先輩に退部を命じられて絶望していた僕を励ましてくれたのは、アイドル級美少女の後輩マネージャーだった 〜成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになったんだけど〜
第106話 美少女後輩マネージャーのピンチ
第106話 美少女後輩マネージャーのピンチ
絡んできた女子三人が
油断した——。
真のことをハッキリと拒絶してからは
しかし、親衛隊からは恨みがましい視線を送られることはあっても何もされていなかったし、尿意を催したときはちょうど自分以外のマネージャーが忙しそうだった。
加えてグラウンドではちょうど真のチームが紅白戦を行なっていたため、今なら大丈夫だろうと判断してしまったのだ。録音の準備もしていなかった。
しかし、それは仕方のないことだろう。
地震への備えとして枕元に靴を持っていくといいと言われていても、大抵の人間は数日でやめてしまうのと同じだ。
「
「な、何がですか?」
香奈は恐怖心を押し殺しつつ、問い返した。
「はっ? 何がじゃねえよ。お前、真君のマッサージ断るとかどういう神経してんの?」
「真君に恥かかせてんじゃねえよ、ふざけんなよマジで」
いや、普通にただあいつが自爆しただけでしょ——。
本当はそれくらいは言い返したかったが、火に油を注ぐことは目に見えていたのでやめた。
どうやってこの場を切り抜けるか。
香奈は必死に考えを巡らせた。
今後の自分のためにも、なるべく大事にはしたくない。
しかしここは女子トイレだ。
最悪の場合は大声で叫ぶしかない——。
そう思いつつ、香奈はまずは穏便に済ませようと口を開いた。
「
「はっ? でもお前、前にも真君が下校誘ってくれたのに断ったらしいじゃん。どういうつもり?」
「如月先輩と帰る約束をしていましたから」
「お前ふざけてんの? あの真君が誘ってくれてるのに如月ごとき取るとか舐めてんでしょ」
「……如月ごとき?」
香奈の眉がぴくりと動いた。
親衛隊の三人は鼻で笑った。
「ごときでしょあんなん。所詮は周りに頼ることしかできない雑魚。一人でなんでもできる真君とは雲泥の差じゃん。それに、多少は垢抜けたって真君には遠く及ばない。あいつがなんかいい感じに言われてるのって、元が大したことなかったからでしょ」
「ヤンキーが子犬助けたら好感度爆上がりするみたいなもんだよねー」
「ね! 今の如月なんて、整形失敗した真君でやっと並べるくらいでしょ」
「いや、それでも無理じゃね?」
「無理だわ」
三人はギャハハハハ、と下品な笑い声を上げた。
香奈は自分が不利な状況であることも、穏便に済ませるためには冷静でいなければいけないともわかっていた。
しかし、目の前で大好きな彼氏を馬鹿にされて黙っていられなかった。
「そんなのは所詮、個人の一意見でしょう」
「……あっ?」
「あなたたちにとっては
「……やっぱりお前、調子乗りすぎだわ」
「舐めてんでしょ、媚び売ってるだけのメスの分際でさ」
「一回わからせておくか」
三人の顔は等しく憎悪に染まっていた。
(や、やばっ!)
香奈は我に返った。
しかし、後悔先に立たず。彼女にできることはなかった。
「そのご自慢の顔、ぐしゃぐしゃにしてやるよ」
リーダー格の女が香奈の胸元を掴んだ。
叫べなかった。喉が完全に封鎖されているかのようだった。
振り上げられた拳を見て、香奈が目をつむった瞬間——、
「——そこまでよ」
「っ……!」
香奈は涙が溢れそうになった。
「冬美、先輩……⁉︎」
凛とした声とともに姿を現したのは冬美だった。彼女は香奈を殴ろうとしていた女の手首をがっしり掴んでいた。
「私もいるよ」
「
少し離れたトイレの入り口では、愛美が携帯を構えていた。
「香奈、愛美先輩のほうへ行きなさい」
「っはい!」
香奈は硬直している三人の脇をすり抜けた。
愛美が背中に隠してくれる。涙が溢れてきた。
「うっ……うぅ……!」
「もう大丈夫だよ。頑張ったね」
愛美がしゃくりあげる香奈の頭にポンッと手を乗せた。
「よくも後輩に手を出してくれたものね」
冬美は掴んでいた手首を締め上げた。
「いっ……⁉︎ は、離せよ!」
「はい」
冬美が言われた通りに解放してやると、必死に拘束から逃れようとしていた女は勢い余って尻もちをついた。
冬美は冷え切った瞳で見下ろして、
「今までのやり取りは撮らせてもらったわ。あなたたちが香奈に対して暴言を吐いたのも手を上げたのも、すべてね」
「なっ……!」
「ひ、卑怯よっ!」
ヒステリックな声をあげて、別の一人が掴みかかってくる。
冬美はそれを軽くあしらった。学年一の運動神経を持つ彼女にとっては、ただ突っ込んでくるだけの女子生徒の相手など容易いことだった。
「人が来ないトイレで三人がかりで後輩を襲っておいて、卑怯なのはどちらかしら?」
「ぐっ……!」
残りの二人も怒りで顔を真っ赤にしているが、飛びかかってくる様子はない。
さすがにさらに不利になるだけだとわかっているのか、はたまた怯えているのかはわからないが、冬美にとってはどちらでもいいことだった。
「もし今後彼女に何かをしてみなさい。あれを学校と教育委員会に提出するわ」
冬美は愛美の持っている携帯に目を向けた。
「っ……く、くそ!」
「これは立派ないじめの証拠だから、確実に親には話がいくし、停学や退学処分になるかもしれない。最悪警察のお世話になるかもね」
「て、てめえ愛美っ!」
淡々と語る愛美を、三人は恨みのこもった視線で睨んだ。
彼女たちは全員が三年生で、愛美とは顔見知りであった。
「何? なんか文句あんの?」
「「「っ……!」」」
愛美はドスの効いた声を出した。
息を詰まらせた三人を睨みつける。
「香奈ちゃんも言ってたけど、自分の好みや価値観を人に押し付けるなよ。誰かにとっての好きは、別の誰かにとっての嫌いなんだからさ。西宮君が好きなら単純に彼を応援してればいいじゃん。他のやつらの評価なんか気にせずに、内輪で盛り上がってなよ」
「なっ……⁉︎ え、偉そうに言いやがって!」
「録音なんて卑怯な手を使わなきゃ何もできないくせにっ」
「覚えてろよてめえら!」
三人はおよそ大和魂とはかけ離れた汚い捨て台詞を吐いて、走って逃げていった。
「あっ……」
緊張が緩んだのだろう。香奈はへなへなとその場に座り込んでしまった。
「よく頑張ったわね」
「冬美先輩っ……!」
冬美に抱きしめられて頭を撫でられ、再び涙してしまった。
涙は比較的すぐに止まった。
香奈は恥ずかしさから、愛美と冬美の目を見れなかった。
「あ、あの……お二人はなんでここに?」
「彼女らがあなたの後を尾けていくのに気づいたからよ」
「すごっ……さすがの観察力ですね」
「西宮君とやり合った後だから、みんなで注意はしていたんだよ」
得意げにしてもいい場面で、愛美と冬美の表情は暗かった。
どうしたのだろう。香奈が疑問に思っていると、不意に二人が視界の外にフェードアウトした。
アリ地獄に飲み込まれたわけではない。揃って頭を下げたのだ。
「「ごめんなさい」」
「……へっ?」
脈絡のない唐突な謝罪に、香奈は固まった。
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