第136話 彼女に膝枕をしてもらった(オプション付き)

「私たちのことを知っているの?」

「はい。と一緒にいるのは何度かお見かけしていますから」

「そう……私は三年の青山あおやま志保しほよ」


 最初に姿を現した女子生徒——志保に続き、他の女子たちも次々と名乗った。


「警戒するのはわかるわ。でも、安心して。私たちは別にあなたたち二人に危害を加えにきたわけじゃない、謝罪に来たの」


 全員が横一列に並び、


「以前に白雪しらゆきさんに絡んだときも今回の一件も、私たちはあの三人を止められなかった。そのせいであなたたちは辛い思いをした。ごめんなさい」


 志保の言葉に合わせて一斉に頭を下げた。

 主犯の三人の自供と携帯に残されたやり取りにより、志保たちが香奈に対する恐喝や今回の一件に関わっていないことは判明していた。

 あの三人は「私たち以外が動いたらミスをするから」と他のメンバーに釘を刺していたのだ。


「先輩方は関わっていないのですから、あまりお気になさる必要はないと思いますが」

「いえ、一緒にまこと君を応援していた身として、彼女らの暴走を止められなかった責任はあるわ。それに私たちはその場の雰囲気に呑まれて、あの三人と一緒になって如月きさらぎ君の悪口も言ってしまったこともある。本当にごめんなさい」


 志保だけではなく、他のメンバーも口々に謝罪の言葉を述べた。

 その表情には本当に罪悪感がにじんでいるように見えた。


「……あの三人の意見が先輩方の総意ではない、ということですか?」

「その通りよ。彼女らは真君を神格化してもはや宗教化していたけど、私たちは純粋に彼を応援したいだけだもの。声がでかいからリーダーのように扱われていたけど、彼女らと同じ心持ちだった人はほとんどいないわ。少なくとも私たちはそうよ。もちろん真君の怪我が如月君のせいだとも思っていないし、白雪さんが彼になびかなかったことにも何も思うところはないわ」


 志保が強い口調で言い切った。

 巧は香奈と目線を交わしてから、


「わかりました。謝罪を受け入れます」

「っ……ありがとう」


 志保がホッとした表情を浮かべた。


「誹謗中傷さえしなければ、どなたを応援しようとみなさんの自由です。今後ともサッカー部をよろしくお願いします」


 志保は驚いたように目を見開いた後、にっこりと笑った。

 他のメンバーは、恐縮するように何度もペコペコと頭を下げていた。




 志保たちと別れて帰宅した後、巧と香奈は巧の家で並んでソファーに腰掛けていた。


「これで本当に一件落着って感じですね」

「うん。色々心労かけてごめんね」


 巧は香奈の頭を撫でた。

 彼女はくすぐったそうに目を細めた。頬はだらしなく緩んでいる。


「そんなことがないのを祈るけど、似たようなことがあれば抱え込まずに相談するから」

「はい。相談じゃなくてただ気持ちを吐露してくれるだけでもいいですからね」

「うん。ありがとう」


 巧は香奈を抱きしめた。


「本当に、香奈が彼女でいてくれて僕は幸せだよ」

「それはこちらのセリフです」


 二人は顔を見合わせて笑い合い、唇を重ね合わせた。


「巧先輩」

「何?」

「この凄腕美少女マネージャーが、先輩のことをねぎらって差し上げましょうか?」


 香奈がふふ、と笑った。


「えっ……いいの? 色々と迷惑かけたと思うんだけど」

「まあ、ちょこちょこ反省していただきたいところはありますが、それは今後気を付けてくれればいいですし、何より巧先輩が一番辛かったのは事実ですから。ささ、どうぞどうぞ」


 香奈が柔らかい笑みを浮かべ、自分の太ももをポンポンと叩いた。

 どうやら労いとは膝枕のことだったようだ。


 以前にもされたことはあるが、付き合ってからはなんだかんだで初めてだった。

 もちろんただの先輩後輩だった前回と彼氏彼女である今回とでは心の持ちようも異なるが、魅力的な提案であるという点では同じだった。


「し、失礼するね」

「はーい」


 若干の緊張を覚えつつ、巧は惜しげなくさらされた真っ白な太ももを枕がわりに寝転がる。

 程よく肉のついたムチムチとした感触とほのかに香る女の子特有の甘い匂いは、まさしく男のロマンと呼ぶのに相応しいものだった。


「巧先輩。どうですか?」

「す、すごくいいよ」

「ふふ、それはよかった。ただ、これだけで満足してしまっては困りますな。今日は特別なオプションがついているのです」


 香奈がニヤリと笑い、ババーンと効果音でもつきそうな所作で何かを高々と掲げてみせた。

 それは先端の丸まった、白くて細い棒だった。


「……綿棒?」

「正解です! 膝枕プラス耳かきもまた男のロマンだと聞いたのですが、いかがなさいますか?」

「じゃあ、お願いしようかな」

「任されました! 痛かったりしたら言ってくださいね」

「うん、ありがとう」


 香奈が優しい手つきで綿棒を耳の中に入れていく。

 少しこそばゆく、気持ちの良いものだった。


 鼻歌を歌いながら耳かきを続ける香奈は前屈みになっているため、巧の顔のすぐ上に彼女の豊かな果実があった。

 彼氏なのだからそこに視線を向けても良いのだろうし、なんなら今まで何度も触っているのだが、なんとなく現在の体勢も相まって恥ずかしく、巧は一貫して正面を向いていた。


「終わりました。反対向いてください」

「う、うん」


 巧は百八十度回転した。

 眼前に香奈のお腹や陰部がある。普通に服を着ておりへそ出しファッションでもないため、実際に何かが見えているわけではない。

 しかし、見えてはいないもののすぐ近くにあるというシチュエーションは、逆に想像力やら何やらを掻き立てられた。


 嫌がらせへの対応で悶々としていた最近は、香奈と性的な接触をしていなかったばかりか、自家発電すらもロクにしていなかった。

 端的に言えば溜まっていた。情欲という内面的なものだけでなく、巧のソレ自体もむくむくと頭をもたげていた。


「よし。大体終わりましたよ」

「ありがと。あの、それでさ、香奈」

「なんでしょう」

「その……耳だけじゃなくて、他のところもお願いしていい?」

「えっ? ……あぁ」


 すっかり盛り上がっていたので、香奈も「他のところ」がどこを指すのかすぐに気づいたようだ。

 彼女は途端にニマニマと相好を崩した。


「巧先輩はエッチな人ですねぇ。ただの耳かきなのに」

「うっ……ごめん」

「ふふ、仕方ない人ですね。いいですよ」


 香奈は綿棒をゴミ箱に捨てると、巧のソレに手を伸ばした。

 呆れをにじませつつも、その表情はどこか嬉しそうだった。

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