先輩に退部を命じられて絶望していた僕を励ましてくれたのは、アイドル級美少女の後輩マネージャーだった 〜成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになったんだけど〜
第180話 美少女後輩マネージャーの親友は華麗に勘違い男を撃退する
第180話 美少女後輩マネージャーの親友は華麗に勘違い男を撃退する
嫌な予感がしたのだ。
教室で
かといって二人きりになどなりたくないため、階段の下から二、三段のところにいる。
目の前では大勢の人が行き交っているため、和也が我を忘れて何かしでかすことはないだろう。
「それで、どうしたの?」
「いやなに、一つアドバイスをしておこうと思ってね」
和也はメガネの繋ぎの部分を人差し指で押し上げた。
まるで授業中に手を挙げて答えるときのように自信たっぷりな表情で続けた。
「
「……はっ?
「そうだ。同じサッカー部の先輩らしいけど、彼はなかなかどうして意地が悪いね。みんなの前で誘って恋人を
「別にそんな意図はなかったでしょ。百瀬先輩はそんな人じゃないし、そもそも私の反応なんて見ずに出ていったじゃん」
あのときの
ちょっと可愛かったなぁ、とあかりは頬を緩めた。
まったく意に介していない様子の彼女を見て、和也は焦りを浮かべた。
「だ、だが、辱めを受けた事実は変わらないだろう?」
「あれは多分、私がナンパされないようにしてくれたんだよ」
あかりが推測を口にすると、和也は小馬鹿にするように鼻を鳴らした。
得意げな表情で再びメガネを押し上げながら、
「ふっ、七瀬さん。それはあばたもえくぼというやつだ。君はいい方向に捉えすぎている。万が一辱める意図はなかったとしても、自分のものだと主張したかっただけなんだよ」
和也はあかりがハッと目を見開く様子を想像していた。
実際の彼女はキョトンと首をかしげるのみだった。
「それの何が悪いの?」
「……はっ?」
目を見開いたのは和也のほうだった。
「付き合ってるんだし、彼女がナンパされてるんだからそれくらいはわりと当たり前じゃない?」
「そ、それは——」
「というかそもそも、いろんな可能性があるのになんで百瀬先輩をそんな悪者にしたいわけ? みんなからイジられてるよりよっぽど不愉快なんだけど」
「なっ……!」
あかりへのイジりを
怒りと羞恥で顔を真っ赤に染めながら喚いた。
「そ、そんな言い方はないだろうっ、僕は君を助けようとしたんだぞ⁉︎」
「いや、そんなこと誰も頼んでないんだけど」
小さな親切大きなお世話どころの話ではない。
友達ならともかく、普段から仲良くしておらず自分のことを理解していない部外者の気遣いなど特大なお世話だ。
(……ダメだ、冷静にならないと)
あかりは呼吸を整え、言葉を続けた。
「私だってあれくらいは友達のことイジるし、自分がしてるならやられても受け入れて当然じゃん。私たちの関係性も知らないくせに、勝手に首突っ込んで空気悪くしないでよ。それじゃ」
拳をわなわなと震わせる和也を残して、あかりはそそくさとその場を後にした。
いくつかの好奇の視線を背中に感じつつ、少し言い過ぎだかなと反省する。
(……いや、まあいいか)
和也が勝手にあかりの味方をしようとして空気を悪くしたのは今回が初めてではない。一度ガツンと言っておくことは、今後のために必要だっただろう。
元来は臆病者であり、彼が指定校推薦を勝ち取るために内申点を気にしているのは周知の事実だ。報復もまず心配しなくていいだろう。
あかりはその後、いくつか優とメッセージのやり取りをしてから集合場所に向かった。
「お待たせしました」
「おう」
あかりとしてはいつも通りを演じたつもりだった。
——しかし、優は彼女が少々不機嫌であることに目ざとく気がついた。
「七瀬。もしかして、みんなの前で誘ったの嫌だったか?」
「えっ?」
あかりは目を瞬かせた。すぐに笑みを浮かべて首を横に振った。
「いえ、そんなことありませんよ。どうしてですか?」
「なんとなくイライラしてそうだったからさ」
「あっ、バレてました?」
「まあな……何かあったのか?」
「あるにはありましたけど、気にしないでください。もう多分解決しましたし」
「そっか」
優はもちろん気になったが、しつこく聞いて嫌われたくもないため追及はしなかった。
「でも、たしかにあの場面で誘ってくれた理由は知りたいかもです」
「……気持ち悪いって思わねえか?」
「よほどの特殊性癖でなければ」
あかりが冗談めかして肯定した。
優は迷った。恥ずかしくて言いたくない反面、伝えたい気持ちもあった。
『百瀬先輩。こういうのは思い切りも大事なんですよ?』
先程あかりに言われた言葉が、彼の背中を押した。
「……ああしておけばナンパ避けになると思ったし、何より七瀬が他の男に誘われたりしているのが嫌だったっつーか」
「なるほど。やっぱりそうだったんですね」
あかりが頬を緩めた。少し嬉しそうな表情だった。
「重いとか、面倒くさいとか思わねえか?」
「そんなことありませんよ。ちょっと恥ずかしかったですけど、誘ってくれたのは嬉しかったです」
あかりの口調は軽やかだった。嘘を吐いているようには見えなかった。
優はホッと胸を撫で下ろした。
「ところで何食べます?」
「……何も決めてなかったわ」
誘いを受け入れてもらえたことが嬉しくてそんなこと考えてなかった、とは口にできない優であった。
結局、屋台をやっていたクラスでフランクフルトやらたこ焼きやらを購入して中庭のベンチに腰を下ろした。
この場所は陰になっていて、ある種秘密基地のようになっている。
「美味しいですね、これ」
「そうだな。そういえばさ、あれ見たか? 一軍キャプテンの
これまで回ったところなどについて話していると、程なくして完食した。
優はやや強引に話を引き延ばしつつ、チラチラとベンチに置かれているあかりの手を見た。
この文化祭で少しでも関係を進めたいと思っていた彼は、虎視眈々と手を繋ぐ機会を
しかし、勇気が出なかった。結果的にただの挙動不審な男になっていた。
当然、彼の様子がおかしいことはあかりも気づいた。
「百瀬先輩、どうしたんですか? 何かそわそわしてますけど」
「い、いや、なんでもねえよ」
「そうですか……?」
あかりは怪訝そうな表情を浮かべつつも、それ以上は尋ねてこなかった。
俺のことなんか興味ねえのかな、とネガティヴ思考に陥った優はますます言い出せなくなってしまった。
今度こそ気持ち悪いと思われたらどうしよう、などと考えてしまっていた。
頭を悩ます優をよそに、あかりがあっと声を上げた。
「そろそろ友達と待ち合わせの時間です」
「そ、そっか。もうそんなか」
「はい。楽しかったです。誘ってくれてありがとうございました」
「おう……な、七瀬っ」
「はい?」
あかりは歩き出そうとしていた足を止めて振り返った。
「なんですか?」
「あー、その……」
咄嗟に呼び止めてしまったはいいものの、優は一歩を踏み出せなかった。
「百瀬先輩、さっきからどうしたんですか? 言いたいことがあるなら言ってもらって大丈夫ですよ。私、そこまで短気じゃないですし」
冗談めかしてはいるものの、あかりの言葉尻にはわずかな苛立ちが感じられた。
優は焦った。
「なんつーかその……て、手とか、繋ぎてえなって」
「……えっ?」
あかりはポカンとした表情を浮かべて固まった後、ぷっと吹き出した。
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