第15話 チュートリアル大浴場2日目(1)


けて戦闘がむと、望楼ぼうろうを降り大浴場に案内された。廊下ろうかで前を歩くシアユンさんの後ろ姿を、まともに見れない。


移動中に通ったバルコニーのようになっている回廊かいろうからは、避難ひなんしているのであろう住民の姿が見えた。なにをしているのかまでは分からなかったけど、女性の姿もチラホラ見える。


みんな、こしのラインがピッタリとした、スリットの多い服を着ている。


異世界といえば中世ちゅうせいヨーロッパ風と思い込んでいたけど、どうやら異世界ここ古代こだい中華風ちゅうかふうの異世界のよう。チャイナドレスがファンタジー風にアレンジされたような女性の服は、遠目とおめに見る分には、ボディラインの曲線美きょくせんびが目の保養ほようだ。


間近まぢかに目にしたら、赤面してしまうような気もするのだけど……。と、考えてる俺は、前を歩くシアユンさんの腰を見ることが出来ない。出来ないのに意識だけしてしまう。


なんとか別のことを考えようと、ひとつひとつ思い返していくと、たしかにネーミングも中華ちゅうかっぽい。リーファ、シアユン、ダーシャン、ジーウォ、イーリン……。


ようやくそこに気付けたのは、たぶん、里佳にフラれたショックで動きのにぶってた心が、剣士と人獣じんじゅうの激しい戦闘に刺激しげきされて、再び動き始めたんじゃないかって思う。


召喚された最初に第2城壁から脱出するとき、避難する住民や、お城の人を目にしているはずなのに、まったく覚えがない。あの時は、俺に涙目を向ける里佳の姿と、ごめんなさいという里佳の声が、頭の中で連続再生されてた。


大浴場に着くと、シアユンさんが当たり前のように服を脱ぎ、当たり前のように一緒に浴室よくしつに入り、当たり前のように俺の背中を流し始めた。


え? これ、毎日ですか……?


健全けんぜんな男子、卒業したてとはいえ高校生男子として、うれしくないシチュエーションではない。スレンダー長身ちょうしん美女びじょと毎日混浴こんよく。なんてかれるワード。


ただ、里佳にフラれたばかりの俺としては、状況の受け止め方が分からない。それだけじゃない。たぶん、元々、俺には向いてない。自分がこんなに初心うぶ純情じゅんじょうだったとは知らなかった。ただただ、照れる。全裸ぜんらの女性が側にいるってだけで、喜びよりも戸惑とまどいの方がまさってる。


「マレビト様」


という、シアユンさんの呼びかけに体がビクッと反応してしまった。ますます、恥ずかしい。しかも「はい」と応えるつもりが「ひゃい」とんでしまった。


……自分のことを、もうちょっときもすわった男だと思ってたけど、女性に対してここまで免疫めんえきがないとは。へこむわー。凹み、恥ずかし、照れ、嬉し。はぁ……。


「マレビト様のお年頃としごろでは、城壁での戦闘をもっと近くで見たい気持ちがおありかもしれません」


それはそうだ。こわいと思う気持ちが強いけど、少しばかりはがたぎるところもある。自分が闘うかはともかく、近くで見てみたい気持ちは、確かにある。


「ですが、マレビトとしての呪力じゅりょく顕現けんげんするまでは、普通の人間と変わるところがありません。戦闘は剣士に任せ、危険な行動はお控えくださいませ」


シアユンさんの口調は優しかったけど、強い意志も感じた。


――リーファ姫の命と引き換えの存在。


俺の存在は、シアユンさんにとっては、俺のことだけが見えている訳じゃない。い上がって軽率けいそつな行動をして無駄むだに死んだりしたら、リーファ姫の命も無駄になる。


出来るだけ落ち着いた口調くちょうで「分かりました」と応えると、背中しに伝わるシアユンさんの指先から、少し緊張が抜けたように感じた――。

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