第2話事故車の積み荷

小原は検数会社の主任で25歳である。普通の男で看護師の彼女がいる。ただ、名古屋に来たのは4年前。九州のド田舎から出てきて、言葉が訛っている。しかし、入社4年目で主任は異例だった。

これまでは、10年ほど勤務しないと主任にはなれなかったが、小原は英語が達者であったので昇進が早かったのである。それを妬む人間もいない事も無かった。

今日は5人で中古車の内装外装のチェックをした。約800台ほど。カーチェックと呼ばれている作業だ。

真夏のカーチェックは最悪である。

1台1台、車内に入りオーディオ類のチェックをするのだが、車内が太陽の熱でサウナ化している。汗を吹き出しながら手板に挟んだ書類にチェック事項を記入していく。

外装もキズ、アクシデントカーなのかも記入するが、それらのコメントは英語で書く事になっている。

「Right Door Scratch」

中学生以下の英語だ。文法なんて関係ない。ただ、分かれば良いのだ。

今日はアクシデントカーが3台あった。

運転席のフロントガラスに頭の形をした、へこみがあり、髪の毛が数本ぶら下がっていた。小原は車内を点検したが、エアバッグが血まみれであった。こう言う運転手が死んだかも知れない車でもパーツ取りのために、輸出されるのだ。

「小原さん、これ運転手死んだかも知れませんね」

と、後輩の小杉が言った。小杉は小原より1歳若いが子供が2人もいる。

「そうだね。これじゃ、即死かも」

と、分かり切っているのだが、書類に

「Accident Car」と書き込んだ。


10時の休憩で名古屋港管理組合の施設で小原がお金を出して、皆んなでアイスやかき氷を買った。

今日は若者ばかりでチェックしていたので仕事がし易い。オジサン達やたちの悪い先輩がいると、文句言わながら仕事もはかどらない。

小原かき氷を食べ終わると、タバコを吸っていた。

「小原さん、この前の頭部の無い死体の話し知ってますか?」

と、小杉が尋ねた。

「あ、あぁ〜、そう言えばニュースで見たよ」

「女子高生だったらしいですよ」

「ひでぇ事しやがる」

「今度は、男子高校生らしいです」

「また、頭無いの?」

「いいえ、ただ死体が発見された。だけらしいです」

小原は腕時計を見た。10時半。

再び5人でカーチェックを始めた。この中で、夜中も仕事をしないといけない社員は小原と小杉、そして先月中途採用の林であった。

林は元は銀行員だったが、銀行が吸収合併され辞めたらしい。

背の高い男だった。28歳だが、一流大学出身でこの会社では勿体無い人物であるが、数字に強いので採用された。

夕方、5時に昼の仕事を終えた3人は今夜は夜中の3時に船が入港するので会社近くの居酒屋で軽く飲んだ。


会社は小原達が酒を飲んでいる事を知っているのだが、朝から夜中まで働かせないと人が足りない状態なので、目を瞑っている。彼らが乗らないと言えば会社の売り上げが下がるし、実質係長より顔の広い小原が夜勤をしなくなると仕事も減ってしまう。検数の責任者を小原とご指名する会社もあるのだ。

3人はビールを飲みながら、嫌いな先輩の話しをしていた。

「石垣って、威張ってるくせに仕事出来ねぇよな。しかも、小心者だし」

と、小原が言うと、

「アイツは昇進したら、直ぐに痔になりましたよね?メンタル面が弱いんですよ」

と、小杉が言葉を継ぎ足した。林はニコニコしながらビールを飲んでいた。

ニュースが流れた。昼間、小杉が喋っていた男子高校生の遺体の話しだった。

犯人は高校生の内臓の一部を切り取っている猟奇殺人と報道された。

3人は土手煮を食べていたが、果たしてホルモンなのか?と、不気味がるが自分たちには関係ない話しとして、再び飲み始めた。


杉山はまた、食堂で一人寂しく晩飯を食べていた。食堂のおばちゃんが杉山を憐れんで、豚カツ定食に一品オマケしてあげた。焼き餃子であった。

杉山は美味しそうにパクパク食べた。おばちゃんは洗い物をしながらその様子を眺めてニコニコしていた。

そして、杉山は仮眠した。


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