~八頭(はち)の煩悩~(『夢時代』より)

天川裕司

~八頭(はち)の煩悩~(『夢時代』より)

~八頭(はち)の煩悩~

 永い帰路から漸く仕上がる〝鬼の居ぬ間(ま)〟に遠東(えんどう)さんから幻夢(ゆめ)を曇らす独自の談にて桜を見ていた。「遠東さん」とは俺に識(し)られぬ余程の与力に与する御方(おかた)で、「明日(あした)」の水面(みなも)に配(はい)され独歩(ある)ける爪の赤身に似た人でもある。純白(しろ)いパンツがぽろぽろ靡(なが)れる独創(こごと)の連歌の成れの果てには俺から見知らぬ「遠東氏」が立ち、文句(ことば)を発する慌てた表情(かお)から、俺と俗世(このよ)に密かに発(た)て得る独我(どくが)の墓碑さえ解(と)け入り始めた。滑稽(おかし)な生歴(きおく)が益々可笑しく膨らみ始め、表情(かお)の成る樹(き)が怒涛の晴嵐(あらし)に両脚(あし)が向く頃、初めに散らせた桜の花弁(びら)には男女の寝息が広告され得る。俺と「男女」の滑稽(おかし)な共鳴(ひびき)は日々を透して大きく罅割れ、桃割れ仕立ての〝日々〟を沸かせた乾ける水源(もと)さえ涸らしてあった。逃げ水仕立てにじんわり跳び付く俄かの格子に花咲く扉は、俺と夜目(よめ)との間(あいだ)に透け入(い)り、見得ない拳(こぶし)で膨(おお)きく揺すれる苦い丈夫を気心にて保(も)ち、数打ちゃ当たるの拙い旧さを醸した述懐(すべ)にて、俺に迫れる迫真(まこと)の情緒を〝古着〟を着熟(きこな)し上手に梳いた。

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 松居美由(まついみゆ)が出て来て、俺とやや好い関係に成った所で終っていた。森初芽(もりはじめ)は女性(おんな)に在りつつ、現実より美貌を呈しており、美由よりももて、既に彼氏が居るようだった。その彼とは、もしかすると、美由が想いを寄せていた男かも知れなかった。

 高校のクラスに居る様(よう)だった。生徒がそれなりに周りには居て、中でピックアップされたのが、森初芽、松居美由、山本康晴(やまもとやすはる)であった。皆、白いブラウスを着て居て、初夏を想わせた。

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 言葉の多さに抑揚付いた投げ遣りが在り、明日(あす)の味元(みもと)が真白(しろ)く煌(かがや)く俺の背後(うしろ)の几帳に閉じられ、二言三言(ふたことみこと)、生歴(きおく)の余所(ありか)を捜す頃でも、「昨日」に懐かぬ〝往路〟の背後(うしろ)は、南瓜畑の間広(まびろ)を保(も)った。酷な日数(ひかず)を男女の酒宴(うたげ)へ挙げる瞬間(ころ)には、幻(ゆめ)に認める二女(にじょ)の意識が俺への感覚(いしき)に微妙に冴えて、「明日(あす)」の行方を気配に報せぬ稀有の調子へ便乗して生く。白い欠伸は純白(しろ)いシャツへの古着を温(ぬく)め、青い春への追悼事(ついとうごと)には生歴(きおく)を温(ぬく)める俺の掌(て)が立ち、俗世(このよ)の男女が「男女」に無くなる幻夢(げんむ)の渡(わた)りその実(み)を沈め、俺の身元(もと)へは自然に解(と)け得ぬ霧の微温(ぬる)さが後退して行く。二女の主観(あるじ)と一児の男性(おとこ)が誰の身許で育成(そだ)って在るのか、遁(とん)と分らぬ分身(かわりみ)を保(も)ち、事の初めを寸とも鳴らせぬ雲母の裾から表情(かお)を覗かせ、嘆きの瞳(め)をした色濃い上肢は、俺の目下(ふもと)を急いで騒がす脆(よわ)い容姿(からだ)を宙へと挙げた。宙(ちゅう)の空(くう)、空(くう)の宙、頃合い報せぬ未開の経歴(しるべ)に堕とした術(すべ)には男女(ひと)の語りが優に保(も)て得ぬ性(せい)の言動(うごき)がその実(み)を見せ付け、純白(しろ)の水面(みなも)に母の生き得る可能を識(し)ると、俺の前方(まえ)にて億尾を発した狸の一群(むれ)では、焦るお腹をするする擦れる旧い形容(かたち)が乱行された。無一文から外界(そと)へ拡がる虚しい期待を余所へした儘、俺の生歴(きおく)は現行(いま)に寝そべる柵(さく)を飛び越え、何時(いつ)か見果てた自由の牙城(とりで)を、気熱(ねつ)を上げずに手中にするのだ。そんな思い宙(そら)に寝そべる奇妙の根株にひっそり懐ける怒涛の初春(はる)には、俺の生歴(きおく)が如何(どう)にも待てない未来(さき)の努力が程好く挙がる。俺の生歴(きおく)の矛盾に押し入る無慈悲の現(うつつ)が先行(せんこう)した後、女性(おんな)の柔手(やわで)に薄(うっす)ら上がれる〝奇妙の初春(はる)〟から温味(ぬくみ)が拡がり、現代人(ひと)の教習(ドラマ)を壊し続ける俺の文句(ことば)が浮んで行った。二楽(にがく)の独楽(こま)から空転して行く廻りの陰では誰にも識(し)れない滑稽(おかし)な経歴(きおく)が先走りをして、成人(おとな)に操(と)られる騙しの技術に決して敗け得ぬ漆黒(くろ)いい魔術が空転(ころ)がり出ていた。現行(いま)の楽差(らくさ)についとも寄れない俺の延命(いのち)は感受(センス)を翻(かえ)し、ふらりふわりとその実(み)が片付く無機の牢屋へ自身を埋め、誰とも何にも決して寄れない打出の〝呼笛(あいず)〟を大事に採った。漆黒(くら)い暗(やみ)から見事に束ねて現行人(ひと)と成り得る形成(かたち)を繋いだ俗世(このよ)の余命(いのち)は、宇宙(よる)に漂う一夜(よる)の空間(すきま)に自己(おのれ)の在り処を未然に顕し、俗世(このよ)へ拡がる「教義」を含めた現代人(ひと)の明日(あす)へと自分の実(み)売り煌(あか)りと結ばれ、早馬(うま)の脚にも追い付けない程、恐怖の速水(はやみ)を連想していた。純白(しろ)い上衣(ころも)は俺の上肢(からだ)をその掌(て)に収めて自慰に微睡む共鳴(さけび)の憐れを横手に尋ねて、未完(みじゅく)に仕上がる人間(ひと)のの成果を物理(もの)の形容(かたち)に突き止めていた。他(ひと)の足場が宙へ懐かず現(うつつ)へ逆行(もど)り、俺に操(と)られた〝一夜(いちや)〟の目下(ふもと)を過ぎ行く頃には、現代人(ひと)の欲目は何につけても金(りえき)を欲しがり理想(りえき)に望み、合せ疲れた義理立てしていた聖なる物への未完(みじゅく)の要旨は、個人(ひと)の一心(こころ)に到底在ら非(ず)に迷い猫から献身して活き、悪魔が悦ぶ人間(ひと)の行事に逆行していた。暗(やみ)の〝水面(みなも)〟に久しく挙がれる人間(ひと)を発狂(くる)わす条理の〝旧巣(ふるす)〟は、凍え過ぎ行く延命(いのち)の歯止めに中々操(と)られず、初冬(ふゆ)の始まる惨い合図に大手を振り抜き失走(はし)って行った。俗世(このよ)に始まる個人(ひと)の愛した条理の果てには漫才ブームの成れの果てから律義に割かれた詰らなさが在り、人間(ひと)の欲目は各自が蔓延る欲の強靭(つよ)さに始終を投げ売り、小言に始まる独創(こごと)の許容(うち)から、欲に爛れた〝打出の小槌〟を雲散霧散に量産した後、結託付かずの夢想の虚無から〝意味の酒宴(うたげ)〟が開催された。暗い路地から稀有に上がれるものには、人間(ひと)の寝言に果ての観得ない微温(ぬる)い音頭が衰退していた。

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 俺は少々大御所のように振舞い、一寸(ちょっと)やそっとの事じゃ動じない、と言った風に、動じない、といった風に、爪楊枝でも口に咥えてどんとしていた。そう、給食前で、俺は腹が減っていたのだ。皆、何も言わずに他の事をしていたが、恐らく給食を待っていた筈だ。森初芽は自分の彼氏と会いに行くのを繰り返し、会った都度、俺と美由が居るそのクラスへ還って来た。美由は時折り、物凄く淋しそうな孤独を見せて、壁際の席に座り、壁を向いて、俺から見て左側を向く形で黙って座って居た。その時でも、白いブラウスが柔らかそうに映えた。可哀想に思えながら美由が可愛く見えた。俺は松居美由がその時、初めてか改めてか、好きに成っていた様(よう)である。

