第5話 ベッドの上での話(1)


俺が召喚されたジーウォ城が、突然、けもののバケモノたちに襲われたのは11日前の夜のことらしい。


日没からほどなく現れたと推定すいていされるバケモノたちは、一番外側の城壁を易々やすやすと乗り越えたらしく、夜の民家を次々に襲い始めた。


宮城きゅうじょうに最初に入った一報いっぽうは、


――獣の面をつけた蛮族ばんぞくの大軍が南方から侵入。


というもので、城を守る『剣士団』と城主、それにたまたま滞在していた青髪の第4王女、リーファ姫が迎撃げいげきに出た。


ただ、ダーシャン王国の北方に割拠かっきょする蛮族の備えとして築かれたジーウォ城で、南側から攻め込まれるという想定は薄く、しらせが遅れたらしい。


なんで、お姫様まで? と、思ったら、戦場にいる王族は前線に立つのが『シキタリ』らしい。


暗闇で視界のかない夜のこと、動きの素早い敵の迎撃に手間取り、一瞬のすきを突かれて襲われた城主がリーファ姫をかばってにしてしまう。


わって指揮をったリーファ姫が、松明たいまつを大量に用意させる。


炎に照らし出された敵が蛮族ではなく――、つまり、人間ではなく、人狼じんろう人虎じんこなど【人獣じんじゅう】とでも呼ぶべきバケモノだと認識された頃には、既に多くの犠牲ぎせいが出ていた。


王国で数少ない呪術師でもあるリーファ姫が『浄化』の呪術を2度行使するが、人獣たちには効き目がなく「邪」な存在ではないことだけが確認された。


相手の正体が分からず苦しい戦闘が続いたが、朝陽あさひのぼり、夜明けと共に人獣たちの活動が低下して、こちらから手出ししなければ、攻撃してこなくなった。


リーファ姫の判断で剣士団は一旦いったん城内に撤収てっしゅう。四重の城壁に囲まれたジーウォ城の、三番目の城壁の城門を固く閉ざし籠城ろうじょうかまえをとった。


そして、朝陽が照らし出した外城壁と第3城壁の間の光景に、皆が愕然がくぜんとした。数えきれない量の人獣がウロウロしている。


それ以上に愕然としたのは、被害の大きさだった。


1,000名いた剣士団の内、約400名が命を落としており、1,400人の住民からは500名以上が犠牲になっていた。


再びが落ちると共に、人獣たちの活動は活発になり、獰猛どうもうさをむき出しに城壁をよじ登ってくる。


リーファ姫の呪術によって得た祖霊それいからの託宣たくせんは「いずれ退しりぞける」というものだったが、ジリジリと押し込まれ、5日目に第3城壁が陥落かんらく


そして昨晩、第2城壁が陥落する間際まぎわに、リーファ姫がその命と引き換えになる『マレビト召喚』の呪術を行使。現れたのが俺だ。


リーファ姫の侍女じじょであるシアユンさんと一緒に脱出したのが第2城壁で、今は最終城壁だけが守る宮城きゅうじょうの一室にいる。


というのが、半裸はんらのままのシアユンさんが訥々とつとつと説明してくれた、異世界こちら側でのこれまでの経緯いきさつだった。


命と引き換えに『マレビト召喚』を行ったリーファ姫が、生きて眠り続けている理由は、今のところ不明なんだそうだ。


話を聞いている間、何度も不意に里佳の顔が浮かんできて、なところはあったけど、なんとなく状況は分かった。――要するに絶体絶命ぜったいぜつめいだ。


王国の呪術は『祖霊』に働きかけて顕現けんげんするものらしく、『マレビト』は術者の命と引き換えに現われ、王国の危難きなんを救う存在らしい。


――し、知らんがな……。


と、思わざるを得ない状況だったけど、これは多分、すぐには帰してもらえないヤツなんだろう。


帰ったところで、里佳に合せる顔もない。あんなバケモノを相手にして、俺に出来ることがあるのか、なにか特殊能力チート的なものを貰ってるのか、さっぱり分からない。


けど、とりあえず今は帰りたくない。


少し落ち着いたのか、ようやく胸元を隠しがちにしたシアユンさんが、上目遣うわめづかいに俺の方を見てくる。


ツルンとしたお腹も、スカートの切れ込みから見えるも、丸見えのままだ。


話してる間は元々の白くとおるような肌に戻ってた顔が、少しずつ紅潮こうちょうしてきてる。


いや、そんな。「それでは、続きを再開します」とか、ならないですから。俺はあわてて目をらそうとするものの、どこを見たらいいか分からなくて、目線がちゅう彷徨さまよった。


えっと……。俺は、なにから話そう……?

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