先輩に退部を命じられて絶望していた僕を励ましてくれたのは、アイドル級美少女の後輩マネージャーだった 〜成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになったんだけど〜
第137話 モンスターマザーが学校に乗り込んできた①
第137話 モンスターマザーが学校に乗り込んできた①
退学処分になったことは学校を通じて親にも伝わっていた。
事情を尋ねてくる親に対して、彼女たちはこぞって学校の対応がいかに理不尽であるかを主張した。
「おかしいでしょ⁉︎ 私たちは大したことしてないのにっ」
「
「多少いい成績を残してるからって、サッカー部を明らかに優遇した対応よっ」
「今後少しでも接触したら警察沙汰にするとか脅してくるのやばくない⁉︎」
「弁明すら許さないとかどんだけサッカー部にエコ贔屓してんの、あり得ないでしょ!」
実際には弁明の機会があったにも関わらず、あまりにも意味不明な主張をして巧にすら呆れられたというのが実情なのだが、彼女たちの親、特に母親は全面的に娘の主張を信用した。
「私たちの娘が退学なんておかしいわ」
「えぇ、何かの間違いよ」
「これは抗議しなくてはなりませんわね」
元からつながりのあった三人の母親は結託した。
翌朝、退学になったばかりの娘を連れて学校に乗り込んだ。
校長から対応を丸投げされた
この親にしてこの子ありということなのだろうと思いつつ、もう一度丁寧に事情を説明する。
「事情は把握しました。ですが、やはり今回の処置はあまりにもサッカー部が優遇され過ぎているような気がしますわ。確かにウチの子たちも多少の責任は——」
「多少の責任? 下手をすれば四人の人生を潰しかねないことをしておいて多少で済むとお思いですか?」
「じ、人生を潰しかねないなんて、そんな大袈裟な」
「ねえ?」
母親たちはまるで馬鹿にするように笑みを交わした。
彼女たちは京極からもう一度説明を受けてなお、娘を退学させようと話を盛っているのだと勘繰っていた。
ウチの子が退学になんてなるはずがない——。
目の前に証拠の数々を並べられたのにも関わらず、彼女たちはそう信じて疑っていなかった。
むしろ、自分たちを学校という権力に立ち向かう正義のヒーローのように思って満足感を覚えてさえいた。
——彼女たちが娘の侵した罪にまるで罪悪感など覚えていないことは、京極にも伝わってきた。
ふざけるなと怒鳴りつけたいのを必死に堪え、静かに反論した。
「大袈裟ではありません。事実、あなた方のお子さんの脅迫が原因で二人の生徒は停学になっていますし、未遂に終わった女子生徒へのいじめも実際に指示役として行なった男子生徒へのいじめも、どちらも標的となった生徒の心を壊しかねない事案です」
「でも、結局二人とも普通に学校に来て部活にも参加しているんでしょう? それはつまり、娘たちのやったこともそこまで悪いことではないという証明ではないでしょうか?」
「結果として大丈夫だったからと言って許していいわけがないないでしょう。退学は妥当な判断です。それともあなた方は、悪口を書いたり私物を盗んだり壊したりするくらいは悪質な行為ではないとおっしゃるのですか?」
「で、でもっ、いじめられる側にも責任はあります! その子たちが何かをしたのでなければ、ウチの子たちが何かをするはずがありません!」
京極は呆気に取られた。
論点をずらしたかと思えば、自分の娘の非を棚に上げていじめられる側にも責任はあるだと? いい加減にしろ。
「……では、どう責任があるというのですか?」
「そりゃ、あいつらがどっちも調子に乗ってたからでしょ!」
親衛隊三人のうちの一人、
「私たちのことをイライラさせてたんだから、多少はやられても当然でしょ⁉︎」
「イライラさせていたとは、具体的に彼らは何をしていたんだ?」
「白雪は真君の誘いを断って如月なんかに
「如月だってそうよ! 身の程もわきまえずに真君と張り合って白雪とベタベタして、あいつもみんなの前で真君に恥をかかせた。あいつのせいで真君は調子を崩して怪我をしたんだから、ちょっと物壊されるくらい当然じゃない!」
「ほら、先生。いじめられた側だってこうして娘たちの応援している生徒を傷つけているのですよ」
京子の母親が勝ち誇ったように言った。
京極は鋭い視線を向けた。
「好きでもない異性からの下校の誘いやマッサージの頼みを断ることのどこに問題があるのでしょうか? 娘さんにもそのように教育なされているのですか? たとえ相手のことが好きでなかったとしても、そういう類の誘いは断らないようにと」
「っ……」
京子の母親だけでなく、援護射撃の構えを見せていた母親たち全員が押し黙った。
反論の余地がないことは明白だった。
京極は視線を生徒たちに戻した。
「君たちにいくつか質問をしよう。まず、白雪が真ではなく巧を選んだ。これのどこが悪いというんだ?」
「そ、そりゃ悪いでしょ! あの真君の誘いを断ったのよ⁉︎」
「それは本当に悪いことなのか?」
「……はっ?」
京子たちはわけがわからない、という表情を浮かべた。
「白雪は真と付き合っているのか? 将来の約束でもしたのか? 違うだろう。異性の好みなんてそれぞれ異なって当たり前だ。白雪にとっては真よりも巧のほうが魅力的だった、というだけの話じゃないのか?」
「そ、それがおかしいって言ってんのよ! 真君じゃなくて如月なんぞを選ぶのがっ」
自分の考えを主張したいというよりは、自分や周囲に言い聞かせているようだった。
「……本当にそう思っているのか?」
「は、はあ⁉︎」
「女子生徒は全員真のことを選ぶべき、なんて本当に思っているのか?」
「な、何が言いたいのよ!」
彼女だけではない。京子も瑞稀も、明らかに動揺していた。
京極は今が核心をつくべきタイミングだと判断した。
「お前たちは本当は自分たちの主張が間違っていることをわかっている。その上で、自分たちが推している真が一番でなければ気が済まなかっただけなんじゃないのか? あいつの人気が下がったら、自分たちの価値も一緒に下がるように感じているから」
「「「っ……!」」」
三人はビクッと肩を震わせた。
——京極の指摘は当たっていた。
彼女たちが真を神格化していたのは、そんな彼を応援している自分たちも偉くなったように錯覚するためだったのだ。
「そんなはずないだろう」
京極が語気を強めた。
「誰を応援していようと、お前たちの価値は変動しない。応援している者がどうなろうとお前たちは岩倉京子、太田瑞稀、橘若菜という一人の特別な人間なんだ」
「「「っ——」」」
三人が大きく目を見開いた。
京極は、自分の言葉が彼女たちに届いたことを確信した。
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