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 無駄に終れぬ〝意味〟の共鳴(さけび)は俺を操り、松居美由との端正(きれい)な旋律(しらべ)を何処(どこ)ぞの境地へ送って生く内、無益の限度(かぎり)に自分を装う男性(おとこ)の狡猾(ずる)さに愚かさを観た。現行(いま)に蔓延る現代人(ひと)の芽に出る悪鬼の形容(かたち)は様子を報せぬ厄介に在り、人壁(かべ)を呈せる脆味(よわみ)の足元(すそ)には何にも化(か)われぬ無理の律義がきちんと据えられ、全く霞に糧を煩う餓鬼の容姿(すがた)に顕(あらわ)れて居た。金(かね)を掌(て)にした悪鬼の容姿(すがた)は個人(ひと)の欲芽(よくめ)に雲散して活き、人群(むれ)を囲える未完(みかん)の宙(そら)から降臨した折り、暴力任せに〝正義〟を仕留める単細(おろか)な成就に成功していた。現代人(ひと)の残骸(むくろ)に「成就」を重ねた単細(おろか)の極味(きわみ)は男性(おとこ)に仕上がり、現代人(ひと)の男性(おとこ)は自分の主(あるじ)に女性(おんな)に気取れる斬新(あらた)な「明日(あす)」への糧としながら、自分の自活が自分を救える脆味(よわみ)の強靭味(つよみ)を清算していた。現代人(ひと)の両脚(あし)には女性(おんな)の坩堝へ自ず向くよう、現代(いま)と現行(いま)から習わし語(がた)りの憂慮の欠片(かけら)が余計に仕上がる断層を識(し)り、白い壁から人間(ひと)に観られる活気の熱美(ねつび)が端正(きれい)に仕上がる目測を見て、何処(どこ)か見知らぬ〝眠りの郷(さと)〟から零れ落ち行く自由の詩吟(うた)など漸く知る儘、何でもしたがり・遣りたがり屋のM(マゾ)の気質は現代人(ひと)の男性(おとこ)を操り始めて、無味と無機から強靭(つよ)く仕上げた現代人(ひと)の白壁(かべ)からこれまで観て来た経歴(きおく)が抜け落ち、冷たい涼風(かぜ)から奇妙に仕上がる無尽の独気(オーラ)が衰憶(すいおく)するまま宇宙の冷風(かぜ)から幾様(きよう)の文句が羅列せられて、俺の背後(はいご)へ延びが蹴上がる〝雲散〟の羅列が跳んで、初めから無い虚無の理生(りふ)へは、個人(ひと)の誠実(まこと)が牢屋(おり)から出れない孤児の記憶が決定され生く。無駄から産れる白身を観(み)せ生く人間(ひと)の骨盤(ほね)には、自分の従う主(あるじ)を忘れた虚無の酒宴(うたげ)が活性させられ、淡い〝経歴(こだま)〟に自身を操(と)られぬ未完(みじゅく)の渡りが時折り冴え活き、果ての成らない現行(いま)の活路を酷く離れる個人(ひと)の脚力(ちから)を支えてあった。無理が祟らぬ腰の重さに自活を備え、自己の旧巣に帰還して行く潔白(しろ)い憂慮へ身を粉(こ)にした儘、拙い証にその身を立て生く若輩達への憎悪を募らせ、現代(いま)の古巣で狡猾(かしこ)く活き抜く未完(みじゅく)の両脚(かいな)が現代人(ひと)から仕上がり、俺の憎悪はは現代(いま)に生き得る無機を呈した若者達へと自然に象(と)られて萎縮を待った。現代(うち)を活き抜く現代女(おんな)の漆黒(くろ)い髪から、人工照(ライト)の灯(あか)りを反射させ得る器用の電子が逆立ちした儘、俺の孤独を益々孤独に愛悼(あいとう)して生く現代人(ひと)の本義が浮かれ踊った。万葉(ことば)の陰から矛盾に消え行く斬新(あらた)な気迫が女性(おんな)の実(み)に成り宙(そら)を観る頃、明日(あす)の空間(すきま)に緻密に漏れ出る二極(ふたつ)の四肢(てあし)が男女に分れ、千葉(ことば)の影から矛盾を蹴散らす純白(しろ)い篝火(たきび)を自然(あるじ)へ見せ付け胡乱を保(も)った。響き続ける現代人(ひと)の欲目の〝流れ星〟から人間(ひと)の実(み)に成る二局(ふたつ)の矛盾は葛藤して活き、昨日の奥義(おく)からきちんと発(た)たされ実(み)に成る対話(はなし)を気運(はこび)のついでに持参している。真白(しろ)い壁から人間(ひと)に割かれぬ陽(よう)が飛び出し、慌てふためく俺への〝呼笛(あいず)〟は真昼の空(すき)からはらはら流行(なが)れて、終ぞ損ねて尽きる迄無い、人間(ひと)の渋味(にがみ)を強く放(はな)った。人間(ひと)の渋味(にがみ)は冷風(かぜ)に打たれて逞しくもなり、俺を囲める無数の白壁(かべ)から宙(そら)を見詰める旧い壁など、自在に取り次ぎその身を安める苦境の手水をその実(み)に欲しがり、過ぎ行く「経過」に時間の撓みを念じ切る頃、俺の目下(ふもと)で念じ象(と)られた延命(いのち)の類(るい)には美味(あま)い気色が散乱していた。紺(あお)い途(みち)には宙(そら)まで繋がる人間(ひと)に彩(と)られた番(つがい)が行き嗣(つ)ぎ、無走(むそう)の経過が人間(ひと)の流行(ながれ)に尽きて止む頃、〝三寒四温〟の向きの軟実(やわみ)は愚直に延び得て重なり合った。二局(ふたつ)に分れた旧い〝水面(みなも)〟の人間(ひと)の主(あるじ)は、泥濘(ぬま)に嵌れぬ宙(そら)での寝言を上手に携え、自身(おのれ)を温(ぬく)める最新(あらた)な寝返(かえ)りを器用に打つまま男女に操(と)られた今日に落ち着く刹那の幻想(ゆめ)には、何も分らぬ個人(ひと)についての成り立ちが在り、男性(おとこ)も女性(おんな)も何も変らぬ自在の易者にその身を押し付け、独創(こごと)の連呼が宙(そら)を見果てる脆(よわ)い〝渋味(しぶみ)〟を堪能していた。口火を切り出す初春(はる)の陽気が俺と美由との空間(すきま)を埋めつつ、やがて躊躇(たじろ)ぐ孤高の男児に衝立(たて)を観せる頃、俺と女性(おんな)の周辺(あたり)を見廻す邪気の不審に仰け反り始めて、代替出来ない初春(はる)の芳香(かおり)は臭味(あじ)を忘れて驚愕している。俺の前方(まえ)から前方(まえ)へ這い出す不敵の〝邪気〟には静けさが在り、閑古の鳴く音(ね)が小さく小さく目方に依らずに畳まれ始めて、俺に纏わる女性(おんな)の形態(かたち)が何処(どこ)へ向くのも止(や)めて生く頃、形体(かたち)に成らない魅気(みき)の語りは延々流行(なが)れる幻夢に在った。既に堕ち行く端正(きれい)の形容(かたち)は女性(おんな)の色香(いろか)に絆されながらに、俺の目下(ふもと)へ小さく迷妄(まよ)える丹念(おもい)の陰りが初春(はる)を忘れて空転(ころ)げて生き抜き、〝電子〟に懐けぬ原始の四隅が俺の四肢(てあし)牛耳り出した。女性(おんな)の表情(かお)には無理を許さぬ純白(しろ)い主観(あるじ)が呆(ぼう)っと表れ、初めて相(あい)する男性(おとこ)の気味には自覚に対する不安の煽りが自分を忘れてふらふら舞い付く経過(とき)の繁茂(しげみ)に突っ伏すその内、端麗(きれい)に仕上がる女性(おんな)の気運(はこび)は男性(おとこ)の前途を見守ってもいる。幾様(きよう)に冴え抜く女性(おんな)の灯(あか)りは男性(おとこ)まで寄り、「明日(あす)」の愛撫を決して逃さぬ四肢(てあし)を曲げ行く叙述に活き生き、衰進(すいしん)し得ない味覚の王者は女性(おんな)に寄らせて自失して在る。苦労の絶えない生きる事への自活の末路は、俺の男性(おとこ)に余震を与える女性(おんな)の核(しげみ)に入魂した儘、旧びた床(タイル)に胡坐で落ち着く俺の形体(かたち)を形容(すがた)に見定め、懸橋(はし)の無いのを何度も観ていた「明日(あす)」への労徒(ろうと)へ邁進して行き、〝苦労畑〟の苦労の苗(なえ)には矮小(ちい)さく湧き出た人見(ひとみ)の主(あるじ)が燃えて立つ頃、俺と女性(おんな)の二人を照らせる陽(よう)の一途の紅色畑は〝夕日〟と呼ばれて逆立ちにある。

