先輩に退部を命じられて絶望していた僕を励ましてくれたのは、アイドル級美少女の後輩マネージャーだった 〜成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになったんだけど〜
第160話 話し合い② ——欲に忠実に——
第160話 話し合い② ——欲に忠実に——
「今さらだけどさ、
見事に自爆をした
あかりがすみません、と頭を掻いた。
「ちょっと面白くて根掘り葉掘り聞いちゃいました。
「まあ、そこまで深い質問じゃなければ答えない理由はないからね。途中面接されてるような気分になってたけど」
「あながち間違いじゃありません。親友として如月先輩が私の香奈を託すに相応しい人物か精査する必要もありましたから」
「合格した?」
「悔しいですけどね」
あかりは冗談めかしてうなずいた。
「まあそんなわけで、私と如月先輩は何もないよ。そもそもさ——」
「ふぐっ」
あかりが身を乗り出し、香奈の両頬をつまんだ。
「私が浮気すると思う? 香奈とならともかく、その彼氏とはしないよ」
「うっ……そうだよね」
香奈は視線を下げた。
「ごめん。なんで信頼できなかったんだろう。あかりと巧先輩なら絶対そういうことしないってわかってたはずなのに……せめて、一言確認すべきだったよねっ……」
「まあね。けど、私が秘密主義みたいにしたのがそもそも悪いんだし、ただでさえ難しい時期だったから香奈は仕方なかったと思うよ。ごめんね、不安にさせて」
あかりが申し訳なさそうな表情を浮かべた。
難しい時期とはもちろん生理のことだろう。
「香奈にも結論が出たら伝えようと思ってたんだけどさ」
「ご、ごめん……言わせちゃって」
「いいよ」
あかりの口調は軽かった。彼女は穏やかな表情で続けた。
「どのみち、今日言うことになってただろうしね」
「「……えっ?」」
香奈と巧の声が重なった。
「そ、それってまさか……⁉︎」
「うん。付き合うことにしたよ。まだ香奈みたいにベタ惚れじゃないけど、話は合うしいい人であることは間違いないからね。香奈みたいに最初から大好きなわけじゃないけど」
「私みたいには余計だけど、おめでとうっ」
「ありがと。如月先輩もいろいろありがとうございました。それと、迷惑かけちゃってすみません」
あかりが巧にぺこりと頭を下げた。
「ううん、七瀬さんの判断は間違ってなかったよ。僕が香奈を不安にさせないような立ち回りをしていれば良かったんだから、気にせず頑張って。何となくだけど、
「はい、ありがとうございます」
あかりはもう一度頭を下げた。
巧と香奈はあかりを駅まで送り届けた。
「それじゃあ、お幸せに〜」
意味ありげな笑みを浮かべてから、ぺこりと頭を下げて香奈の親友は改札内へと姿を消した。
家まで戻る道すがら、巧と香奈の間にほとんど会話はなかった。
話すことがなかったわけではない。外で話すべき内容ではなかったし、かといってそれを差し置いて雑談をする気にもなれなかった。
これから行われる話が自分たちカップルにとって重要なものであることは、どちらにもわかっていた。
◇ ◇ ◇
「本当にすみませんでした。勝手に疑って話も聞かずに逃げたりして……」
後悔と自責の念がにじみ出ていた。
巧はその頭に手を置いて、
「ううん。七瀬さんも言ってた通り、香奈は仕方なかったと思う。ごめんね、不安にさせて」
香奈が初めての彼女だ。
いろいろと自分なりに勉強はしたつもりであるが、全然足りていなかった。
正直、彼女がここまで不安を覚えているとは想像していなかった。
生理が終われば徐々にいつもの香奈に戻ってくれるだろうと思っていた。
(僕の見立てが甘かったな……)
巧は建前でもお世辞でもなく、すべての責任は自分にあると思っていた。
ただ、今回に関してはどうしていれば良かったのかがはっきりと見えていないのも事実だった。
まさか優が告白したことを言うわけにもいかなかったし、かといって甘えられれば香奈との時間はしっかりと取っていた。
彼女が生理中だったこともあり、探り探りではあったが、愛情もしっかりと伝えていたと思う。
