第16話 チュートリアル大浴場2日目(2)


「明日は【三卿さんきょう一亭いってい会同かいどう】にご出席ください」


と、一緒に湯船ゆぶねかるシアユンさんが言った。それは、なに……?


ジーウォ城この城おさめる責任者たちが一堂いちどうに集まって、運営方針を調整ちょうせいする会議です」


なるほど。そういうのも、必要だよな。


三卿さんきょうとは、剣士団を統べる【剣士長けんしちょう】、農業と治政ちせいつかさどる【司徒しと】、土木と治安ちあんつかさどる【司空しくう】のことを指します。一亭いっていは、平民たちを取りまとめている【村長むらおさ】のことを指し、この4人の会議を城主が主宰しゅさいして開かれるのが【三卿さんきょう一亭いってい会同かいどう】です。辺境へんきょう蛮族ばんぞくそなえるジーウォ独特どくとく制度せいどになっています」


「明日っていうのは……? えっと……」


「あ。ごめんなさい」


ごめんなさいは、よせ。とも言えないけど、里佳の姿が頭をよぎるのはめられない。せめて「申し訳ありません」に統一とういつしてくれないかな……。


昼夜ちゅうやが逆転してしまっていて分かりにくいですが、次の夜明けの後に開かれる運びになっております」


そうか。今晩も、あの戦闘を見てからのことか。気が遠くなるな……。


「城主が人獣じんじゅう襲来しゅうらいした初日にくなり、リーファ姫がわって主宰しゅさいつとめておられました。ですが、リーファ姫も現在は臨席りんせきかないません……。最初は右も左も分からないことになるかと存じますが、マレビト様に首座しゅざにおすわりいただければ、と」


「え? 城主の代理だいりっていうか、代行だいこう的な? 城主って、この城で一番えらい人ですよね?」


「その通りでございます。微力びりょくながら私もそばかせていただきますので、何卒なにとぞ、お願いできませんでしょうか?」


「ちょ、ちょっと、いきなりはが重い気が……」


「お気持ちは重々じゅうじゅう、おさっしいたします。ですが、この城は城主を失い、その後に支柱しちゅうとなられていたリーファ姫も、今は動くことが出来ません。あけすけな物言ものいいで失礼いたしますが、形だけでもマレビト様にお座りいただくことが、今は肝要かんようなのでございます」


まだ、異世界こっちに来てからシアユンさんとしか言葉を交わしてないけど、城全体が追いめられてて、ギリギリの精神状態せいしんじょうたいってるのは想像にかたくない。「形だけでも」っていうのも、よく分かる。えらいさんに囲まれるのは緊張するけど、それで俺の存在が役に立つことがあるのなら、喜んで引き受けよう。


「分かりました。俺で良ければ」


「ありがとうございます」


と、シアユンさんは湯船に顔をしずめるいきおいで、頭を下げてくれた。その【三卿さんきょう一亭いってい】っていうえらいさんの中に、シアユンさんは含まれてなかった。ひょっとすると、えらいさんたちから俺の説得せっとくを頼まれて来てたのかも知れない。


あの際限さいげんなく続く人獣じんじゅうとの戦闘をたりにして、次の夜を乗り越えられるのか、まったく分からなかったけど、ついに俺の異世界での闘いが始まるんだなって気がした――。


……なので、もう一緒に入浴するの止めませんか? って言いたかったけど、安堵あんどの表情を浮かべるシアユンさんを見ると、言い出せなかった。


明日。明日の朝があれば、明日言おう。


――このときの俺は、先延さきのばしにしたことを大後悔だいこうかいするハメになるとは、まったく気づかず、湯面ゆめんしにらいで見えるシアユンさんの肢体したいに、ただ赤面してた。

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