第165話 彼女が初めて……

「手繋いだりハグするためにはどうすればいいかって聞かれてもさ、僕ら付き合う前からしてたからよくわかんないよね」


 まさるとの電話を終えたたくみがそう言って苦笑すると、具材を切っていた香奈かなが「たしかにそうですね」と呆れたように笑った。


「私は何かにつけて巧先輩と恋人っぽいことしようとしてましたし……それで言うと、好きでもなかったのにそういうのを受け入れていた巧先輩の貞操観念大丈夫ですか? 他の女の子にもやっちゃうんじゃないかって心配になるんですけど」

「大丈夫だよ。自分たちの関係がいびつだったのは理解してるし、多分自覚してなかっただけで香奈のことだいぶ最初のほうから好きだったからこそだと思うから」

「そしたらもっと早く自覚してくださいよ〜」


 手を洗っている巧の肩に、香奈が頭をうりうりと押し付けてくる。


「それは本当にごめん」

「まったく、好きな人が鈍チンだと苦労しますよ。まあ——」


 香奈がイタズラを思いついた子供のようにニヤリと笑った。


「こっちは鈍くなくてよかったですけど」

「うっ」


 背後から股の間に手を差し込まれてモノを握られ、巧は体をビクッと震わせてしまった。

 二、三度揉んだ後、彼女は何事もなかったように料理に戻った。


「……香奈」

「はい」

「今日もご両親帰ってこないんだよね?」

「は、はい。明日の夕方帰ってきます」


 香奈は頬を引きつらせつつ、うなずいた。

 彼女は巧の顔を見て自覚していた。自分の悪ふざけが彼のスイッチを入れてしまったことを。


「じゃあ、今日はこっちで一緒に寝よっか」

「わ、わかりました」


 腰痛が治り切っていないと言えば、巧は我慢してくれるだろう。

 しかし、香奈は断らなかった。自分もシたかったからだ。


(あんなに気持ちよくて愛されてるって実感できるコト、巧先輩に誘われてしないわけにはいかないもんねっ……!)


 香奈の秘部はすでにじわっと濡れ始めていた。




 夕食を食べ終えた後、香奈は自宅で風呂に入ってから再び巧の家を訪れた。

 パジャマ代わりに着ているのは巧のシャツだ。


「えへへ……」


 香奈は服の匂いを嗅いで、恍惚こうこつとした表情を浮かべた。

 香奈にとっては日常の一部に過ぎなかったが、彼女にそんなことをされて興奮しない男はいないだろう。


 ——もちろん巧も例に漏れなかった。


「相変わらず香奈はあおるのが上手いね」

「んっ……!」


 巧はキスを繰り返しながら、香奈の敏感なところを攻めていった。


 これまでは先にやってもらっていたが、それはあくまで彼女を可愛がっているときに巧の理性が崩壊しないようにするための策だった。

 理性が崩壊して彼女を押し倒しても構わない、というより押し倒す気満々の巧に、攻撃をやめる理由はなかった。


 香奈の秘部はすでに濡れていた。

 軽く触れただけで、彼女はビクッと体を震わせた。


「た、巧先輩っ、あっ……!」


 自分のシャツを着て昨日にも増して興奮している香奈を見て、巧もテンションが上がった。

 もっと自分の手で感じてほしくて、いつもよりも愛撫を丹念に、そしてしつこく行なった。


 ——十分後、ソファーカバーには大小いくつものシミができていた。

 香奈は巧のシャツだけを身にまとった状態で、真っ赤に染まった顔を両手で覆いながら肩で息をしていた。


 ——そう。彼女は巧の前で初めて潮を吹いたのだ。


(すごっ……!)


 巧は感動していた。

 潮吹きと女性の快感に関連性がないことは知っていたが、やはり嬉しかったし、その光景にはとても興奮を覚えた。


「……待ってって言ったのに」


 両手で顔を押さえたまま、香奈が拗ねたように言った。

 彼女は自慰行為では何度も潮吹きを経験しているため、巧にいじられている最中でもなんとなく吹きそうだとわかった。


 だから何度も止めるように言ったのだが、巧は攻撃の手を一向に緩めなかった。

 その結果がソファーカバーにシミを作ってしまった現状である。


「ごめんごめん。ちょっとさすがにあのタイミングでは止める気にならなかったし、まさかこうなるとは思ってなくて」

「っ……!」


 香奈はさらに顔を赤くさせて、


「いつもなら二号のせいにできるのに……」

「……えっ? いつも?」

「あっ……!」


 香奈は自分が失言をしたことに気づいた。


「わ、忘れてください……!」

「いや、無理でしょ」


 巧は香奈をお姫様抱っこして、自室に連れ込んだ。

 彼女がオナニーで潮を吹いているという情報を聞いて、我慢できるはずがなかった。


「や、優しくしてくださいね?」

「善処するよ」

「あっ……!」


 ギラギラと欲を全面に押し出している巧を前に、香奈は興奮を覚えた。

 そんな彼女を見れば、巧も優しくばかりしていられるはずがなかった。


 お互いが二回目だったこともあるだろう。

 彼らは探り探りだった昨日よりもさらに情熱的な夜を過ごした。


 ——そして翌朝、巧は熱を出した。




◇ ◇ ◇




「ちゃんと寝ててくださいね」

「はーい……」

「それじゃあ行ってきます」

「行ってらっしゃい……」


 巧はノロノロと手を上げた。

 香奈は心配そうな表情を浮かべつつ、部屋を出ていった。


 少しして、玄関の開閉音と鍵を閉めるときのガチャっという音が聞こえてきた。


「ふぅー……」


 巧は息を吐いた。熱い。


 いくら昨晩熱々の夜を過ごしたとはいえ、睡眠時間を削るほど長時間ヤっていたわけではない。


 単純に疲れが溜まっていたのだろう。

 巧にも責任があり、香奈は何も悪くなったとはいえ、特にここ一週間ほどは肉体以上に精神的にハードな毎日だった。


「にしても行ってきます、か……」


 なんだか新婚生活みたいだ、と思いつつ、巧は眠りに落ちていった。




◇ ◇ ◇




(巧先輩、ちゃんと寝てるかな……)


 香奈は、巧の体調不良の原因は自分のせいで溜まった心労だろうと考えていた。

 なるべく早く帰って看病してあげようと思っていた。


 文化祭準備、そして部活が終わってそそくさと支度をして帰ろうとしたそのとき、一人の男が前に立ちふさがった。


(……はっ?)


 香奈は思いきり顔をしかめそうになってしまった。

 まことだったからだ。


 彼はニヤリと笑って、口を開いた。


「夜道に一人は危ねえだろ、白雪しらゆき。俺が送ってってやるよ」

「……はっ?」

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