第12話 友人

「君は、えっと────」

継島蓮奈つぎしまれんな、レンナって呼んでくれ」

「ああ、ありがとう。レンナ。俺は園條築人。俺も築人でいい」

「おう。わかった」


「それで、期待されてる人間っていうのは、どういう意味かな」

 蓮奈の言葉が気になって、築人はその意味を訪ねる。

「どういうって、そりゃあ。まどろっこしい言い方だったかな。要は、天才。神童ってやつ」

「……それは、陰陽道的な意味での?」

「それ以外に何があるんだよ」

 蓮奈はけらけらと笑う。


 ────なんか、自分なりのペースがある子なんだな……?


「それで、あんた、天才だろ?」

「え。あー、そう? そうかな?」


 ────そう、かも? そう……だな。我ながら自称するのは少し恥ずかしいけど、そんな自覚は多少なりともあるか。うん。この肉体年齢にしては、かなりよくやっているほうだと思うし、期待されてる自覚もある。


「そう、だな?」

「だろ? あたしもさ、そうなんだ」

「天才?」

「ん、まぁ、そんなとこだ。周りからはそう言われてるし。それでもこういうのって自分から言うのはアレなことなんだろうけど」

「それはそうだね」

「おい」

 蓮奈は不服そうに築人の腕を小突く。

「痛っ。いや、だって、俺は君が天才なのかどうかは正直よくわかんないから。術とかなんにも見たこと無いし」

「あ、それもそうか……」

「そうだよ……」


「あ、じゃあここで見せるよ、あたしが天才だってこと」

「え? どうやって」

「術で。あたしの家の秘蔵の日法の術式見せるから!」


 そう言うと蓮奈はおもむろに右の手のひらを築人に見せる。どうやら、そこから術を発動させようとしているらしい。


「いやダメでしょ。公共の場だよここ」

「そんな……あたしの家の術が下品なやつみたいなこと言うなよ」

「下品とかじゃなくて! 陰陽道の隠匿とか、ここでやるのは危険だとか、なにより家で秘蔵されてる術式をそんな易々と見せようとするなぁ! それでも陰陽師かい君はぁ!」

「あ、そっか。ごめんごめん」

 蓮奈はフラットに笑ってごまかす。

「まったく……なんなんだこの子は」

 

 ────第一印象ってのは宛にならないな。ほんと……


 明るい顔の蓮奈を見て、築人はそう思った。


 ────ただ、目が笑ってないのだけは、第一印象通りかな。それだけで、この子の言っていることが嘘じゃないってことがわかったから。


 ◇


 この以後も、二人はリハビリの度に会っていた。

「どっちが先に走れるようになるか、競争しようよ、築人」

「ことわる。そんなことして変に焦って怪我したら大変だろ」


「なあ、あんたの家の術式ってどんな術式なんだ?」

「壊法の術式」

「……それだけ?」

「それだけじゃないに決まってるでしょ、だけど言わないの。秘密兵器が何かなんて、言うわけないじゃないか」

「けち!」

「けちじゃない!」


「ねぇ、食パンの袋挟むやつって何か知って」

「バッグ・クロージャーでしょ」

「言いきる前に言うなよぉ~! てか知ってるんじゃん!」

「一言も知らないなんて言ってないからね」


 そんなことを言ってる合間に、二人のリハビリ次々は完了していき、リハビリの時間も少なくなった。お互い歩くのにも歩行器が要らなくなった。


 しかし、なぜか二人は自然と会うようになっていった。二人が落ち合う場所も、リハビリテーション室前の休憩スペースから、病院の中庭にある木の下の日陰にあるベンチに変わっていった。三人掛け程のベンチに、二人はお互いの話がよく聞こえるように、ある程度身を寄せて話すようになった。それが日常になりつつあった。


 その二人の距離は、拳一つ分ほどもなかった。

 時を同じくして、二人はお互いを友人として見るようになった。


「なぁ、築人」

「なに?」

「築人はさぁ、どうしてここに入院してきたの」

「あぁ……妖魔討伐に失敗したってとこかな」

 ────厳密に言ったら違うかもだけど、大体そんな感じだと思うからいいでしょ……

「あは、やっぱり」

「やっぱり?」

「あ、いや、変な意味じゃなくて」

「このタイミングでのやっぱりが変な意味じゃないことないでしょ」

「いや、いやさ~……やっぱり私とおんなじだったなって」

「……同じ」

「うん、そう……」


 その日の蓮奈の話し方はなぜか、いつもどうり明るいようにみせかけて、言葉の節々にぎこちなさがあった。


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