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 給食近くだったが、俺は腹が減っていた為、待ち切れなかったと言うのでもないが、先に、持参していた卵と肉とをフライパンで焼いて、一度食っていた。それ等は二度焼いた。食ったのが一度だけである。二度目は、旧友の山本が隣の席で、もうこれ食ったから給食は要らんわ、と言った俺に対し、ちゃんと食った方が良いで、と窘めて来てくれて、それは、昼時は昼時で、ちゃんと食った方が良い、と言うことを伝えようとしていた様(よう)であった。森初芽(もりはじめ)はその時にでも教室を出たり入ったりして居て落ち着かず、俺は森初芽とは、一度も喋らなかった。俺は誰とも体好く喋って居た心算(つもり)が、これと言って誰とも会話らしい会話をして居なかった。唯一憶えているのが、松居美由との、何処(どこ)へ行こうか、とドライブの話を何気にした時くらいである。

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 転々(ころころ)空転(ころ)がる稀有の成就を片手に取り次ぎ、女性(おんな)の居場所を散々捜した俺の吐息は悶々していて、足尾(あしび)の泣く音(ね)が束の間から観て端麗(きれい)であっても、男性(おとこ)のぎこちは一旦虚無へと失走(しっそう)した後真向きと相(あい)し、旧い寝屋から幻想(ゆめ)の許容(うち)へと遁走して往く旧い仕手から延命(いのち)を授かる。夢と現(うつつ)の一重(ひとえ)の許容(うち)には〝範囲〟に見得ない〝範囲〟が拡がり、寝転び切れない〝旧い王者〟は「心の王者」と交渉を保(も)ち、幻(ゆめ)の気構(かま)えに駁(ばく)を見果てぬ宙(ちゅう)の感覚(いしき)に衰退して往く。

 何度も何度も改行され生く人間(ひと)の余命(いのち)は悪態に鳴き、震え通せる身寒い人社(やしろ)は人間(ひと)の杜から元気を承け取り、凍えた四肢(てあし)は初春(はる)と見紛う小春日和の襲来に遭う。漆黒(くろ)い簀子が男女の仕手から構築され活き、文句(ことば)を失う華の色には女性(おんな)の無口が機敏に発(た)ち活き、隠し手にある男性(おとこ)の〝呼笛(あいず)〟の古い果(さき)には、文句(ことば)に成らない初夏(なつ)の足跡(あと)などすっかり居残る。霞を喰えない人間(ひと)に飼われた餓鬼の群(うち)から、小さく跳び出る蝮の漆黒(くろ)さが黄土の辛みを残骸(むくろ)へ遺し、果(さ)きの見えない旧い小路(こみち)を這(ほ)う這(ほ)う擦(す)られて脱皮を遂げた。蛇の生肌(じはだ)と黄土(じめん)の脚色(いろ)には、何にも採らない確かさが在り、通り抜けする晩夏(なつ)の小麦の女性(おんな)の呼吸(いき)から、自分の自滅にまったり近付く初春(はる)の酒宴(うたげ)が丈夫に気取られ、上辺を装飾(かざ)れる俺の文句(ことば)は仄(ぼ)んやりした後(のち)失(け)されて行った。過去を失う自己(おのれ)の過去から、生歴(きおく)の暴挙が並々溢れる私事(しごと)の狭間で、女性(おんな)の色香(いろか)を久しく慰め自慰に取り持ち、自分の肴にきちんと置くのは男性(おとこ)の気持ちに寂寥を呼び、久しく呼び得るmonkの共鳴(こえ)には純白(しろ)い精気が羅列に在った。踏ん反り返れる俺の背骨(しくみ)は仄かに曲げられ、女性(おんな)が意図する繁茂の丈夫に〝上気〟を見上げる血相を識(し)り、男性(おとこ)の生歴(きおく)と女性(おんな)の残骸(むくろ)が白骨(かばね)を観るまで自粛を儲け、旧い藪から女性(おんな)が出て来る間抜けな哀歌を吟じてあった。誰も彼もが女性(おんな)の呼吸(いき)するblow(ながれ)を見て識(し)り、現代人(げんだいじん)から現行人(げんこうにん)迄、俺の与する現行(いま)の主観(あるじ)が幻想(ゆめ)を平らげ再走(さいそう)するまで、華の盛りと辞世を詠えぬ脆(よわ)い血晶(しぶき)が飛沫へ跳び付き、俺の背後へ衰退して生く滑稽(おかし)な虚無へは未来が見得出し苦労に絶えない無言の発声(さけび)は、文句に絶えない潔白(しろ)い〝呼笛(あいず)〟を拾って在った。女性(おんな)の息吹が相乗りして往く巨躯の傍標(しるべ)は破天から成り、滑稽(おかし)な理屈は背後(あと)から軌跡(あと)から湧き出る様(さま)にて自己(おのれ)を刈り出し、初めから無い女性(おんな)の傍標(しるべ)と男性(おとこ)の愛には何も割かない端正(きれい)な規矩から四肢(てあし)が延び付き緩和を識(し)った。有言(ゆうげん)から産む女性(おんな)の照射(ひかり)は遮二無二飾った男性(おとこ)を取り込み、男性(おとこ)の口から喉奥迄へと、自分の愛液(ぬめり)を自由に操り波紋を保(たも)たせ、識(し)るも知らぬも初めに灯った空虚の〝呼笛(あいず)〟は自滅を見計(みばか)り、流行(ながれ)の押しから幸先羨む自動の〝立場〟を揚々干した。調子の外れる自活の空路が朝な夕なに夕餉を足らしめ、俺の還りを遅い経過に身構え待ち出す女性(おんな)の自力は成果を未(ま)だ観ず、俺の背後や遠い〝足場〟に量産して生く自体を睨(ね)め付け、過去にも「明日(あす)」にも決(け)して揮わぬ性(せい)の虚構(ドラマ)を連想している。脆(よわ)り果て往く現代人(ひと)の流動(ながれ)は経過を取り次ぎ、幻(ゆめ)を囲える自然(あるじ)の経歴(きおく)に自分達への労力(ちから)を睨(ね)め付け、根こそぎ奪える純白(しろ)い化身(かわり)は幻想(ゆめ)の両眼(まなこ)を気丈に窘め、現代人(ひと)に始まる女性(おんな)の感覚(いしき)は俺の足元(もと)まで届かなかった。

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 別に、美由と〝一緒に行こう!〟と俺が誘ったのでもなく、何気にである。向こう(美由の方)も一緒に行こうとか誰と行きたいとか、連れてって、等は一言も言わずに、恥ずかしがる何時(いつ)もの女の様(よう)に、二言三言喋りはするが唯黙って俺の顔を覗くばかりであった。俺が焼いた肉は厚切りのベーコンのようで、腹が減っていたので相応に美味(うま)く、一杯食って満足したかった。二度目に焼いた時、山本がそう(先述した事を)言い、俺は山本の優しさと誠実に少し躊躇した様子で〝もう腹一杯に成って来たけどな〟みたいな(的な)アピールを周囲に居た大体の人から見える形に呈して仕舞った。美由もそれを見逃さなかった。美由は体が小さい。俺が彼女を中学で見たその昔から変らず、その時にも、背丈がクラスの女子の真中(まんなか)辺りに居た小学校の頃の美由の印象を引き摺りながら、俺は彼女を愛して居たのかも知れない。否、同情だったのかも知れない。

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 大口(くち)の開かぬ無毛の夜伽の底部(ていぶ)に連なる、七つの満腔は厳めしくも在り、追い塞がらない幾重の邪気にも老爺(じじい)は連なる、見果てぬ文句を交互に言い出し、語り尽せぬ黄泉の廓を潔白(しろ)い帳へ陳列していた。文句(ことば)に負えない、蛇行して生く女性(おんな)の破目には、天下に報せぬ端麗(きれい)な言葉の千手が連なり、〝意味〟を成せない現代人(ひと)の両腕(かいな)が散らばる〝処女の晩器(うつわ)〟をくるりと直って静かに取り次ぎ、慌てふためく大口(くち)の多さは現行(いま)に見果てる陽(よう)の孤独に逆行している。

