先輩に退部を命じられて絶望していた僕を励ましてくれたのは、アイドル級美少女の後輩マネージャーだった 〜成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになったんだけど〜
第155話 美少女後輩マネージャーの親友は先輩の家でDVDを観る
第155話 美少女後輩マネージャーの親友は先輩の家でDVDを観る
——時は少し遡り、月曜日の放課後。
前日の約束通り、あかりは
彼らが所属している二軍はオフだ。
息子が初めて女の子を連れてきたとあって、優の母親である
ただのワンオク好きの後輩だと紹介しても、一向に引き下がる様子がない。
「あかりちゃんは優とはどんな——」
「母さん、もういいだろ。出てってくれ」
優は美咲の背中を押して自室から追い出した。
まったくもう素直じゃないんだから〜と言いつつ、彼女は出て行った。
優はため息を吐いてからあかりに向き直り、
「悪いな。うるさい母親で」
「いえ、仲良いんですね」
あかりは微笑ましそうに頬を緩めている。
「お節介なだけだよ」
「いいじゃないですか。すごく愛されているのが伝わってきましたよ」
「……まあな」
優は曖昧にうなずいた。
愛情が伝わっていないのではなく、思春期の男子として認めづらいだけなのは明白だった。
あかりはクスッと笑った。
「ま、まあ、そんなことはいいから観ようぜ」
「そうですね。観ましょう観ましょう」
優はDVDをセットし、部屋を暗くした。
——それからの二時間あまりはあっという間だった。
「ヤバかったな……」
「ヤバかったですね……」
圧倒されすぎて、彼らは二人揃ってすっかり語彙力をなくしていた。
「セトリ神ってましたね本当に……」
「神ってたな……」
それから少しすると、どこかにお散歩をしていたIQの戻ってきた。
「この曲が良かった」「ここの演出が格好いい」「あの歌い方が最高だった」と細部について語り合っていると、あっという間に時間は過ぎていった。
「あっ、ぼちぼち帰らなきゃですね」
「そうだな」
優は名残惜しく思ったが、まさか拘束するわけにもいかない。
駅までの道すがらも、ずっとライブについて語っていた。
駅の手前の広場で、あかりは優に向き直って姿勢を正した。ぺこりと頭を下げた。
「百瀬先輩、今日はありがとうございました。本当に最高でした」
「おう。楽しんでくれたならよかった」
「めちゃくちゃ楽しかったです。もし良かったら、また観にきてもいいですか? 習い事とかがあるので、今日みたいにいっぱい時間が取れることは少ないですけど」
「おう。いつでも全然いいぜ」
「やった、ありがとうございますっ」
あかりは本当に嬉しそうに笑った。
「っ……!」
(可愛すぎるだろ……!)
優がクリティカルを喰らって内心で悶絶していると、彼女は申し訳なさそうな表情になって尋ねてきた。
「あの、非常識な申し出なのはわかってるんですけど……」
「何?」
「今度もしこういう機会があったら、一人だけ友達連れてきてもいいですか? 今日渚園のライブ観るって言ったらすごい羨ましがってる子がいて、その子も相当ワンオク好きなので、百瀬先輩も気にいるかなーと」
「あー……」
優は返事に迷った。
あかりはそれを拒絶と受け取ったらしい。眉尻を下げて、
「やっぱり図々しすぎましたよね。ごめんなさい」
「いや、別に図々しいとかじゃねえんだけど……」
優は語尾をにごらせた。
迷っていた。その先を言うべきか、言わざるべきか。
同じ二軍なのだ。これから接する時間は増えるだろう。
しかし、先ほど言っていたように彼女は習い事やら何やらで忙しい。次にいつ二人きりの時間が取れるかわからない。
そして、そのときまで彼女がフリーである保証もない。
あかりは香奈とは違うタイプの美少女だ。元々彼女のほうが好みだという者もいれば、巧との関係性を見て香奈を諦め、代わりにあかりを狙おうとする者もいるだろう。
何人かには告白されているという噂も一年生から聞いている。
ウジウジしていたら誰かに取られるかもしれない——。
その恐怖心が、優を突き動かした。
「けどまあ、他の人を連れてくるのは遠慮してほしいんだ。ワンオク好きなら誰でもいいわけじゃなくて、俺はあくまで七瀬と観たいっつーか、そういう感じだからさ」
