アイスクリーム


 クリスと名乗った金髪の女性……、ていうか金ピカの鎧着てるけど、あれ本物か?  

コスプレには見えねえ……。


「まあどうでもいいか」


 驚きも何もない。うさぎやわんこが喋るんだ。

 今更、いきなり人が現れても驚かない。


「駆殿っ! 私の名はクリスッ!! 名誉ある薔薇騎士団の――」


「あっ、はいはい、もうそれはいいよ。えっと、クリスさん? 帰る場所あるの?」


「え……、あっ、うぅ……」


 クリスはわんこのビビアンを見つめた。

 ビビアンは首を横に振って無慈悲に伝える。


「我の魔力を持ってしても帰還は出来なかった。……しばらくこの世界に滞在しなければならない――わん」


うさぎのアリスが食後のコーヒーを飲みながら寛いでいる。


「どうするきゅ? 昨日は街を徘徊したけどさ……」


「む、廃屋があったからそこを拡張して住んで――」


 楓が俺の脇を肘でつついた。

 ああ、楓の存在を忘れていた。ガレット作るの手伝ってくれてあんがとな!


「ねえ、駆、真面目な話だけどさ、喋るうさちゃんとわんちゃんがいたらヤバいよね? ていうか、鎧着てる女の人も……」


「ああ――あの鎧いくらで売れるかな?」


「馬鹿っ! あの子たちの存在がバレたら変な秘密機関に攫われて解剖されちゃうよ!! お姉さんだって人体実験されちゃうわ!」


「いやいや、漫画見すぎだろ……」


 クリスは身体を震わせながらつぶやく。


「わ、私は屈っしないっ……」


「うん、そうだね」


 俺はクリスに突っ込むと話が進まないと思ったから無視をした。

 何故かクリスは悔しそうに俺を見つめているのであった。

 うん、無視だ。


「アリス、帰る家無いんだろ? だったらうち来いや。俺しか住んでねーから三人――いや三匹くらい増えたって変わんねーよ」


「もきゅっ! ほ、本当にいいの」


「くくくっ、まずは駆殿のうちを拠点として、この世界を調べて――いずれ世界を――」


「嫌ならここの倉庫でもいいぞ?」


「お、お願いしますわん。か、駆殿の家がいい」


「おっしゃっ! その代わり働いてもらうか〜、あっ、クリスはいいとして、人間に変化とかできるのか?」


「うーん、認識阻害をかけるか、姿を消す魔法しかできないきゅ」


「後で試してみるのだ。一日経ってこの世界と馴染んできたような気がするのだ」


「じゃあ鍵締めて帰っぞ!!」



 俺たちは店を出た。



****




「なんで楓もついてきた?」


「い、いいじゃん、心配だったからっ! それに、私だって動物飼いたかったのよ!」


 ビビアンとアリスは動物と言われて不満顔だ。

 クリスはこの世界の見るもの全てが目新しいのか、キョロキョロしてて挙動不審である。


 俺の家は普通の戸建てだ。

 部屋も一杯あるし、寝るところは困らない。――食費どうすっか……。


 何をするにもお金が必要な世の中だ。

 くっそ、どうすっかな? それでも、コイツラは追い出せねえ。なんか、ほっとけねえんだよな。犬とうさぎと金髪の姉ちゃんだけどさ。


「すごい、魔法が無くてもこんなに文明が発達してるきゅ……、魔法と変わらないきゅ」


「あっ、箱から映像が流れてるわんっ! 通信魔法と似てるわんっ!」


「ははっ、ゆっくりしてろよ。今お茶入れてやんよ。あっ、そういえば冷蔵庫に作り置きのアイスがあったな――食うか?」


 クリスは床に膝を着けた。その姿はまるで貴族の――っておいっ!!

 ビビアンとアリスも、目を閉じて首を垂れる。


「ちょ、駆、笑えるんだけど――」

「俺は笑えねーよっ! じゃあ、お前クリスにお茶の入れかた教えておけよ!」

「え、マジ? あの子ちょっと……」


 ああ、少し変な奴だ。だからお前に任せる。




 俺は皿を冷凍庫に入れる。

 そして、常備してある生クリームを立てる。

 砂糖は6%の控えめだ。動物性と植物性の生クリームを合わせる事によって、食感を軽くする。


 台所にあったフルーツを適当に切る。

 アイスクームを取り出した。

 風味は三種類だ。バニラとコアントロー(オレンジの酒)とキャラメルだ。


 お酒とキャラメルが入っているアイスは糖度とアルコールによって柔らかくなりやすい。

 バニラをよく練っておく。


 俺は冷えた皿にアイスの盛り付けに入った。

 スプーンをぬるま湯につけて、アイスをアーモンド型にスクープする。

 アーモンド型になったアイスを皿に盛り付ける。

 俺は三種のアイスを皿に盛り付けた。


 固めに立てた生クリームは、熱いお湯につけたスプーンで抜く。そうすると艶のある綺麗な形になる。基本的な技術だ。


 俺はアイスの上にクリームとフルーツを盛り付けた。




「ほら、出来たぞ! アイスの盛り合わせだ! 溶けないうちに食べろや!」


 出来った四皿をテーブルの上に置く。


「な、なんとっ……う、美しい――まるで王宮にある庭園を思わせる――」


「おい、新入り、ガタガタうるさいわん。敬意を込めて――食べるわん」


「美味しそうな匂いがするきゅ! い、いただきますっ!」


「へへ、私の分も作ってくれてありがと」


 俺は人が食べている姿を見るのが好きだ。

 食べている時は無防備な瞬間だ。

 口に入れた時、本当に美味しいものを食べると、人は自然と笑顔になるんだ。


 俺の大好きな顔だ。


 ほら、コイツラの顔を見てみろよ? すっげー、良い顔してるぜ? 

 ……多分苦労してきたんだろうな……。


 なんかわかるんだよ。食べている人を見るとな。


 それに――そんなに嬉しそうな顔をしてると――俺も嬉しくなるぜ!!


 ははっ、俺にとって菓子屋は天職だよな。

 親父、俺――ぜってえ諦めねえからなっ!!!



 俺は泣きながら食べているコイツラを見ながら、心に決意した――









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