 純白(しろ)い磁器には目暗(めくら)の問屋が「始終」を失くして幻夢(ゆめ)を取り嗣ぎ、果ての見得ない夢想の行李を何処(どこ)へ向くやら、一色(いっしき)冴え得ぬ見方の幾多に新参して活き、現代人(ひと)の破片(かけら)を宙に堕として彷徨い続ける〝神器(じんき)〟の坩堝に嵌りを観て居た。へなへな萎え生く虚空の宙(そら)から藁を掴み、一切割けない生歴(きおく)の最中(さなか)を女性(おんな)の躰に標(しるし)を付け行く、旧い信者の孤独の糧など器用に仕上がり、永い四肢(てあし)を四隅に拡げる生歴(きおく)の宿りを自己(おのれ)に観ながら、誰の眼(め)にさえ触れる事無い悪魔の拍子が開拓された。漆黒(くろ)い〝神器〟が女性(おんな)の渋味に融合され活き、肢体(からだ)を画(え)にした漆黒(くろ)い静寂(しじま)に雲散する内、俺の疾風(はやて)は陰茎(ちんぽ)を生やして鋭く突っ込む未知の暗間(やみま)を上手に仕立て、女性(おんな)の匂いの〝何であるか〟を執拗(しつこ)く舐め行く新参を観た。果て得ないほど男性(おとこ)の性器は乱業して活き、行李しか無い〝意味〟の画(え)にさえ何等の波(わた)りが波及せぬ程、痛々しく在る膣の赤壁(かべ)には未練を居遺し、畳み始める自分の寝間には陰(かげ)の映れぬ夢想を干した。孤独顔せぬ味覚の順序は女性(おんな)の〝美由〟から後光を投げ取り、「明日(あす)」の肢体(からだ)を露とも識(し)らない処女の〝門(もん)〟には映り映えせぬ老爺(じじい)の不泣(ふな)きが夜毎夜毎に粘着して活き、ねばねばして生く太い腿(あし)には美由の老女が散行(さんこう)して居る。潔白(しろ)い逆走(もどり)は現行(いま)の今まで白色(しろ)い両眼(まなこ)に映り映え活き、頭角(あたま)を揺さぶる白い女手(なえで)を旧い経歴(きおく)に隠し保(も)つ程、〝併せ鏡〟の強い弱いを先行させ生く男性(おとこ)の逆鏡(かがみ)を雲散させた。遠い〝桃〟には鬢の立つほど女性(おんな)が仕上がり、春琴(こと)の音(ね)に立つ古い旋律(しらべ)を男性(おとこ)の両眼(まなこ)に強く棄(な)げ売り、派手を識(し)らない脆(よわ)い処女(おんな)が〝生き血〟を忘れて生き続けて在る。曇(どん)より日和の幼春(はる)の日の事、女性(おんな)に見紛う処女(しょじょ)の夕べは「明日(あす)」を気取れぬ気迫を投げ売り、男性(おとこ)同士がその実(み)を棄(な)げ打つ陽春(はる)に準(なぞ)らう巡礼を観た。

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 美由は、もう俺の近くに居た。警戒を少し解(と)いた様(よう)だ。森初芽は相変わらず出入りを始めている。山本はあれ以来無言だ。外は昼だったように思う。故に給食があって可笑しくない。美由は、俺の〝もうお腹入れへんわ〟のもうお腹一杯宣言を聞いた後で俺に近付き、俺が自家製の食卓(フライパン、白いやや小振りの皿がクラスの机上に在るだけの)から、白いブラウスに包(つつ)まれた手をさっと延ばして厚切りベーコンの一切れを取り、食べていた。

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 無口を嫌った俺に纏わるクラスの空気(くうき)は厚切り羽牟(はむ)から味方を寄せ取り、何時(いつ)か見果てぬ旧い古着を俄かに欲した表情(かお)で独歩(ある)いて、何処(どこ)へ向くやら見知らぬ柔らを文句(ことば)に伏し得る企画を練った。やがて夜毎に洗練され行く現行(いま)の現代人(ひと)から抜ける私財(たから)を、大の〝水面(みなも)〟で飢え続けて居る精神病者へ強く投げ売り、果ての見得ない余震の図太(ずぶと)を早く掌(て)にする味覚の繁茂を上々にした。相(あい)し合えない幼春(はる)の水面(みなも)の突貫工事は、強靭(つよ)く掌(て)にする私財(たから)の在り処を他己(たこ)へ問い込む精神病者の繁茂に狼狽え、暗(やみ)許容(うち)から静かに挙がれる人間(ひと)の悪魔に脆(よわ)い肢体(からだ)で慌て辿れる滑稽(おかし)な幼稚を確立させた。精神病者の男性(おとこ)の幼稚は宙(そら)に根深く吟味を唱える悪魔の内実(なかみ)を体現して活き、自己中極まる無能の愚直(おろか)にその実(み)を投げ込む、脆(よわ)り果てない強靭である。薄い間戸(まど)から久しく通える〝処女の生き血〟を男性(おとこ)が欲しがり、脆(よわ)い男性(おとこ)は現代人(げんだいじん)から幾様(きよう)に成り立つ精神荒らしを得意とした後、〝味覚〟に自己(おのれ)を散乱させ生く古い旅路を斬新(あらた)に観る儘、額面通りの機能の通りに、自己(おのれ)の脆弱味(よわみ)を男性(おとこ)から識(し)る〝けんけん踊り〟を未覚(みかく)に置いた。〝歯止めが無いのが歯止めに成る〟など、額面通りに脆(よわ)さに繋がる男性(おとこ)の奇異には、女性(おんな)の残骸(むくろ)に絶対挙がれぬ無垢の綻(ほろ)びが真横に並歩(ある)き、一色(いっしき)しか無い無垢の環境(まわり)は男性(おとこ)に寄り付き色褪せを知る。〝惨い歯止め〟に女性(おんな)の肢体(からだ)は赤身を識(し)らされ、空間(すきま)の目立てる膣の内実(なかみ)は男性(おとこ)を誘える優柔が在り、弄(あそ)び疲れた〝ねばねば液〟には女性(おんな)の意固地が奇妙に棄(な)げ得る徳の死滅が色褪せを乞う。啜り泣きする女性(おんな)の絵馬には経歴(きおく)が割かれ、〝併せ鏡〟で孤独を追い生く傀儡(どうぐ)の自身(おのれ)を垣間見た後、男性(おとこ)と女性(おんな)の幼稚な絵図から俄かに咲き得る幼春(ようしゅん)が発(た)ち、「蜂須賀語録(はちすかごろく)」が終ぞ観得ない現行(いま)の亘りに破局する儘、経過(とき)の報せる鉄壁から成る幾重の感覚(いしき)が妙に隠れる孤独の弄(あそ)びを〝夜毎〟に葬る。純白(しろ)い温床(ねどこ)は美由の内実(うち)から堂々蹴上がる〝写し文句〟に音頭を寝取られ、自由に萎びる旧い夜目(よめ)には男性(おとこ)に発(た)て得る白い女性(おんな)が、余程の計過(けいか)を盆六(ぼんろく)に置き、匂いの爛れた潔癖(くせ)の内実(うち)から死相を委ねた女相(にょそう)が挙がり、恍惚伴う男性(おとこ)の孤独は連夜に跨る性癖を見た。可なり併せた〝自由〟の許容(うち)から希望(ひかり)に萎え行く屍(かばね)を観る儘、〝如何(どう)でも好い…〟など決(け)して癒えない寡が急遽蔓延り、蔓延る我が身は女性(おんな)の美由からその気を横取る両刃(もろは)の陰茎(ペニス)を下野(しもや)に抱(だ)いた。宙吊りされ活く旧い〝梯子〟の下駄の内実(うち)から現行(いま)の現行(いま)まで未曾有に灯れる賢人(ひと)の蓮歌が詩吟に仕上がり、俗世(ぞくせ)に連なる下野(げや)の虚無から塗工を講じて蹴上がる幼女(おんな)は処女を忘れて女性(おんな)から抜け、脱皮して行く経過の虚無から内実(うち)を仕立てぬ浪曲(うた)を詠って、男性(おとこ)の足元(もと)から旅へ旅立つ〝夜毎の連鎖〟に埋葬され得た。柔い身内は〝液〟を零せる身軽の軟派に派生を識(し)り付け、慌て損ねた純(うぶ)の気持ちは女性(おんな)の丸味(まるみ)を屍(かばね)へ付け行く〝体裁仕立て〟の脚色に在り、総身を仕立てて自己(じこ)を呈する女性(おんな)の未罪(みざい)に股間を立てた。男性(おとこ)の律義は女性(おんな)から成り、常識ばかりの大口(くち)の内膣(なか)から如何(どう)でも仕切れぬ余韻が成り発(た)ち、女性(おんな)の連呼を股間に観るうち虚無と虚無とが合併して活き、慌て損ねた自然(あるじ)の木霊は突っ伏す間も無く死臭を投げた。女性(おんな)に与する死活の連呼の欲の最中(なか)には、無味を着飾る意味の範囲(うち)から常盤に棄(な)げ活く裂壁(れっぺき)が立ち、経過(とき)の流行(ながれ)に自然(あるじ)の思惑(こころ)が無為に訪れ女性(おんな)の小口(くち)から頭角(かしら)を見付ける〝酔虎(すいこ)〟が出る時、男性(おとこ)の環境(まわり)に小さく灯れる未覚(みかく)の憂慮に与した夜明(とばり)は、俺の目前(まえ)からすっと解(ほど)ける二局(ふたつ)の〝呼笛(あいず)〟を放(ほう)ってあった。帳(よとぎ)の降りない二人の背の内、ぴたりと放(ほう)った二局(にきょく)の連想(ドラマ)は、独創(こごと)を交えて連呼するうち如何(どう)にも〝経過(けいか)〟が惜しく成り出し、俺に縋れる美由の体温(ねつ)には〝苦労〟の止まない小さな連投(ドラマ)は遠くの周辺(あたり)へ還って行った。俺と美由には臭味に伴う人間(ひと)に操(と)られた臭みが在って、陽(よう)の灯(とも)りが宙(そら)から降(お)り出し何気に捕えた二局の〝古巣〟は数える間も無く無重の乱舞を宙(そら)へと観る儘、小鳥の鳴かない迷妄(まよい)の懐(うち)へと羽を拡げて踊(かえ)って行った。二色に彩(と)られた男女の脚色(いろ)からふんわり成り立つ不思議な極(きょく)へと俺の眼(め)が活き、無駄に割かせぬ身寒い主観(あるじ)は自然に失くされ幻(ゆめ)まで入(い)って、浮浪者にも似る拙い脚色(いろ)へとその実(み)を掲げて独歩(ある)いて行った。俺の周囲(まわり)は両親(おや)も寄らずに知己も寄れない神秘(ふしぎ)の園(その)へとその実(み)を成らしめ、男女の功(こう)から脱却して生く男性(おとこ)の姿勢(すがた)を俺へと投げ遣り、現代(いま)に生き得る現代人から何も採れない旧い手腕(かたち)を自生へ取り付け、「明日(あす)」への延命(いのち)を踏襲して生く背高(のっぽ)の主観(あるじ)にその実(み)を操(と)られて、自ず周辺(あたり)に近付けないまま自滅の暮らしを余程織り成す「孤独の聖(せい)」なる二局の主(あるじ)を、俺の感覚(いしき)はほらほら見付けて雑言(ことば)を説いた。

