先輩に退部を命じられて絶望していた僕を励ましてくれたのは、アイドル級美少女の後輩マネージャーだった 〜成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになったんだけど〜
第111話 体育祭③ チームメイトに邪魔をされた
第111話 体育祭③ チームメイトに邪魔をされた
「おい、忍者がいるぞ!」
「あいつ絶対見えてなかっただろ!」
「すげえ⁉︎」
ギャラリーの歓声を聞いて、騎馬の三人も気づいたようだ。
「おい、巧。いつ取ったんだよ?」
「今さっきだよ」
「えっ、俺らの後ろ……にいたよな?」
「うん」
事もなげにうなずいてみせる
「どうよ悟」
「なんで
誠治と悟が笑い合うが、
活躍をさせないつもりが、逆に陽の目を浴びさせてしまった。
(……いや、焦るな。今のはたまたまだろ)
正樹はそう自分に言い聞かせたが、もちろん偶然ではない。
偶然でなければ、二度目が起こるのは必然だった。
「おい、騎馬戦でほぼノールックなんてありなのかよ⁉︎」
「あんなの避けれるわけねー!」
「もしかして下のやつらが積極的にいかないのも、正面衝突する必要ねえからじゃねえのかっ?」
「うわ、それだわ!」
正樹の狙いとは裏腹に、ギャラリーは巧の凄技で次々と盛り上がった。
(く、くそっ、どうなってやがる⁉︎)
もはや巧の視野がとても広いことは誰の目にも明らかだったが、正樹はそこにたどり着けなかった。
自分が見えていないところを巧が見えている。嫌がらせをするつもりが逆に彼の能力を引き出してしまっている。
それらの事実を認めるには、正樹のプライドは高すぎた。
その後も巧は空間把握能力を(無駄に)使って、背後からの攻撃を避けるなどして観客を沸かせつつ、最後の一対一も制して赤組勝利の立役者になった。
当然、クラスメートは大盛り上がりだ。
「文句なしのMVPだろ、これ!」
「格好良かったよっ」
「ねえ、どうやってやってたの⁉︎」
「俺も気になる!」
「なんだよあれ⁉︎」
キラキラと期待のこもった視線を向けられ、巧は困惑した。
「どうやってって言われても……見えてたから取ったって感じだよ。僕、視野は広いんだ」
「マジで⁉︎ あんな角度見えてたのかよ!」
「巧、お前すげえなっ」
「ほとんどノールックでサッてとるの、めっちゃ格好良かったよ!」
「それな! 令和の忍者だっ」
「巧から忍に改名したほうがいいと思う」
「待って待って。勝手に名前変えないで」
どうして僕はこうも改名させられそうになるんだ、と巧は苦笑いを浮かべた。
「おい、忍」
「だから勝手に忍者にしないで。手裏剣投げるよ」
「忍者じゃねーか!」
漫才のような巧と誠治のやりとりに、その場は笑いに包まれた。
——すでにプライドがズタズタになっていた正樹に、それを静観することはできなかった。
彼はなんとかして巧を蹴落としつつ、自分が注目の的になろうとした。
「巧、お前よく俺の意図に気付いたなぁ。視野
その瞬間、空気がシーンと静まり返った。
外から見ていた者たちは、正樹の狙いに気づいてはいなかった。
しかし、あえて「だけは」を強調した彼の物言いには多くの者が嫌悪感を覚えた。
——ずっと一緒に戦っていた誠治と悟は、途中で正樹の狙いに気づいていた。
「はあ? お前いい加減に——」
「誠治」
巧は誠治を制した。
真っ直ぐで曲がったことが嫌いな彼は、おそらくど正論を繰り出してしまうだろう。
(それは、この後も体育祭を楽しむためには抑えてもらわないとね)
巧は誠治に笑いかけてから、顎を上げて自分を見下ろしている正樹に向き直った。
「僕もなかなかやるでしょ? 正樹の誘導が正確だったから楽に取れたよ。ありがとね」
「っ……!」
まさか認められるとは思わなかったのだろう。正樹が唖然とした表情を浮かべた。
「まあ、誠治がいたからちょっと不安だったけどね」
「おい」
「嘘だよ」
巧はポンポンと誠治の肩を叩いた。
「もちろん正樹にも誠治にも悟にも感謝してるし、それに他の隊もそれぞれすごい頑張ってた。これは全員で掴んだ勝利だよ」
「だな。A組最高ー!」
「「「おおー!」」」
ムードメーカーの悟に続いて、巧たちは揃って拳を突き上げた。
「赤組最高ー!」
「「「うおおおおー!」」」
同じくムードメーカーの
「……くそっ!」
またまたあしらわれる形となった正樹は、顔を真っ赤にしてその場を去っていった。
いい加減学んでくれないかな、と巧は思った。
イラついてはいなかった。人間が誰かに腹を立てるのは、決まってその人物に何かを期待しているときだけだ。
その意味で、巧は正樹のことは「まあこういうこともしてくるよね」くらいにしか認識していないため、呆れることはあっても怒りの感情は湧かないのだ。
「今何点差だっ?」
「六十点差だ。このまま逃げ切ろうぜ!」
周囲はすっかりわちゃわちゃ感を取り戻していた。
巧は悟に耳を寄せて、
「ありがとね。場をもう一回盛り上げてくれて」
「お前の大人な対応があったからこそだろ」
悟は白い歯を見せた。
誠治や
であるならば、正樹のような人物がいても仕方のないことなのかもしれない。
全体の最後の種目は、クラス対抗リレーだった。
巧たちのクラスは正樹がバトンを失敗してしまい、一時最下位に転落した。
しかし誠治が
「頑張れ冬美ー!」
「
「冬美ファイトー!」
「いけるぞ久東!」
クラスメートの応援を受け、冬美は懸命に足を回した。
しかし、他のアンカーも各クラスで一番早いメンバーだ。抜かれることはなくとも、追いつくことは簡単ではなかった。
最終コーナーで一人抜かした。一位の背中は捉えかけていた。
「いけー、抜けー!」
「抜かれるな、耐えろ!」
「頑張れ、抜き返してやれ!」
様々な応援が飛び交う。
さすがに一位はキツいか——。
そう思った瞬間、冬美の耳にその声は飛び込んできた。
「久東さん、頑張れ!」
みんなが歓声を送っていて、もはや誰が何を言っているのかわからない状態だった。
それなのに、その声援だけは鮮明に聞き取れた。
自分でも驚くほどに力湧いてきた。
「っ……!」
その事実に溢れ出た様々な感情もろとも、パワーに変えた。
ラスト三メートル。冬美は一位に並んだ。
一位だった女子が焦りの表情を浮かべた。
冬美はそちらに視線を向けることなく、ただひたすら前を目指した。
自分の胸がゴールテープを切るのが、やたらゆっくり見えた。
「——一位はA組っ、大逆転勝利です!」
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