「……えっ?」
あかりはパチパチと瞬きをした。
意味がわからないというよりは、勘づいてはいるが信じられていないという表情だった。
「七瀬」
「は、はい」
「今ので気づいたとは思うけどさ。俺、七瀬のことが好きなんだ」
「っ——」
あかりが目を見開いた。
予想はついていても、実際に言われると驚いてしまうものらしい。
「えっと……冗談ではない、ですよね?」
「冗談じゃねえよ。本気だ」
「そう、ですか……」
あかりが考え込むそぶりを見せた。
「七瀬に全然その気がなかったのはわかってるし、今すぐ返事をよこせなんて言わねえけど、俺は七瀬と付き合いたいと思ってる」
「はい……ありがとうございます。お気持ちはすごい嬉しいです」
あかりははにかむように笑った。
「けど、そうですね。本当に予想だにしてなくて……少し考えさせてもらってもいいですか?」
「あぁ、もちろん。悪かったな、こんなタイミングで」
「いえ、嬉しかったのは本当です。なるべく早く答えを出すので、少々お待ちください」
それからあかりは「今日は本当にありがとうございました」と頭を下げ、改札を通ってホームへと向かった。
(すぐに断られなかったってことは、少しは脈アリなのか……?)
告白が成功したわけでもないのに、優は帰りの道中も
「すごく可愛かったわねぇ、囲っちゃいなさいよ」
「囲うってなんだよ」
美咲の冗談とも本気ともつかないセリフにツッコミを入れていると、少しだけ落ち着くことができた。
優は初めて母のお節介な性格に感謝した。
◇ ◇ ◇
携帯が着信を告げた。
「あれ、あかりからだ。ちょっと電話してくるねー」
「はーい」
「もしもしー」
『もしもし。突然ごめん。今少し大丈夫?』
「うん、大丈夫だよ。どうしたの?」
あかりからアポなしで電話がかかってくるのは珍しい。
『最近香奈と
「心配して電話くれたの?」
『当たり前じゃん。親友だよ?』
香奈の脳内に、ドヤ顔で鼻からふんすと息を吐いているあかりの顔が浮かんだ。
クスッと笑いながら、
「うん、ありがとう。でも大丈夫だよ。何もなかったわけじゃないけど、巧先輩とは上手くやれてるから」
『人には話せないことなんだ?』
「うん……ごめんね。せっかく心配してくれてるのに」
香奈一人だけの問題ではないし、さすがに親友相手といえどラブホテルに行ったとは言えない。
『いいよ。話したくないことの一つや二つは誰にでもあるだろうし。取りあえず、険悪になったとかじゃないんだね?』
「うん。私が生理前でイライラして理不尽に怒っちゃっても理解して優しくしてくれたし」
『へぇ、珍しいね。性教育もちょっとずつ進んできているとはいえ、そういうのに理解のある彼氏って』
「そうなんだよ!」
香奈は我が意を得たりとばかりに勢いよく同意した。
「一応勉強したんだってはにかむ先輩可愛かったなぁ……もう色々キュンキュンしちゃったよ」
『そして一線を越えたと』
「超えるかぁ」
香奈は空中に向かってチョップをかました。
「今絶賛生理中なのに」
『それもそっか。如月先輩にはしてあげてるの?』
「いや、ちょっと今は遠慮してもらってる。体ダルいし、ムラムラしても下はしてもらえないしさ」
『あー、なる』
「えっ、お尻はさすがに開発してないよ?」
『そういうつもりで言ってないよ。ただの相槌だった』
あかりが変態、とクスクス笑った。
香奈の頬が熱を持った。
「な、なんだ……下がダメならお尻でっていうのかと思った」
『そんなわけないじゃん。何、興味あるの?』
「な、ないよっ」
『如月先輩に頼まれたらどうするの?』
「……応相談」
『絶対受け入れるじゃん』
あかりがカラカラ笑った。
自分でもそのような気がしたので、香奈は何も反論できなかった。巧がお尻の開発許可や使用許可を求めてくるとは思えなかったが。
それから少し話して、あかりはもう休むと言い出した。
いつもより早いタイミングだったが、彼女が色々と忙しいことを知っている香奈は、無理に引き留めようとはしなかった。
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