 女性(おんな)から出る小さい〝古巣〟が人間(ひと)の目を見て逃げ生く頃には俺の息吹に滅相盛られる深手の新種も稀有の景色に器用に巻かれて何気も操(と)れ得ぬ宙(そら)の亘りを踏襲する儘、二手(ふたで)・一手(ひとで)に一色(いっしょく)託せる不気味の音頭に身を寄らせて活き、白色(しろ)い壁には男女の元からすっかり挙がれる現行(いま)の寝言がぴしゃんと打たれ、慌て損ねた俺の集積(シグマ)は未明に破れる正義の意識をすっかり根俯瞰(ねぶか)り機敏に破れる思惟の規矩への自活を立てた。自業自得に自活を重ねる俺への連鎖(リンク)の自然な意図には、俺を発(た)たせた小さな宙(そら)への不敵の埋葬(シンク)が〝鉄砲水〟から危難を逃れて、渡り損ねる人の主観(あるじ)の由(ゆえ)の観得ない確かの〝古巣〟に、二度と成らない人間(ひと)の信就(しんじゅ)の翳りが遺され、黄泉の忘郷(くに)から密かに挙がれる余程の化石を信念に見た。人間(ひと)の呼吸(いき)から〝自由〟を識(し)らせる〝努力〟を識(し)らない現代人(ひと)の渦中(うず)には、俺の感覚(いしき)を遠く離れた物の言えない奴(やっこ)が片付き、「文学作品」、「文芸作品」、「傑作作品」、「不浄の作品」、「藪から作品」、「蓮根作品」、「霊魂作品」、「雛形作品」、「男の作品」、「女性(おんな)の作品」、「明日(あした)の作品」、「昨日の作品」、「苦労の作品」、「人間(ひと)の作品」、等々、等々、怒涛の如くに世間へ漏れ出て俺の感覚(いしき)を通過せぬまま秘蔵の玄武を巧みに掲げる、矮小(ちい)さき〝古巣〟の波紋(なみ)から寄るが、知識限りで何も解り合えぬ尻切れ蜻蛉の偉人の姿勢(すがた)が現代人から幾様(きよう)に仕上がり、蹴上がる一重(ひとえ)の自尊に観られる人間(ひと)の主観(あるじ)は、でっぷり肥った肥えた瞳(め)をして作為を棄(な)げ遣り、何も気取らず分らず仕舞いの鉄壁(かべ)に詠まれた生気を目にして、血色盛(けっしょくさか)えぬ〝苦労の主(あるじ)〟に衰退して生く独我(どくが)を見ながら自身を失くせる、無益の〝尺度〟を鑑定していた。白紙の上には何も並ばぬ人間(ひと)の想像力(ちから)の衰退が在り、物見の体(てい)して去来を計れぬ無為の集体(シグマ)に独自を飾らせ、自分の旧巣(ふるす)を世代に問えない無駄の努力を散々馴らしめ、挙句の果てには、身分の生き得た牙城(とりで)の進歩が経過(とき)に着かない永久(とわ)に流行(なが)れる〝進歩〟を観ながら永遠から成る蛇走(だそう)を採った。個人(ひと)の独我(こどく)は他(ひと)に問えない永久(とわ)に有り付き、幻夢(げんむ)の身元に血相化(けっそうか)え得る個人(ひと)の脚力(ちから)に大きく重なり、人間(ひと)の〝進歩〟へ効果を挙げ行く永久(とわ)の軌跡は「ぽしゃん」と鳴って、俺と他(ひと)との経過(けいか)の流動(ながれ)を永久(とわ)に築ける詠う文句に記して在った。子供の産声(こえ)から蛙(かえる)の鳴声(こえ)まで微妙に挙がれる稀有の音色(ねいろ)が周辺(あたり)を交響(ひび)かせ、俺の前方(まえ)へと遠く成り行く大山(やま)の頂(うえ)から小さく成り立つ木霊が返り、男・女(だんじょ)の仕立てた〝堕落の途次(みち)への大きな進歩〟が俺の背中(からだ)を強靭(つよ)く押し行き、誰にも何にもめったに止(と)めれぬ未覚(みかく)の主観(あるじ)を障子に隠す。気持ちの逸れぬ他(ひと)に対する期待の程度は何をするにも俺へと近付き、余命(いのち)を識(し)らない旧い生歴(きおく)に俺の吐息は寝返り打ちつつ自分に操(と)れ得ぬ神秘(ふしぎ)の〝音色(ねいろ)〟を樞(ひみつ)へ遣って、何にも問われぬ過ぎた文句の惰勢(だせい)の岐路には、俺の生歴(きおく)の想いに着かない紺(あお)い感覚(いしき)が仰向けに寝る。…―――。

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 俺は〝…こりゃ残念、…〟とか思いきや、自分で〝腹一杯〟なんて言い出したんだから仕方が無い、と諦めて美由はちょくちょこ会話し出したように思う。俺が〝何処(どこ)へ行きたい?〟と言うような旨の事を聞いたら「華厳の滝」と美由が返答していたような場面が残っている。俺は唯美由と付き合えるかも知れない、として嬉しかった。下心も在った。