(……わからないことは聞いてみるしかないか)
「どうすれば安心させてあげられるかわからないんだけど……香奈としては、もっとこうしてくれれば嬉しかったとかある?」
巧が尋ねると、香奈は無言で二の腕に頭をこすりつけてきた。
「ど、どうしたの?」
「いえ、彼氏が優しすぎるのでちょっと荒ぶってただけです。気にしないでください」
「はあ……」
巧としては罪悪感しかないので、優しすぎると言われてもあまりピンと来なかった。
「まず前提として、友達の秘密をしっかり守れるのは巧先輩の素晴らしいところだと思います。今回に関しても
「嫌な気分にならない?」
「いい気がするかと言ったらしませんけど、隠されているほうが嫌です。もちろん中身は言わなくていいですから」
「わかった。今後はちゃんと報告するよ。あとは今回の七瀬さんみたいな予期せぬ出会いがあれば、それもその場で連絡するね」
「ありがとうございます。私もそうします」
香奈の瞳には強い覚悟がたたえられていた。
昨日、遊びのメンバーに男子が含まれていたことを報告しなかったことを悔いているのだろう。
「ありがとう。それと、今後はそんなことがないように全力を尽くすけど、もし香奈が不安になっちゃったりしてるときは特になるべく予定は入れないようにするから」
「えっ、でもそれはさすがに迷惑じゃないですか?」
申し訳なさそうな表情を浮かべる香奈の頭を撫でる。
「全然。それで香奈が安心できるのなら、それ以上に大切なことなんて何もないから」
「本当ですか?」
「本当だよ。僕にとっては香奈が一番大切だから」
巧は香奈のことを抱きしめた。
彼女は胸に顔を埋めながら、小さく「ありがとうございます」と言った。
「あとは何かある? この際だから全部ぶっちゃけてよ」
「そうですね、これは巧先輩が悪いとかじゃないんですけど……もっと来てほしいです」
「来てほしい?」
「はい。巧先輩ってすごく甘やかしてくれるけど、あんまりガツガツしてないじゃないですか。攻め攻めのときでも常に私を気遣ってくれているし……それもすごく嬉しいんですけど、もっと自分の欲に忠実になってほしいんです。そうじゃないと、結局先輩後輩の枠組みを抜け出せてない気がして不安になっちゃうっていうか……すみません。面倒くさい女で」
「ううん、面倒なんて思わないよ。ありがとね、本音を話してくれて」
先輩後輩の枠組みを抜け出せていない、という表現はしっくりきた。
男で先輩だから引っ張っていかなきゃと思っていたし、香奈が嫌かなと思うことは極力避けてきた。
(ある意味、大切にしすぎていたのかもしれないな……)
「ということはさ、もっと積極的になっていいってこと?」
「むしろ、そうしてください。多少強引なくらいのほうが、求めてくれてる感じがして嬉しいっていうか……本当に嫌なことはちゃんと言うので」
「わかった」
「逆に、巧先輩からは何かないんですか?」
「うーん……」
巧は頭を悩ませた。
香奈からの気持ちを疑ったことがない以上、明確な不満はなかった。
「そうだね……これから先に対するお願いでもいい?」
「はい」
香奈が口元を引きしめてうなずいた。
「香奈には、もっと僕のことを信じてほしい。もちろん香奈が不安を覚えないように僕が全力を尽くすのは前提として、もっと僕の気持ちを信頼してほしい。すべてにおいてとは言えないけど、香奈への想いとかそういう恋愛関連については絶対に嘘を吐かないから」
「わかりました」
香奈が力強くうなずいた。
「——信じます、巧先輩のことを」
「っ……ありがとね」
「こちらこそですよ」
香奈が飛びついてきた。巧の膝の上に乗り、両肩に手を乗せて顔を覗き込んでくる。
「これで嘘吐かれたら、私人間不信になりますからね」
「なら、香奈は人のことが信じられる強い子のままでいられるね」
「良かったです」
顔を見合わせて笑い合う。
見えざる手に導かれるように、口づけを交わした。
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