第23話 大人の会議(2)


「今、お名前が出ましたが、ウンラン様とミンリン様の間にお座りなのが、村長むらおさのフーチャオ殿です」


と、シアユンさんが紹介すると、精悍せいかんな体つきに不敵ふてき面構つらがまえのおっさんが、頭を下げた。剣士長のフェイロンさんと同じくらいの歳かな? 村長むらおさってもっと年寄としよりがやるもんじゃないの……?


「王国北辺ほくへんにあって、流れ者の多いジーウォの民を取りまとめていらっしゃいます」


あー、なるほど。荒っぽい人も多いってことか。このくらいあつのある人じゃないとまとめられない感じなのね。たぶん。


「ジーウォは元はただの荒れ地にもうけたとりででしたので、土着どちゃくの民はおりません。長らく王都からの物資ぶっしだけでいとなまれておりましたが、最低限の食料は自給できるよう開墾かいこんが進められ、その際に移り住んだ者たちがほとんです」


それでか。元々、兵士というか剣士1,000人に住民1,400人ってバランス悪いなって思ってたけど、そういう理由か。軍事都市ぐんじとしってことね。都市って規模ではないから、軍事集落しゅうらく


村長むらおさ会同かいどうに出席するというのは、ジーウォ独特どくとくの仕組みで、王国でも他に例がございません。それだけ……」


シアユンさんが言葉を切ると、フーチャオさんが「はっ」と、楽しげに短い笑い声を上げた。


「侍女さん。言葉を選ばなくていいんじゃないか? それだけ、荒くれ者も多いってことですな」


と、フーチャオさんはニヤリと笑った。でも、イヤな感じじゃない。「兄貴!」って呼びたくなる感じ。若い頃は悪かったんだろうなっていう、頼り甲斐がいありそうなおっさんだ。


俺がうなずくと、二カッという笑顔をつくった。兄貴あにきだ。兄貴の笑いだ。親分おやぶんじゃなくて若頭わかがしら感がスゴイ。


「そう心配しなくても大丈夫ですよ。ほとんどは善良ぜんりょうな農民や商人だ。ほんの少し、そうではない者もいるってだけのことですよ」


ほんの少しで特別な制度が設けられる訳がないって思ったけど、とりあえず、ここは信じよう。そういう人たちをまとめるのがフーチャオさんの仕事なんだろうし。


「以上が、ジーウォ城の三卿さんきょう一亭いっていでございます。マレビト様からもお言葉を頂戴ちょうだいできれば」


と、シアユンさんが俺の方に頭を下げた。すると、円卓えんたくを囲む大人たちが一斉に俺の方を向いた。おお、そうだ。異世界召喚だのマレビトだので、気持ちが舞い上がってたけど、一昨日まで、ただの高校生だったんですよ。俺だけ子供だ。


「お、俺の名前は……」


と、俺が口を開くと、剣士長のフェイロンさんが手で制した。


「マレビト様。祖霊それいは人間の名前を嫌います」


なにそれ?


御身おんみは祖霊に選ばれたうえ。お名乗りいただく必要はございません」


「申し訳ございません」


と、シアユンさんがもう一度、頭を下げた。


「私からご説明しておくべきでした」


いやいや。そうか。確かに、誰からも名前を聞かれてない。百海どうかい勇吾ゆうごって、立派な名前があるんだけどな。え? なんて言えばいいの?


「えっと……。マ、マレビトです……」


すごい間抜けな挨拶あいさつしてる気がするけど、仕方ない。皆、真面目な顔で聞いてるし、これで正解なんだろう。


「……ど、どうしたらいいか分かりません」


という、俺の言葉に皆がキョトンとした顔になった。


「えっと。ここで俺は何したらいいのか、まだ分かってません。よ、よろしくお願いします」


「いいじゃねぇか、正直で!」


と言ったのは、兄貴な村長のフーチャオさんだ。何に満足したのか、小気味よく笑ってる。


円卓を囲む皆さんの視線が、フーチャオさんに集まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る