いわき乃無風
早里 懐
第1話
暑さ寒さも彼岸までという言葉がある。
すでにお盆は過ぎているがまだまだ暑い日が続いている。
休日はエアコンの効いた部屋で映画を見ながら過ごすことを計画していた。
ちなみに見たい映画も決まっていた。
しかし、約10万年周期で地球に氷河期が訪れるように私の身にも数年に一度ストイック期が訪れる。
今がまさにそのストイック期真っ只中だ。
よって、目を覚ますと考えが一変していた。
山を歩いて汗をかくことにしたのだ。
しかし、遠くの山には行けない。
何故なら今日は妻が仕事のため夕飯作りを私が担当するからだ。
余談だが、私の得意料理はバーモン◯カレー、こく◯ろカレー、◯ャワカレーの3品だ。
本日はその中で最も得意とするバー◯ントカレーをチョイスした。
夕方には夕飯の準備に取り掛かる必要があるため、比較的近場の山を検索した。
その結果、石森山がヒットした。
仕事に行く妻を見送った後、そそくさと準備を整え出発した。
フラワーセンター近くの駐車場に車を停めて山歩きを開始した。
予想はしていたが歩き始めると私の周りにメマトイが付き纏う。
私はたまらず持っていたタオルを勢いよく振り回した。
歩き始めてすぐに絹谷富士の山頂に到着した。
里山のためあまり期待はしていなかったが眺望はとても良かった。
その後は絹谷小富士を目指した。
タオルを振り回してかれこれ20分は経過している。
メマトイは変わらず私に纏わりついてくる。
すでに私の鼻の穴に2匹が突入して行方知れずだ。
タオルを回し続けている右腕もパンパンだ。
このままではメマトイの餌食になってしまう。
その時だ。
私の脳裏にある光景がフラッシュバックした。
確かあれは男性4人組で「平塚乃隙間風」という名前のグループだったと記憶している。
そのグループの野外ライブの映像を見たことがあるが、観客は皆タオルをぐるぐると振り回していた。
今の私と同じだ。
野外ライブのため皆メマトイに付き纏われていたのだろう。
「鎌倉乃先輩風」のライブを見にきているのに散々な思いをしたのではないか。
その無念さは私には計り知れない。
しかし、あの時の大勢の観客は皆メマトイに負けず、タオルを回しながら頑張っていた。
私もこんなところで負けるわけにはいかない。
そう思うと自然と力が湧いてきた。
私はタオルを回し続けた。
その後、絹谷小富士に辿り着いた。
眺望は全くと言っていいほど無いためそのまま素通りした。
次は石森山を目指した。
散策路を抜けると車道を歩くことになる。
日差しが私の皮膚をジリジリと焼くため足早に歩いた。
風があればいくばくが涼しさを感じられるのだが本日は無風だ。
しばらくすると石森山の登山口が見えてきた。
注意していないと見過ごしてしまいそうだ。
登山口からは木々の生い茂る山道を歩く。
メマトイに加え蜘蛛の巣も容赦なく私を攻撃してくる。
途中でアトラスの気配を感じたが、私はもうアトラスには頼らずとも山歩きができるワイルドさを兼ね備えている。
タオルをぶん回しながらひたすら進んだ。
石森山の山頂にはすぐに辿り着いた。
頂上は残念だが眺望はなかった。
すぐに下山し駐車場まで続く車道を照りつく太陽のもと歩いた。
車に着くとすぐに着替えた。
距離や高低差は大したことはなかったが、とても体力を消耗した。
暑さが原因だろう。
シャツを絞れるほど汗もかいた。
ストイック期にはうってつけの山行になった。
ここは福島県のいわき市だ。
いわき市は東北にありながら温暖な地域であるため「東北の湘南」と言われているそうだ。
私は車内をいち早く冷やすために、カーウインドウを全開にして走り出した。
東北の湘南乃風が勢いよく車内に吹き込んできた。
いわき乃無風 早里 懐 @hayasato
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
綿毛の行方 〜日向山〜/早里 懐
★3 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます