第5話 平成って書いてるのをぽん


「あ、そういえば話す前に!」

「ああ、うん」

「2年って何なんですか! 子どもをからかって楽しいんですか!」

「すまん、元号のほうでね」

「元号って。平成2年なんてとっくに。って、あ……」

「そうだよ。君は平成生まれかい? 一つの時代が終わったんだよ。そしてこれからは『平成っぽいなあ』と若年層にからかわれるがいい」

「え、じゃあちなみになんですけど。新しいのって決まってるんですか?」

 少女はもう一度吉井の正面に座り込んだ。


「そりゃあもう。なんか色紙みたいなのを出してたよ」

「ああー。それ死ぬほどみたことあります。平成って書いてるのをぽんってやってる映像」

「そうそう、それの新しいやつ」

「で、ちなみに新しい元号って?」

「うん、教えるよ。とりあえず君からの情報貰ったらその後で。おれここのこと全然わからないから」

「それはずるいですよ! 大体わたしは確かめようがないのに」

「それは信じてもらうしか。あ、ひとつヒントを。これまでの元号で使われていた漢字が一つ入ってる」

「ええとそれは明治以降?」

「うーん、どうだろうね。とりあえずそのもう一人の男の話が聞きたいな」

「……まあいいでしょう。では、改めて」

 少女は再び立ち上がった。



 あれは何年前になるか。1年、いや2年、か。こちらの生活に少し慣れたわたしが現代知識を生かしたえげつない何かをできないかを探し求めていた時です。その頃、わたしは時間があれば空を見て過ごしていました。空を見ていると何かえげつないことを思いつきそうな気がしたのです。

 ある日の朝、いつものように屋根に上って空を見ていたわたしは、この世界ではありえないような光を見ました。具体的に言うとピカー、ピカーと雷のように空を照らしていました。わたしはそれが何か気になって村の外に出ようとしましたが、村の人たちは止めました。魔物がいるからあぶない、ひと


「え、ちょっと待って。魔物ってなに……?」

「いいから! 質問にはあとでまとめて答えますから!」

 少女はそう言って続けた。


 わたしは、ここに来てからちょっとした知識を何度か披露し、村でポジションを築きつつあったのです。ふふふ。まあそれはまた後で。それで村の人には実は占いも得意で、それによると今日は大丈夫っぽい。と説得し、一人で出かけていきました。

 どれぐらい歩いたでしょうか。3時間か、4時間、いや1時間か30分ぐらいかもしれないです。そしてその間魔物に会わなかったのは幸運としか言いようがありません。でもそれぐらいのリスクを押してでもわたしは向かうべきだと思いました。

 そしてわたしは車から降りてボンネットを開けている中年男性を見つけたのです。

 キャップをかぶっていたその男の人種が分からなかったので、英語が堪能なわたしは、「ヘイ、ガイズ。何があったんだい? まさか今日みたいな晴れた日に故障なんてことはないよな」みたいなことを流暢な英語で言いました。

 すると、男は。いやー、ごめん。英語わからなくてさ。と苦笑いで返し、帽子をとりました。ハゲていました。


 わたしはハゲに対して偏見などありません。あ、ハゲてる。と思っただけです。大体ハゲていても男前なんて山ほどいます。むしろそっちの方がいいっていう人も多いと聞きます。あ、すいません。話が逸れました。わたしは、あ、外国の方だと思ったので。全然日本語で大丈夫です。わたしも日本人なので、と言いながら男の横に立ち、壊れているんですか。と訊きました。

 男は、動くよ。でも何となく開けてみたんだ。荒野で車のボンネット開けるってなんとなくやってみたいでしょ。と言い笑いました。


 わたしは、おい、ハゲ。お前何を言ってるんだ。と思いました。そして呆れながらこの人どう関わっていこうかと考えていると数秒で閃きました。さっきの現代知識を使ってえげつないことをやろう、というやつです。そうです、わたしはこの世界で車を作ろうと思いました。この人に協力してもらって車を分解し構造を勉強しようと。

 わたしみたいな非力な女が、生物を殺したらそのエネルギーが吸収できるとか、そんな訳の分からない世界で生き、


「え、あのエネルギーを吸収って。それどうい」

「もう、何回も言わせないでください! 子どもじゃないんだし、子どもの話ぐらい黙って聞けないんですか!」

 少女は吉井を睨みつける。


「ああ、ご、ごめん。でも終わったら教えてくれるんだよな……?」

「いいでしょう。元号を教えてくれれば」

 少女はこほん、と咳払いを一つした。


 話を戻します。わたしはその人を村に連れて帰ろうと思ったので、とりあえず車を隠すために手伝ってほしいと伝え、岩陰に移動してもらい近くにあった木の枝を二人で折って車の上に覆っていると、荒野で木に隠すのは余計目立つんじゃないか、とその人はハゲのくせに反論しました。

 それについてわたしが口を開こうとすると、でもこれいいね。車を隠す感じ。てかここどこ? 外国、いや過去とか? あれの1みたいだ。いや3か。もしかして中古で買ったこの車タイムマシンなのか! と何かテンションが上がっていました。

 そしてしばらく話しているとこの人はハゲているけどすごくいい人だと気づきました。わたしは、村の人に紹介するから、一旦ここに車を置いて一緒に村まで行こう、と言いました。


 しかしその人は、ちょっと車のメンテナンスをしているから、もしよければ村の人がこっちに来て欲しいといいました。

 はあ? ハゲが頭髪がある人達を呼びつけるの? と思いましたが、わたしは気持ちを少し落ち着けた後、説明が長くなるから後で言うけど、車は見せないほうがいいと言いました。その人は、ますますあれみたいだ。と喜びました。でもやはり車から離れたくないと言ったので、わたしが村の人を連れてきて、車と村との中間地点ぐらいで会おうという妥協点を提示すると納得してくれたので、わたしはここからでも見える大きな岩を指差し、あそこで待ってて。と言い残しその場を去りました。


 数時間後、その岩にわたしと村の人間が来た時にその人はおらず、村の人が嫌がったのでわたし一人で車のあった場所に行くと、そこには木の枝が散らばっており、その人と車は消えていました。

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