第22話 大人の会議(1)


小太こぶとりのおっさんがニコニコしてるのにいやされる日が来るとは。俺まだ18やぞ。


城にいる純潔じゅんけつ乙女おとめ全員と入浴という、嬉しいんだか拷問ごうもんなんだか分からないイベントの後、さすがに寝室しんしつしのび込んでくる女子はおらず、異世界こっちに来て初めてグッスリ眠れた。


里佳と温泉に浸かってるという夢で飛び起きてしまったけど、よく寝られたおかげで頭はスッキリした。


日本にいるとき、里佳を相手にエロい夢なんか見たことなかったのに、次々に起きる色んな刺激が脳内のうない処理しょりし切れてないんだろう。そういえば、卒業式のあと家族で温泉に行くって言ってたな。今頃、どうしてるんだろう……。


とか考えてると、シアユンさんがむかえに来てくれて、城をおさめる最高幹部さいこうかんぶが集まる『三卿さんきょう一亭いってい会同かいどう』に向かった。


案内された部屋で、円卓えんたくの一番上座かみざに座らされると、最初に目に入ったのが小太りのおっさんだ。


なごむわぁ。


ほかにつきのするどいおっさんが2人と……、ミンリンさん。ああ。ダメだ。やっぱり風呂場での姿がポンッと頭に浮かんで離れない。


「では最初に、私から皆様みなさまをご紹介させていただきます」


と、俺の横に立ってるシアユンさんが言った。うん。ちょっと気合きあいれますね。椅子いすに座ってる俺の頭の真横の辺りにちょうど、シアユンさんの細い腰が来てるの意識してしまいますけど。


「マレビト様の左にお座りなのが剣士長けんしちょうのフェイロン様です」


赤茶あかちゃけた長いかみに黒いひげ、こけたほおするどい眼つきのおっさんが軽く頭を下げた。剣士団の長って聞いてたから、もっと貫禄かんろくある感じの人を想像してたけど、神経質しんけいしつそうで剣の達人っぽい雰囲気だ。


「6年前に侵攻しんこうしてきた北の蛮族ばんぞくとのいくさでご活躍され、つねに蛮族たちの返り血で真っ赤にそまった姿から『あかおに』のふたが王都にとどろいた剣豪けんごうでいらっしゃいます」


おお。強いんだ。そりゃそうか。イーリンさんたち剣士を束ねてるんだもんな。年は親父と同じくらいかな? だとすると40代前半ってところ。


「右にお座りなのが司徒しとのウンラン様です」


小太りのおっさん! ニコニコしててなごみます。


「農業と治政ちせいつかさどられております」


「と言いましてもな、今は農地のうちには立ち入れず、あきないも出来ませんから、食糧しょくりょう資材しざいを管理するのが主な仕事になっておりますわい」


と、ウンランさんが黄土色おうどいろの髪の毛とひげらして、柔和にゅうわな口調で笑った。笑うとしわが目立つ。思ったよりおじいさんなのかもしれない。


「ウンラン様は初代マレビト様の系譜けいふつらなり、子爵ししゃく爵位しゃくいをお持ちです」


おお! 爵位とかあるのか。ん? 初代マレビトの系譜? そうか。76人も子供つくったって言ってたな。子孫は貴族になってるのか。


「なに。初代様の系譜といっても傍流ぼうりゅう傍流ぼうりゅう。王のお情けで授爵じゅしゃくしただけですわい」


と、ウンランさんはカラカラと笑った。ああ、こんな感じの数学の先生いたなぁ。定年間際まぎわの。やる気が有るんだか無いんだか分からない、自然体なスタンスが心地よかった。


「マレビト様から見て左前方、フェイロン様のとなりにお座りなのが司空しくうのミンリン様です」


し、知ってます……。シルエットがハッキリ分かる紺色こんいろのドレスがお似合いですね。編み込みでアップにまとめた黒髪もツヤがあって素敵すてきです。と、いまにしている姿だけを見ようとするのだけど、どうしても朝の風呂場での姿が頭から消えてくれない。


土木どぼく治安ちあんつかさどられ、城内じょうない建造物けんぞうぶつを一手にになわれております。王都では土木建築に最も通暁つうぎょうした女性として知る人ぞ知る存在でしたが、活躍かつやくの場を求めてジーウォへの赴任ふにん志願しがんされました」


ミンリンさんは、少しはにかんだみを浮かべて頭を下げた。こんのドレスにスッポリとおおわれてる大きな胸が円卓えんたくに乗りそう。


いかん、いかん。どこ見てるんだ。


「ち、治安の分野は門外漢もんがいかんで……、衛士長えいしちょうまかりだったのですが、人獣じんじゅうが現われた最初のばんくなってしまい……、今は村長むらおさのフーチャオ殿どのに助けていただきながら、なんとかつとめております……」


と、ミンリンさんは最後に残った、もう一人のつきの鋭いおっさんの方を見た。


村長むらおさっていうよりは、軍人さんかスパイのような、只者ただものではない雰囲気をただよわせてる――。

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