      *

 所々で応対して生く俺と女性(おんな)の関係(もよう)の前途は、即発前後の奇妙に掛かれる不要の文句を俺へと取り付け、人影(かげ)の足元(ふもと)に業を煮やせる人の前途の悪しきであって、俺の感覚(いしき)は現代人(げんだいじん)から浮遊に成り立つ〝価値観〟等には捕われないまま現代人(ひと)の嫉妬は宙(そら)に降り止む〝塵溜め〟へと活き、肥えた眼(め)だけを肥えた体感(からだ)に異様に取り持つ人間(ひと)の進就(しんじゅ)に足踏みして居り、初夏(なつ)の清閑(しずか)に値踏みして生く〝旧巣(ふるす)の王者〟へ貫禄着せつつ、自尊(おのれ)の前途を按じて止(や)めない無駄の労苦に往退(おうたい)していた。他(ひと)の〝迷路〟と解け入る間の無い不意の主観(あるじ)に空気(もぬけ)を操(と)られて俺に仕上がる路前(ろぜん)の空慮(くうりょ)は身分の目下(ふもと)に自分を呼べない徒労の走駆(そうく)に前退(ぜんたい)して居り、遮二無二噛まない俺と他(ほか)との自尊(じそん)の写容(かたち)は〝向き〟を定めぬ主観(あるじ)の化身にその瞳(め)を棄(な)げ向け、「明日(あす)」の翳りに未完(みじゅく)を発する体温(ねつ)の在り処に豊穣を観る。現代人(ひと)の男・女(だんじょ)が俗世(このよ)の砂利(じゃり)など足場に置く儘、何故(なぜ)にそうして生きて在るのか皆目気取れぬ俺の主観(あるじ)は、元も子も無い夜目の目下(もと)から自然に跳び立つ瞬間(とき)の迷妄(まよい)に不純を観るまま短身痩躯にげんなりして生く独創(こごと)の痩躯を推察して活き、俗世(このよ)の限界(かぎり)を男・女(だんじょ)とし得ない〝不向き〟の声量(こえ)から「自尊」を準(なぞ)られ、現実模写する仮想の規律(おきて)は自分の〝古巣〟を立派に気取れる〝幽体離脱〟を繰り返している。俺の身元を潔白から観る自然(あるじ)の気温(ねつ)には平等が在り、失敗続きの奈落の目下(もと)から幾様(いくよう)に成り人間(ひと)を気取れる〝古巣〟の温度を横幅に見て、結託し得ずの他(ひと)と自然(あるじ)の千葉(ことば)の手許(もと)には、何にも問えない人の主観(あるじ)が〝げんなり〟から成る夢幻を追った。元を正せぬ人間(ひと)の樞(ひみつ)に自然(あるじ)が目掛けた途方が成り立ち、呼吸(いき)に蹴上がる人間(ひと)の活気は路頭に迷える不意の水面(みなも)を未完(みじゅく)に着忘れ、無限を投じた根深(ねぶか)の杜には、現代人(ひと)の男女が結束出来ない無為の欠伸が萎びて在った。二局(ふたり)の女子から生気を忘れた活気が蹴上がり俺の目下(もと)へは何も遺らぬ男性(おとこ)の生歴(きおく)が妄進(もうしん)して在り、一気に長けない長寿の水面(みなも)の波紋(なみ)の揺れには、昨日の家屋に悠々観ていた夢残(むざん)の叱咤が横並びに在る。過去の感覚(いしき)が俺の生歴(きおく)に膨(おお)きく掛かり、空気(もぬけ)の暗間(やみま)に〝人間(ひと)〟を仕上げる経過(とき)の速差(はやさ)の穏滞(おんたい)が在り、類(るい)を呼べない俺の背に在る肩書にはもう、現代人(ひと)の男・女が活きて行かない〝奇妙の主観(あるじ)〟が殲滅していた。両親(おや)の未完(みじゅく)に活きない小人(こども)は女子の脆差(もろさ)に悪態を吐(つ)き、帳の降りない陽(よう)の向きへは経過(とき)を報さぬ男・女の遊戯の凡退を識(し)り、気風の向きにて自己(おのれ)を仕向ける諸実(もろみ)の幻(ゆめ)には他(ひと)の想いが一切届かぬ〝遊戯〟の戯曲に自活(かて)を見張って、斬新(あらたし)きを見て斬新(あたら)しきを観ぬ現実(かたち)の檻(かこい)に透れて在った。現代人(びと)に産れた男女の容姿(すがた)は仮想に止まない現実を観て、独歩(ある)き方から眠り方まで手取り足取り〝向き〟を乱さぬ不毛の規律(おきて)に追従(ついしょう)する儘、闇雲紛いに作為を巡らせ斬新(あたらし)きを得る無毛の遊戯に沈殿して活き、拙さ地獄の感性から得る不毛の輪舞曲(ロンド)を完成していた。暗(やみ)の静寂(しじま)に作為を掲げて寝込む主観(あるじ)を、他(ひと)の掌(て)に観て斬新(あたらし)きを識(し)り、陽(ひ)の元識(し)れずの人間(ひと)の呼吸(いき)から仕上がる孤独を、〝寝耳に水〟との古びた文句(ことば)で下等に蹴上がる尽力を保(も)ち、俺の目前(まえ)から端麗(きれ)いすっかり満ち満ち堕ち生く下郎人(げろうにん)へと姿勢(すがた)を変え生く、口を開けぬ矮小(ほそ)い器物が男・女(だんじょ)と成った。俗世に蔓延る現代人(ひと)の群れから泡(あわ)を吹き生く男女が仕上がり、現代(いま)の目下(ふもと)で未来(さき)に目を遣る傀儡(どうぐ)の〝生き血〟が愛液とも成り、男性(おとこ)の野心(こころ)は女性(おんな)の体躯(からだ)を惨く犯せる邪心を愛する〝浮き沈み〟を観て、他(ひと)の〝功(こう)〟へと嫉妬を築ける暗(やみ)の使者へとその実(み)を挙げた。

 東邦(ひがし)の花園(その)から空風(からかぜ)にも似た二心(にしん)が仕上がり、蹴上がる間も無く男・女(だんじょ)の二心(こころ)がその実(み)を犯せる稀有な軽身(かるみ)をその掌(て)に素納(すおさ)め、向きを定めぬ無風の涼風(かぜ)さえその実(み)を飛ばせる平々(ひらひら)煌く男女を挙げた。仮想の岐路から現実(あたり)を壊せる架空を持ち上げ、自分の木霊を背伸びの呼笛(あいず)に男・女(だんじょ)の規律(おきて)をぐうっと押し遣り、〝未来世紀〟にその輪を描ける空慮(くうりょ)の内実(なかみ)に埋葬された。そうして埋まった現代人(ひと)の心身(からだ)は男女の経歴(きおく)に矛盾を識(し)る内、次第々々に睡魔に襲われ、宙(そら)を根元(ねもと)に矛盾を着飾る花園(はな)の生気へ嫉妬を保(も)つ儘、東邦(ひがし)から出た男性(おとこ)の主観(あるじ)は正体(からだ)を見せ付け解体して居た。幻(ゆめ)の行方を何処(どこ)へ彼処(かしこ)へ置き去る儘にて俺の肢体(からだ)は俗世(このよ)を離れて自然を見下し、これまで識(し)り得た数多の人影(かげ)から遠く離れた異境(いきょう)へ着いた。これまで俗世(ぞくせ)で煩悩(なやみ)の手数(かず)から肢体(からだ)を活かし、掴み損ねた理想(おもい)の頭数(かず)には叶え切れない俺と他(ひと)との斡旋が在り、俺の環境(まわり)はがらがらがらがら、音に聞える〝藻屑の大海(うみ)〟へとその実(み)を濁らせ、遂には待てない自然(あるじ)の表情(かお)から苦味(にがみ)が消え行く。俺の周囲(まわり)の男性(おとこ)も女性(おんな)も幻(ゆめ)の最中(さなか)に解体され活き、孤高に象(と)れない軟弱(よわ)い蜷局(うねり)に盲目を識(し)り、俺が育成(そだ)てた自然(あるじ)の立場は嫉妬を呑み込み闇へと失(き)えた。如何(どう)にも周囲(まわり)が圧倒され行く世間(まち)の歪(ひずみ)に凡六(ぼんろく)を識(し)り、軟弱(よわ)さを見限る旧い魔の手は俺を取り去り暗黙に在る。強靭(つよ)い女性(おんな)が俗世(このよ)の規律(おきて)に推薦され得て俺の前方(まえ)へと淡い容姿(すがた)で佇み始め、黄色い夜明けが〝夕焼け小焼け〟を魅せる間(あいだ)にほろほろ崩れて、誰の瞳(め)にさえ希望(ひかり)が見得ない軽い運気を獲得していた。自分に赴く身軽の景色が雷鳴とも鳴り、俺の脆弱(よわ)さを暗(やみ)へ葬る拙い覚悟がぼんくらを識(し)り、腰掛け程度に身分を保(も)てない野心の火蓋は、喉の涸れさえ潤さない儘、次回(つぎ)の用地へふらふら独歩(ある)ける独学を識(し)る。潔白(しろ)い気色が女性(おんな)の身を借り俗世(このよ)へ訪れ、俗世(このよ)の諸刃(やいば)に肩を組まれて認められ活き、俺に見得ない空地(あきち)の巣箱にその実(み)を置き去り、俺と他(ひと)とに永久(とわ)に流行(なが)れる苦行の晴嵐(あらし)を充分着飾る。博士と称する懶惰無頼に重心重ねて跳躍して生く、未知に阿る稀有の幻想(ゆめ)から、現行(ここ)に通れぬか弱い音頭を逆さに擡げて、俺が活き生く旧い聖地へ照明(あかり)を差す儘、この手あの手で、夜目の利かない支流の流行(ながれ)に衰弱して生く。〝自称〟ばかりが運行して生く俺に詠まれた〝懶惰称言(らんだことば)〟は、男性(おとこ)と女性(おんな)の誰をも射止めず古い叫(たけ)びにその実(み)を乗り出し、楽(がく)を着せない自称の強靭差(つよさ)に〝白色〟を観て、強靭(つよ)い女性(おんな)の微睡む姿勢(すがた)に突進して生く身軽の空転(ころび)に黙祷している。俗世(このよ)の知識を全て置き去り、〝身軽〟に熱情(こころ)を通わす俺には、果ての見得ない知識の白壁(かべ)から自然色(いろ)が絡まる陽光(あかり)を捕え、自分の藻屑と〝大海(うみ)〟の藻屑が識別されずに暗転(あんてん)するのを、黙って観るよりほかに術無く、固差(かたさ)を識(し)れない自分の諸刃(もろは)と俗世(このよ)の諸刃(もろは)の苦慮に自己(おのれ)を曝け出す儘、転々(ころころ)暗転(ころ)がる白雲(くも)の狭間(すきま)へその実(み)を棄(な)げた。霧と靄とが俺の背中へ転がり出す程、他(ひと)の自然(あるじ)は透明色した身形を割き出し、余り識(し)られぬ可弱(かよわ)き幻想(ゆめ)への跳躍等から、奥家(おくげ)の無いうち自己(じこ)を着飾る無為の化身(からだ)へその身を並べ、俺の文句(ことば)は宙(そら)に舞い往く他(ひと)の影響力(ちから)に溺死を遂げた。〝アルキメデス〟の旧い千葉(ことば)に俺の精神(こころ)は仄(ぼ)んやりを知り、俗世(このよ)に泥濘む他(ひと)の泡(あぶく)にその身を避(さ)けさせ、〝世渡り上手〟の不運の仕手には透明色(いろ)の透れぬ発狂(くるい)の主観(あるじ)が終着している。夜毎の御伽に俺の精神(こころ)は酔狂し始め、他(ひと)の人形(かたち)をうっとりするまま忘却に記(き)し、人工照(あかり)の差せない人形(ひと)の人影(かげ)への無数の奉仕は、教習(ドグマ)を見知らぬ俺の挑みを待ち続けている。男性(おとこ)と女性(おんな)の暗い郷里の真中(まなか)の許容(うち)から、内実(なかみ)が解(と)けない得手の記憶が散々棄(な)げられ、漆黒(くろ)い幻夢(ゆめ)から真逆(まさか)に転がる規矩の固さは軟弱を識(し)る。自分に象(と)られた新たな地位からこの身が仕上がり、俺の識(し)れない他(ひと)の常識(かたち)が数多の規律(ルール)を散々掲げて、俺が活き得る小さな〝島〟まで大変小さく縮小させ行き、華を奪(と)るのは身分高(みぶんだか)にて、俺の欠伸は微睡む間も無く幻(ゆめ)を見始め、寝屋の許容(うち)から真面に出て来る本気の幻想(ゆめ)だけ、後生大事に記憶に灯せる夢の旅路の目録とした。肢体(からだ)の温味(ぬくみ)が寝屋の裾から逃げて行く頃、俺に彩(と)られた霞(かすみ)の幻(ゆめ)には仄(ぼ)んやり灯(あか)るい浸透が在り、通り縋りの人間(ひと)の幻(ゆめ)には他(ひと)の主観(あるじ)が決して割かない苦労の種火が横殴りに在る。身体(からだ)の長さを猛(た)けて照輝(てか)らす他(ひと)の長差(ながさ)は有頂を極め、俺の心中(こころ)の人間(ひと)の長差は他(ひと)の温味(ぬくみ)に結託せぬ儘、自然(あるじ)の目下(ふもと)で肢体(したい)を侍らす無頂(むちょう)の照輝(てか)りに心酔して居た。人間(ひと)の経歴(きおく)に歪曲(ゆがみ)を識(し)る儘、俺に彩(と)られた幻(ゆめ)の畝(うねり)は唸りに任せて自体を腐らせ、加減の利かない旧い自然(あるじ)の表情(かお)の許容(うち)には、無暗に解(と)けない人影(かげ)の緩みが轟音(おと)を響かせ突進して来る。自然(あるじ)の脅威に光明(ひかり)を観るまま俺は斃され、自分の〝畑〟に蹴上がる音頭は宙(そら)の果てへとその実(み)を絆され、文字が出来行く時系(じけい)の遅延(のろ)さに小首を傾げて〝惨(まい)った〟して居る。幻想(ゆめ)の初出(いろは)は健気な照灯(あかり)に雑言を観て、仕方の無いまま自分に生れる嫉妬の強靭(つよ)さを如何(どう)する間も無く伸びに和らげ、漆黒(くろ)い悪夢が散乱して行く未明(あか)るい輪舞曲(ロンド)を催し始める。

