第6話 新しく背負うもの
結局俺は、反応が鈍い彼女を放逐することが出来ずに面倒を見ることになってしまった。
オーロックにも一応ダンジョンでの拾い人で、行く宛がないので俺の部屋で面倒を見るという旨だけ伝えておいた。
結局何故あいつがノスフェラトゥなんて言葉を知っていたのか、何故リレリアに血を飲ませるなんて対処方法を知っていたのかを聞き出すことは出来なかった。
だがまあ、あいつは悪いやつではない。
また次何かあって俺の手に負えないときには、助けてくれるのだろう。
きっと、多分。
「おいリレリア、飯行くぞ」
俺の言葉にコテンと首を傾げるリレリアに、俺は苛立って頭をかく。
言葉が通じてるのに相手に通常の知識が無いせいで会話が通じない。
そんな事実にいらいらさせられる。
俺はガキの世話は好きではないのだ。
「ご飯だよ。食い物。食べに行くぞ」
「ご飯……食べる」
なおリレリアの服は、ほとんどがボロボロになっているか血まみれになっているかだったので、防具らしきものを除いて全て破棄しておいた。
代わりに下着やブラウス、裾の広いズボン、スカートなどいくつか俺の金で購入することになってしまったが、必要経費として無視することにした。
ダンジョン都市は経済の発展も他の国家や都市と比べて著しい。
ダンジョンという資源を産出する場所があり、そこに探索者が集まり、それを目当てにした商人、職人が集まる。
そしてそれらを対象として更に富と人が集まる。
自然と大きな経済圏が構築されるのだ。
その分貧乏人向けの安価な服でもそれなりのものが揃っている。
反応の鈍いリレリアの手を引き、俺は下の酒場に降りる。
ロックの酒場は夜は酒場として経営しているが、上に宿がついていることもあり朝や昼間でも普通に利用できるようになっている。
「おはよう、ルーク。早速新しい彼女を連れてデートか?」
「うるせぇよ。朝食サンドのセット。二人前」
ロックはこうやってからかってくるが、まあ実際のところは俺よりも奴の方が情報を持っているぐらいなのだから単なる悪ふざけに過ぎない。
しばらく待つ間、リレリアは物珍しそうに周囲を見渡している。
本当に精神的に幼いのかそれとも本人の性格なのか。
そんなリレリアは何故かフードを被っているのが好きなようで、室内であるにも関わらず今もフードを被っているままだ。
これはフェルに聞いたところ、ヴァンパイアという種族がそもそも日光に弱く、暗闇を好む傾向にあるためらしい。
日光に弱いってなんだよ、と思ったが、魔族には結構色んな特性を持った種族がいるそうだ。
俺なんてエルフとドワーフ、獣人ぐらいしか知らないが、確かにそのどれも俺達人間とは若干違った特徴を持っていたりする。
そう考えると、魔族ともなれば人と大きく違っても全くおかしくはない。
『ルーク、彼女の面倒を見るならば、ちゃんと血を与えるように。けして吸血させてはならないし、飢えさせても駄目だぞ』
「わかってる。もう十回以上聞いたわ」
後はヴァンパイアの特性として、通常の食事の他に血液を食事として必要とするらしい。
むしろ普通の食事がおまけで、ヴァンパイアにとっては他者の血液が主食なんだとか。
基本的には動物や魔物ではなく人間のものの方が身体に変な影響が出なくていいらしい。
まじでそんな種族がいるのかと思ったが、良く考えればダンジョンのモンスターの方が意味不明だしエルフとかも野菜ばっか食ってたりするから今更だった。
そんな厄介な特性を持ったリレリアを俺は抱え込んでしまった。
まあ一度抱え込むと決めた以上は、一応は面倒を見るが。
取り敢えず飯が終わった後にでも血液をくれてやらないとな。
そんなことを考えつつ、俺はロックが朝食を運んでくるのを待つのだった。
******
「あー、だりい。二人分稼がねえといけねえのか」
朝食を食べた後は、いつも通り探索用の装備に着替えてダンジョンへ。
探索者として生きていくならば、こうやってしっかりダンジョンに入って稼がなければならない。
俺よりもっと下の方で稼げる一級探索者とかなら、数日に一回ダンジョンに入ってもまだ金が余るような稼ぎがあるのだろうが、俺には縁遠い話だ。
「言っとくが、危なくなっても俺は助けられないからな。自分できっちり逃げろよ」
「わかった。頑張る」
「はあ、ったく、早く次のパーティー探さねえとな」
探索にはリレリアも連れてきている。
普通に考えれば部屋に置いていきたいのだが、置いていったら置いていったでどこに消えるかわからない。
なんせ昨日俺がこいつの服を買いに行っている間に部屋から彷徨いでたこいつは、ロックに保護されてたらふく高いものを食わされていたのだ。
当然請求は俺に来る。
直前にあいつの面倒は俺が見るって話をロックにはしていたからな。
それだけでなく、下手をすれば魔族バレしたりその辺で適当に吸血をしようとするかもしれない。
そういうことを考えると、俺の管理下においておかないと危ない。
まあ俺が近くにいても管理しきれるかは怪しいのだが。
「ああ、そう言えばなんであのとき窮地状態が発動したんだ?」
『そのことだが、ルーク。リレリアが──』
フェルが俺の疑問に答えようとしてくれた直後、ダンジョンの壁に罅が入り、モンスターが姿を表し始める。
直後。
何もしていない、まだ戦闘を開始すらしていないにも関わらず、俺の視界は赤く染まった。
「は?」
いつもより開けて見える視界に動きが遅く見えるモンスター。
その姿に俺は思わず間抜けな声をだしてしまった。
この状況は知っている。
これはフェルの窮地状態が発動した状態だ。
だが、俺はそんな状況にない。
『おそらくリレリアだ。私の能力が、リレリアに反応して起動している』
「っ、後でちゃんと説明しろよな! リレリア、お前はそこで待機、モンスターが来たら攻撃避けてろ!」
「わかった」
取り敢えず目の前に現れたモンスターの群れをぶっちめてから話を聞こうと、俺は窮地状態で強化されたまま、モンスターに向けて突撃していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます