第115話 彼女の胸を揉んだ。そして……
胸に手を当てているその表情は不安そうではあるが、頬は上気しており、瞳は潤んでいた。
「……いいの?」
「か、彼女ですもん」
香奈が頬をさらに真っ赤に染めつつ、うなずいた。
巧は本当にいいのか迷った。しかし、ここまで言ってくれているのに触らないのも失礼な気がした。
断ればせっかくの香奈の勇気を踏みにじることになるし、常々触りたいとは思っていた。
端的に言って、断る理由がなかった。
「じゃ、じゃあ……触るよ」
「は、はい」
巧はあぐらをかいた足の間に香奈を座らせ、バックハグの形で背後から手を回した。
男のロマンが詰まったその膨らみを、両の手のひらで包み込む。
「おおっ……」
感動の声が漏れてしまった。
見た目通り柔らかいが、想像していたよりもずっとハリがあった。
巧は腫れ物を触るように優しく揉んでみた。
まるで意思を持ったように押し返してくる。
「ん……」
香奈が吐息を漏らした。
巧の全身がゾクゾクした。血液が一点に集まっていく。
下から持ち上げるようにしてみる。ずっしりとした重量感があった。
また、感動の声が漏れた。
「ど、どうですか……?」
振り返った香奈の顔には不安と羞恥、そしてわずかな期待がのぞいていた。
「す、すごいよ……柔らかいのにしっかりとした弾力があるし、なんかこう、存在感もあるし……最高です」
「あ、ありがとうございますっ……」
香奈がはにかむ。どこか安心しているように見えた。
(……可愛いなぁ)
香奈を抱き寄せ、キスを落とした。
何度か唇を触れさせた後、舌を口内に侵入させた。
「ん、んん……はぅ……!」
香奈も巧の首に腕を回し、必死に自らの舌を絡めてくる。
唇を離した際にかかった透明な橋が、やけに官能的に見えた。
香奈と目を合わせる。何か言いたげだった。
すぐにでも胸を揉み、キスをしたいところだったが、巧はどんぶりを米粒一つ残さず食べ切るときのように体中から理性をかき集めて待った。
「——巧先輩」
「何?」
「もう二度と、先輩以外の男の人には触らせませんから。胸だけじゃなくて、頭も手も肩も、私の全部」
「っ……!」
香奈が、真に接触を許していたことに対する
「——香奈っ」
巧は香奈をベッドに押し倒した。
「いい?」
「は、はいっ……」
香奈は真っ赤な顔でこくりとうなずいた。
胸を触らせた時点で、こうなる運命は受け入れていた。
昨日の巧のおよそ彼らしくないオスの部分を見て思ったのだ。自分は彼に我慢をさせてしまっているのではないかと。彼は本当は早く一つになりたいと思っているのではないかと。
香奈がキスだけでいっぱいいっぱいになってしまうから口にしないだけで。
付き合ってから二週間以上が経過した。
これだけ頻繁にお互いの部屋を行き来しているカップルなら、一線を越えてもおかしくないくらいの時間は経っている。
ならば、自分が覚悟を決めるべきだと思った。
だからあえてベッドの上に座り、胸を触らせ、巧が手を出しやすい環境を作った。
昨日は恐怖してしまったが、最初から覚悟していれば大丈夫なのではないかとも思っていた。
バンジージャンプでもなんでもそうだが、覚悟していれば恐怖を感じなくなるほど、人間の脳は単純ではない。
うなずきはした。もちろん全力で受け入れるつもりだ。
(でも、やっぱり怖いっ……)
「——やめよっか」
あれだけギラついていたはずの巧が、スッと上体を起こした。
「えっ……?」
香奈は肩透かしを食らった気分になりながら起き上がった。
そんな彼女の頭にポンッと手を乗せて、巧は優しげな口調で言った。
「香奈、ちょっと怖がってるでしょ」
「っ……!」
香奈は目を見開いた。まさか、気づかれているとは思わなかった。
(また、気を遣わせちゃった……)
情けなさが込み上げてきた。涙という実体を伴って表面化した。
「ふぐっ、ご、ごめんなさいっ……!」
「大丈夫、大丈夫だよ」
巧は泣きじゃくる香奈を抱き寄せた。
「泣かないで。僕は怒ってもないし、落胆もしてないから」
巧は大丈夫、大丈夫、と繰り返しながら、香奈の頭を撫でた。
「で、でもっ……シたいんですよね……?」
「それは、まあ」
巧は頬をかいた。
「じゃ、じゃあ——」
「でも、僕の一番の幸せは香奈が笑っていることだから」
「っ……!」
香奈が息を呑んだ。一度止まった涙が再び溢れ出す。
「香奈が怖いと思うならシたいなんてこれっぽっちも思わない。だから焦らないで。君が本心からシたいって思えるまで、いくらでも待つからさ」
「っ……はいっ、ありがとうございます……!」
香奈は巧の胸に顔を埋めた。
「泣き虫さんだなぁ」
巧は愛おしげに香奈を見つめ、震える華奢な体を抱きしめた。
完全に欲が収まったといえば、それは嘘になる。
それでも、香奈が怖がっている。それだけで自分を抑えるには十分だ。
というより、自然にほとんどそういうことをする気も起きなくなっていた。
泣き止んだ香奈は、巧の膝の上に横向きになった。その胸に頬を寄せる。
「その、私だっていつかはとは思っているんです。決して嫌なわけじゃないし……けど、今はこうしているので満足しちゃうんです。これって変ですか?」
「全然そんなことないよ。男女の違いもあるだろうし、そうやって自分の気持ちを伝えてくれるのが大事だから。ありがとね」
「いえ、こちらこそありがとうございます。巧先輩には気を遣ってもらってばっかりです」
「あんまり気遣ってるっていう感覚はないけどね。ただ、香奈を大切にしたいってだけだから」
「っ……もう、まーたそういうことをサラッと言っちゃうんですから。凄腕のジゴロですね、先輩は」
香奈が呆れたように、それでもニヤけを隠しきれていない表情で巧の頬をつついた。
彼女はその手を巧の首に回し、頬にキスをした。
面と向かって大切にしたいと言われ、嬉しくないはずがなかった。
「大好きです、巧先輩」
「っ……!」
巧は息を呑んだ。
彼女からのキスと愛の
……などと思考を逸らしつつも、やはり好きな人に密着した状態でそんなことをされれば、どうしても臨戦体制に入ってしまうのが男という生き物の宿命だ。
横抱きの体勢で巧に寄り添っていた香奈も、当然彼のそこが再び存在感を主張し始めていることには気づいていた。
彼女はそれを見ながら言った。
「あの、巧先輩……それ、辛くないんですか?」
巧は目を
「……もしかして、僕の理性を試そうとしてる?」
「ち、違います!」
香奈はパタパタと手を振った。
「そうじゃなくてっ、その、我慢させっぱなしなのは私としても申し訳ないですし……ほ、本番はまだちょっと怖いですけど、手とかならいい、ですよ?」
「……無理してない?」
「大丈夫です。私も関係を進めたいとは思ってますから」
香奈は力強く言い切った。
巧は当初、理性で耐え切るつもりだった。
しかし、そんな魅力的な提案されてしまえば、一度は最高潮まで高まった欲を我慢できるはずもなかった。
「じゃ、じゃあお願いしてもいい? あと、あの……」
「はい?」
「できればその……口、でもしてほしい」
「も、もちろん」
香奈が気恥ずかしそうにうなずいた。
「ただ、初めてなのでうまくできるかわかんないですけど……」
「全然いいよ。嫌だったらやめてくれていいから」
「はい……」
香奈の手が、巧のズボンに伸びた。
自己申告通り香奈が不慣れだったこともあり、肉体的な快楽は想像を絶するほどではなかったが、彼女にそんなことをさせているという精神的な快楽はすさまじかった。
巧は結局二回も出してしまった。
「二回目なのにこんなに……巧先輩もやっぱり男の子ですね」
「……悪い?」
「いいえ、むしろ嬉しいです」
香奈がはにかんだ。
「私でこんなふうになってくれてるんだって——せ、先輩?」
「香奈は本当に煽るのが上手いね」
巧は香奈の肩を抱いた。
「んっ……」
丘を優しく手のひらで包めば、香奈が色っぽい声を出した。
尖っている頂に指先を這わせる。
「あっ……」
香奈が切なげな声を漏らした。
その瞳ははっきりと欲情していた。
「いっぱいしてもらったし、僕もお返しするよ。いいよね?」
巧が一応確認を取れば、耳まで真っ赤になった彼女は顔を背けつつ——、
こくりと一回、小さくうなずいた。
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