ちっていうか。わかりますよ。最初だし、つええしたい気持ちも」
みきはパンをもう一つ取り出してじっくり眺めた後、袋にしまった。
「でもあの時の動画をみんなで観たら、うんうん、吉井悪くない。って言われると思うけどなあ」
「どうですかねえ。結果としては食料と水奪ってるじゃないですか。どちらにせよ多分人かなり来ますよ。大体その生き残った3人は逃げたんでしょ? オオカミモドキ数十匹がいたっていうことと、オオカミモドキを倒せる人がいたって、多分けっこうな衝撃が」
「そっか。じゃあとりあえず早くここから離れるか」
「おっと無難ですねえ。しかし悪い選択ではないですよ」
行きよりも少し早いペース歩き村に戻っている途中、吉井は形を変えながらも何度か同じことを考えていた。
だめだ、いくら取り繕ったところで自分だから自分のことはわかる。おれは試してみたい。けどみきがいるからなあ、あんまり変な風にはできないよなあ。
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