第162話 先輩の望むままに

 前回と同じようにお互いに頭を洗った後、香奈かなたくみの体を洗うと申し出た。


「ふふ、いつにも増しておっきくなってますね」


 香奈は背後から巧のモノを握り、嬉しそうに笑った。

 しかし、「巧先輩は悪い子ですから」と一回しかお世話をしてくれなかった。


 お盛んな男子高校生の欲望は、一回出したくらいでは到底おさまらない。

 巧は痛くしないように気をつけつつも、激しめに愛撫をした。


 そのせいか、香奈はいつもよりも感じていた。

 生理の関係で一週間ほどお預けだったのも影響しているのかもしれない。


 浴槽でも軽くキスや触り合いをした後、巧は先にお風呂から上がった。

 香奈に比べてお風呂上がりのケアやドライヤーの時間は少ないし、二人で並行して行えるほど洗面所は広くない。


 巧が本を読んでいると、しばらくして香奈が洗面所から出てきた。

 巧は何気なく視線を向け、


「……えっ?」


 金縛りにあったように動きを止めた。

 ——香奈はパジャマではなく、バスタオルを体に巻きつけただけだった。


 呆然としている巧に向かって歩いてくる。

 膝の上にまたがってきて、


「巧先輩、まだ満足してないでしょう?」

「えっ? ……うん」

「せ、先輩の望むままに、私のこと愛しちゃっていいですよ?」

「っ……!」


 巧は唾を飲み込んだ。

 真っ赤になっている香奈を見て「のぼせたのかな?」と思うほど、巧は鈍感ではない。


 彼女の瞳の奥には、これまでにはなかった覚悟と欲情の炎がゆらめいていた。


「……香奈、ベッドに行っててくれる?」

「わかりました」


 巧がなぜ先に向かわせたがっているのかはわかったらしい。

 香奈は笑みを見せた後、素直に歩いていった。


 荷物からゴムの箱を取り出すと、深呼吸をしてから香奈の部屋に向かった。

 ベッドの上で足を斜めにして座っている彼女は、とても官能的だった。


 巧はさりげなく箱を机に置くと、香奈の横に座った。

 その肩に手を回し、顔を覗き込む。

 目を閉じた香奈の唇に、そっと自らのそれを押し当てた。


 キスをしながら、ふくらみに手を這わせる。


「んっ……」


 頂に指先が触れると、香奈が喘ぎ声を漏らして身をよじった。

 下も愛撫をした後、今度は彼女にしてもらった。


 巧は射精感が高まってきたときに、口での奉仕を中断させた。

 香奈は不思議がる様子も、怯える様子も見せなかった。


 巧は手早く防具を装備した。

 練習していた甲斐もあり、手間取ることはなかった。


 香奈もすでに開けられた形跡のある箱と手際の良さから察していたが、指摘するほど無神経ではなかった。

 それに、いよいよ挿入されるのだと思うと揶揄ったりする余裕もなかった。


「——香奈」

「はい」

「いいんだよね?」


 香奈は潤んだ瞳を巧から逸らさないまま、こくんとうなずいた。

 ——そして、二人は一緒に大人の階段を登った。




◇ ◇ ◇




(す、すごかったな……)


 裸のまま布団に仰向けで寝転がりながら、香奈はぼんやりとそう思った。

 前戯で十分に濡れていても、最初は痛かった。


 巧だって初めてで不安もあったはずなのに、ずっと「大丈夫だよ」「好きだよ」と優しく声をかけてくれていた。

 徐々に痛みがなくなり、何だかサワサワとした変な感覚を覚え始めた。それはやがて快感に変わっていった。


(最後のほうはめっちゃ気持ちよかったな……)


「——香奈」

「あっ、はい」

「大丈夫? 痛くなかった?」

「大丈夫です。ちょっと疲れましたけど」


 香奈は笑みを浮かべつつ、上半身を起こした。

 横であぐらをかいていた巧が優しく抱きしめてくれる。


「ありがとう、香奈」

「こちらこそありがとうございます」


 香奈はぎゅうぎゅう巧を抱きしめた。


「嬉しいです。初めてを巧先輩に捧げられて、巧先輩からももらって……まあ、直接もらうのは当分先になりますけど——ひゃあ⁉︎」


 突然ベッドに押し倒され、香奈は悲鳴をあげた。


「た、巧先輩っ?」

「ずいぶん煽ってくれるじゃん」

「あ、あおったわけじゃ……ん!」


 香奈は敏感になっている秘部をなぞられ、嬌声をあげてしまった。


「もう一回、いいよね?」


 疑問系だったが、巧はすでに防具をつけ始めていた。


「ま、待って巧先輩っ」

「でも、香奈さっき言ったじゃん。もっと自分の欲に忠実になれって」

「あ、あれは別にそういうつもりで言ったわけじゃ——」

「それに、僕がどれだけ香奈のことを好きかってことを、今一度わかってもらわないとだからね」

「っ……!」


 巧の瞳は、獲物を前にした獣のようにギラギラしていた。


(か、格好いい……!)


 普段は温厚な彼のオスの部分に、香奈はときめいてしまった。

 そして何より、彼女は後半のほうでしか感じることのできなかった快感をもう少し味わいたいと思っていた。


 しかし、素直にうなずくのは変態だと思われそうで恥ずかしかった。


「も、もう……本当に仕方のない人ですね、巧先輩は」


 自分は求められたから相手をしているだけ——。

 香奈がそんな演技を続けていられたのは、それからほんの少しの間だけだった。


 以前ラブホテルで宣言した通り、巧は二回目以降はまったく遠慮してくれなかった。




「うぅ〜……っ」


 スッキリした表情を浮かべる巧の隣で、香奈はベッドでうつ伏せになっていた。

 疲れたのもあるが、何よりシーツをぐしゃぐしゃにしてあられもなく喘いでしまったのが恥ずかしかった。


「ごめん、ちょっと抑えられなかった」


 巧が頭を撫でてくる。

 香奈は顔だけ横向きにして、下から睨みつけた。


「……抑えようともしてなかったくせに」

「そうとも言うね」


 巧はあはは、と笑った。余裕そうな笑みだ。

 香奈の中でふつふつと対抗心が湧き上がってきた。


「……今度は絶対私が勝ちますから」


 香奈の瞳の奥には闘志の炎が揺らいでいた。


(それって、香奈からも攻めてくれるということだよね?)


 ——香奈はメラメラしていたが、巧はムラムラしかしなかった。

 彼女が動いてくれるなど、男にとってはご褒美でしかない。


 しかし、巧は「受けて勃つよ」と言うに留めた。

 いくら香奈がマゾ気質とはいえ揶揄いすぎは良くないし、ご褒美なのだからわざわざ指摘する必要もないのだ。


 その後は一緒にお風呂に入った。

 巧のムスコは再び臨戦体制になったが、香奈にその相手をする元気は残っていなかったし、巧も対戦を申し込もうとはしなかった。

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