流血のゴーレム
羽弦トリス
第1話プロローグ
杉山はスラックスのポケットから小銭入れを取り出し、コインを自販機の投入口に何枚か入れて、アイスコーヒーのボタンを押した。
ゴトッ
と、ペットボトル入りのアイスコーヒーが出てきて杉山は前かがみになり取り出した。
買ったばかりのコーヒーを一口飲み、デスクに戻った。
杉山の仕事はフォーマンと呼ばれる仕事をしていた。
名古屋港に入港する外国船の輸出入物の作業に関係して、外国人乗組員と日本の荷役会社とのやり取りをしながら、作業がスムーズに進行するための所謂、船員と荷役会社の御用聞きだ。作業工程を考えるのも頭を悩ます。
バカでは出来ない、利口はしないフォーマン稼業。と、杉山は仲間にそう言っている。
午前中、作業工程を作り上げた杉山は、タリーマンと言う検数会社の小原に電話した。検数とは、数を数えるからタリーマンと呼ばれるのだが、作業に関係する書類をまとめるのが検数会社の役割だ。
「小原さん。1番にお電話です」
と、女性事務員に言われた小原は受話器を持ち1番を押した。
「もしもし、小原君?」
「杉山ちゃんかい?何だよ、また夜中の2時入港なんだって」
「船が遅れるのは、俺のせいじゃない。作業は午前3時開始だから宜しく。今日はボーイング積むから、作業は明日の昼前まで掛かるかも」
小原はボールペンでメモ帳に落書きしながら話していた。
小原はため息をつき、
「今日は2ギャング?」
「そのつもりだけど、1ギャング分けて3ギャングになるかも」
「3ギャングになるだって?こっちもハッチを1人増やさなくちゃいけないないじゃん」
ギャングとは作業員の組数のことで、ハッチとは現場で作業を検数する人間の事を指す。
「小原君、今日は何の日か知ってる?」
と、杉山はふいに尋ねた。
「誰かの誕生日?」
「違う。名古屋港祭り。19時から花火大会だよ」
「そんな夜に僕らは仕事なのか?夕方、積荷の最終確認するから、その時ヤードから花火大会を見てみる」
と、小原が言うと、
「うちの事務所に来て良いよ。俺も最終確認があるから。6時半頃来なよ」
「男二人して、花火見学かぁ〜。世の若者は花火大会で愛を育み、我々は一体何を育むんだ」
「小原ちゃん、被害妄想が激しいね」
「じゃ、飯食ったらそっちに行くよ。宜しく」
「うん、宜しく」
と、2人は電話を切った。
杉山は会社の食堂で夕食を食べていた。
そこに、食堂のおばちゃんが入ってきて、
「あら、杉山さん。ちょうどいい。さっき、食堂の冷蔵庫を見たら美味しそうな唐揚げが入っていたんだけど、食べる?」
「誰かの唐揚げじゃないの」
「食べたもん勝ちよ!だって、ご自由にどうぞって張り紙があるんだから」
食堂のおばちゃんは銀紙に包まれた唐揚げを皿に移し、温めた。
杉山は唐揚げを見て、これは白子か?と思った。箸で掴んで口に運んだ。
美味しい
ニンニクが効いていて杉山好みの唐揚げだった。
誰が、こんな美味しい唐揚げを置いていったのか?
こんな唐揚げなら毎日食べたい。
食事を終えた杉山は、夜中も勤務なので仮眠室で23時まで寝た。
花火大会の事はすっかり忘れていた。多分、小原は1人寂しく花火を見たであろう。
翌昼、作業は滞りなく終了した。
代理店には11時出航にOKした。小原はブツブツ言っていた。2人して、会社は違えども仕事が終わると、徹夜休みなので大衆寿司屋でビールを飲んだ。
昼のニュースを何気なく杉山は眺めていた。
それを見ていると、
「小原君!ニュース見てよ」
ニュースは、港区で頭部のない若い女性の死体が発見されたらしい。
お互いの会社の近くだから、2人は驚いた。
「犯人も大胆なもんだ」
と、小原が言うと、
「昨夜は花火大会だったのに、誰も気付かなかったのかなぁ」
「死後1日とか言ってるし」
2人はビールが不味くなるのを恐れ、ニュースから話題を変えた。
お互いに彼女はいるのだが、こんな忙しい男らに彼女は不満だった。
それは、2人とも。
だから、すれ違いが多くて破局直前であった。そんな話しを2人でして盛り上がった。
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