      *

 このクラスへ辿り着く前に俺は神の園のO・Tの介護をしていた。Nが何時(いつ)もの〝神の園でのベテラン風体〟を見せつつ、狭く広い場所を陣取って、不変に誰某の介護をして居る。俺はその光景・情景に対し何も言えない。唯、空気を見ているだけである。その空気(ながれ)が動いた。O・Tが大熱を出して苦しんでいる、というのである。何でも風邪を引き拗らせた、とかで取り分けウィルスに感染したとかではなさそうであり、しかしそれでも、御飯を食べられぬ程に弱っている、と言う。俺はそこで特にする事が無く気不味かった為、Nとその時近くに居た看護婦の松居(ベテラン看護婦のMの声をしている)に声を掛け、O・Tの所へ行って看病させて欲しいと直談判し、その様(よう)に成った。O・Tはこれまで見て来た老人特有の無感覚をその時でも呈して居り、案外きょとんとした表情を以てベッドの上で上半身だけを起こして起きて居り、他の患者さんらも居た。利用者と言うより患者さんだった。

      *

 丸い目下(ふもと)に紅く塗られた老人が在り、俺の幻(ゆめ)には打ち解けられない無憶(むおく)の絆が空気(もぬけ)の殻にて微妙に絡まり、熱い情念(おもい)の欲に駆られた俺の努力(ちから)は、何の無為にも決して敗けない孤独の行者を歓待している。人間(ひと)に象(と)られて隠し切れない個人(ひと)の脆さは、空間(すきま)の暗(やみ)にも打ち解けられない端正(きれい)な寝床を準備し始め、苦労の絶えない俗世(このよ)の向きからその身を呼び止め、衰退し得ない陥落遊戯にその実(み)を任せる。委ねられ得た俗世(このよ)を見限る俺の幻想(ゆめ)には、耄碌して生く自然の主情(あるじ)が表情(かお)を火照らし、俺の躰の熱くなるのを宙(そら)へ飛ばされ浮んで眺め、結局陥(お)ちない幻(ゆめ)の惑いに乱行(らんこう)する内、端麗(きれい)に瀬掛かる夢路の流行(ながれ)は、歪曲して行く俗世(このよ)の空気(もぬけ)を同格に観た。俺の得手には女性(おんな)に依存(たよ)れる中毒が在り、中々如何(どう)して活きて行かない自然(あるじ)へ対する蟠りが在り、精神(こころ)の旧巣(ふるす)が俺の万葉(ことば)に狂い咲くのを純白(しろ)い文句(ことば)を開拓する内、端正(きれい)に仕上げてその実(み)を寝かせる夜目に向かせた熱気が在った。ぶらぶらして居る人間(ひと)の〝刃止(はど)め〟は幻(ゆめ)を語らず、俺に対する黄昏時には身分を問えない旧い習慣(ぱくり)がその大口(くち)を開(あ)け、地割れして行く俗世(このよ)の脆差(もろさ)を解体する内、如何(どう)にも懐かぬ他(ひと)の未完(みじゅく)の従来を識(し)り、俗世(このよ)の空間(すきま)に息衝く両腕(かいな)を知らず知らずに確認する儘、自分の余命(いのち)がそこで暮らせぬ未完(みじゅく)な常識(かたち)を形成していた。知恵遅れの者、精神乱行・薄弱気質、発狂者、自分の居場所を象れない者、蝙蝠の者、獣の者、自分の地位にて胡坐を掻く者、自分に気付けぬ私財(たから)を忘れて小鳥と宙(そら)にて詠い生く者、静かな眠りに欠伸を識(し)る者、無為の意識にだんまりする者、無為の感覚(いしき)に神秘(ふしぎ)を観る者、幻想(ゆめ)の行程(みち)にて自己(おのれ)を識(し)る者、明日(あす)の塒へ跳び発(た)ち生く者、紺(あお)い宙(そら)にて人間(ひと)を下す者、空気(もぬけ)の主観(あるじ)に剣(けん)を識(し)る者、人間(ひと)の弄(あそ)びに興じ耽る者、…、…、…、…、…、…、…。文句(ことば)の限度(かぎり)に尽せないまま色んな悪事に加担して行く暗(やみ)の無頼(たより)にその実(み)を宛がい、自分に望めぬ当の主観(あるじ)は自然の神秘に未覚(みかく)を認(したた)め、自己(おのれ)の独歩が幻(ゆめ)の途次へと照灯(あかり)を識(し)る儘、夜へ還らぬ精神(こころ)の帳に自分を置き遣り未完(みじゅく)を報せぬ永久(とわ)の迷路に浸透して活き、精神(こころ)の浮きから申命さえ見る夜気(よぎ)の陽光(あかり)にその掌(て)を統(な)べた。

      *

 そこはまるでICU(特別集中治療室)の様(よう)で、やや厳粛な気持ちを携え、俺も滅多な事が出来ず、そこで、そのICUの係りの人かNか看護婦松居かに言われた事だったか、O・Tさんが御飯を一口も食べない、と言う彼女の状況が良く光り、俺はそうした彼女の介護を買って出る事を希望し、O・Tに食事を食べさせて、少しでも俺が凄い処を周囲(まわり)の者達に見せ、〝流石…〟等と言われながら、優越感に浸りたかったのである。

      *

 無駄に醒め行く孤独の様子は、他(ひと)の表情(かお)から自分の温味(ぬくみ)を勝手に退(ひ)かせる適度な余韻(あまり)を俺へと差し向け、俗世(このよ)の呼吸(いき)から呼吸(いき)を退(ひ)かない俺の無想(ゆめ)へと退却している。俗世(このよ)に象(と)られた〝優越感〟には俺と欲芽(よくめ)の狭筵(むしろ)に突き出た触覚を観て、身寒い映りに感覚(いしき)を割かせる苦慮の晴嵐(あらし)に孤独を携え、他(ひと)の独歩を宙(そら)へ延び行く懸橋(はし)の上から幻想(ゆめ)を傾け真下に見ている純白(しろ)い主情(あるじ)にその実(み)を暖め、初春(はる)の晴嵐(あらし)は自分の身元を明かしながらにそこまで来ている、丁度番(つがい)の体裁を得た。初春(はる)と晩秋(あき)から、しどろもどろに汚れ始める雨季を避け得た万葉(ことば)の妙味は、幻夢(ゆめ)の〝無駄〟へと蔓延れないまま未完(みじゅく)に仕上がる白色(しろ)い両腕(かいな)に、到底そのまま解(と)け入る事無い他(ひと)の幻夢(げんむ)に人工照(あかり)を遣る儘、潔癖から観る塗工の温瞬(ぬるま)に機敏を重ねる男性(おとこ)の雄姿に称賛していた。凝(こご)りを忘れた夜目(よめ)の旧巣(ふるす)の滑稽(おかし)な風紀は、他(ひと)に彩(と)り得ぬ軽い音頭にその実(み)を馴らされ、果ての観得ない宙(そら)の真中(なか)から紫陽(しよう)に絶えない陽光(あかり)の連射をその掌(て)へ牛耳り、掴み損ねる幾度の努力の徒労の末には、俺と他(ひと)とが結託し得ない無毛の輪舞曲(ロンド)が延々交響(ひび)ける遅延を重ねた現行が在る。無駄に跳べずに無益に成らない選抜(エリート)達から屈曲して行く、土葬に塗れた虚無の数多は、人形(ひと)の傀儡(どうぐ)にその身を遣わせ陽光(あかり)の差さない永い廊下を現行(いま)に固めて天井を張り、宙(そら)の懐(うち)から降り行く礫を軟く凌いで〝ぶらぶら歩ける孤高の遊楽園(パラダ)〟を結成していた。暗宙(そら)から降り行く軟い砂礫(つぶて)を凌げる道具は人間(ひと)へと破れ、個人(ひと)の独歩(あるき)は梁(はり)の許容(うち)から次第に突き出て外界を識(し)り、宙(そら)の暗さを温々(ぬくぬく)見果てる強靭(つよ)い自然(あるじ)に泥濘(ぬかる)み打った。人間(ひと)に差し行く甘い夢路(みち)には温(ぬく)い人脂(あぶら)が其処彼処に満ち、滴る汗から〝華〟が湧き出し、人間(ひと)の労苦を包(つつ)み始める古来(むかしながら)の楽園が向き、男性(おとこ)も女性(おんな)も徒歩に凌げる進歩の脅威を真っ向から観て、ずんずん解け出す六(ろく)の興味は俺に奪(と)られて物憂さを識(し)る。人間(ひと)の両脚(あし)には泥濘(どろ)の数滴(しずく)が飛散している潔白(しろ)い廊下が延々延ばされ、囲いの外界(そと)には檻(うち)に見得ない神秘(ふしぎ)の樞(ひみつ)が飛散して居り、空虚に解(と)けない未完(みじゅく)に解け行く人の成就に文句(ことば)を囃さぬ俺の孤独は、俗世(このよ)で見過ぎた人間(ひと)の酒宴(うたげ)を散々見下せ無謀を識(し)った。形式(かたち)の見得ない俗世(ぞくせ)に活き行く他(ひと)の呼吸(いき)には、人間(ひと)の生身に臭味を迷わす強靭(つよ)い希望(ひかり)が躰を流動(うご)かし、俺と他(ひと)との共有出来ない透明色した檻(かこい)を仕上げて微妙に突っ立つ淡い夢路を全て平らげ、俗世(このよ)に吟味(あじ)わう人間(ひと)の妙味を全て壊して平らに消し生く現代人(ひと)の不様を寵愛して居た。

      *

 O・Tは確かに食べなかった。そこでICUの係りの看護婦に〝スープなら飲めるでしょうか〟といった旨の事を尋(き)こうとした処で結局返答(こたえ)が返って来ず儘、夢から覚めた。

      *

 「恋」の周囲(まわり)に俺に見慣れた旧い言葉が旋回していて、俺の前方(まえ)では多くの文句(ことば)が女性(おんな)に紛れて煩悶している。俺の〝今後〟は何処(どこ)へ向くのか解(かい)していながら、必要程度に独歩(ある)く姿勢(すがた)は何処(どこ)ぞの雄姿にちょいと似て居り、初めから無い幼児(こども)の当てまで、紺(あお)い宙(そら)へと密封された。事業(こと)を成すのに女性(おんな)の軽さが要らなくなって、汚物に見立てた女性(おんな)の体裁(かたち)は不問に紛れた乖離を識(し)り抜き、慌てふためく態度(すがた)を携え、俺の現行(いま)から果して見得ない郷里の暗(やみ)へと消されて行った。女性(おんな)の文句(ことば)は身軽に飛び立ち、身軽が過ぎ活き〝意味〟を成せない空洞を識(し)り、自分に象(と)られた既成の主観(あるじ)は自然の流動(ながれ)も〝意味〟に寄らない女性(おんな)の正義に伽藍を識(し)った。漆黒(くろ)い蛮(ばん)には女性(おんな)に奪(と)れない〝旧い労苦〟が沢山浮び、そうした〝旧さ〟は男性(おとこ)の独創(こごと)に端を発する平行上へと弛緩を観て居り、周辺(あたり)に咲かない脆弱(よわ)い源(もと)へは男性(おとこ)の労苦に全く添えない〝女性(おんな)の身軽〟が怜悧に満ちた。地上から観た宙(そら)の主観(あるじ)は遠くの宇宙差(くろさ)を盤にしながら俺と個人(ひと)への斡旋校異にその実(み)を分けさせ、現行(いま)の流行(ながれ)を決して解(と)かない強靭(つよ)い柔身(やわみ)を完全(きれい)に挙げた。拙く流動(なが)れる人間(ひと)の落ち度はまったり漂い、漆黒(くろ)い肌理には個人(ひと)の咲かない柔い〝晴嵐(あらし)〟が充分添え立ち、何も問えない淋しい気質が人間(ひと)の両眼(まなこ)に雲散して在る。霧の晴れ間に一瞬覗ける〝人間(ひと)の八頭(おろち)〟が不純に上げられ、個人(ひと)に彩(と)られた〝生きる上気〟が永久(とわ)に流れてぽつんと落ちた。八頭(おろち)に見られた一つの無駄から、人間(ひと)の完成(みなり)が一つ削げ落ち、〝八頭(おろち)の雄姿(すがた)〟は〝透明色〟して文句(ことば)を囀る。潔白(しろ)い〝宮〟には女性(おんな)の吐息が老婆を見立てて紺(あお)く投げられ、俺の背後に酔狂して行く無適(むてき)の集成(シグマ)が随分積まれ、独歩(ある)き疲れて失走(はし)り損ねる旧来(むかし)の連鎖(ドラマ)が一つに連なり、自ず歪(まが)れる無白(むはく)の根拠を理解に据えた。理解の成らない人間(ひと)に象(と)られた煩悩(なやみ)の土台(うえ)には個人(ひと)の歩ける自然(あるじ)の目下(ふもと)が自然に朽ち果て老朽するのを、俺の背後は丈夫に認めて発進して活き、〝苦肉の策〟から理性を愛せる稀有の転(まろ)びに共鳴して生く。老婆に扮する女性(おんな)の色気が仰け反る瞬間(ころ)には、俺に奪(と)られた黄泉への途次(みち)には不問に縛れる諧謔が発(た)ち、女性(おんな)が遺棄した〝伽藍〟の無垢には一切切れない悠長が在り、途切れ途切れに粉砕され行く、個人(ひと)の余命(いのち)の幻(ゆめ)に遠退く未知に向かれた文句(ことば)の陰では、延命(いのち)が適する私利の限りに、男女の精神(こころ)は完全である。

 初夏(なつ)に解(と)かれた晴嵐(あらし)の類(るい)では俺と女性(おんな)の無想が先立ち、読みに彩(と)られた〝不問〟の許容(うち)から四季に蔓延る他(ひと)の陽気が妖気を識(し)り抜き…       ―(完)―。



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~八頭(はち)の煩悩~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

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