第2話 仕方ないから1人で潜る
パーティーを追放されたとはいえ、俺も探索者なのでちゃんとダンジョンに入って魔石だのなんだのを持ち帰って、利益を得て食っていかなければならない。
無駄遣いはあまりしていないので貯蓄は一応あるがあまり多くはない。
俺のような雑用係はどうしてもパーティーがある程度稼げる段階になってくると追放されるか、収入がパーティーメンバーに比べて遥かに少ないポーターへの格下げなどを受けてしまうので、思うように金をため続けることが出来ないのだ。
戦っているパーティーメンバーと同じぐらい稼ぎたいという俺の考えのために、ときに『寄生』などと言われて疎まれたりすることもある。
実際それは間違えてはいないと思う。
本来ならポーターに払う安い賃金で済むところを、俺がパーティーメンバーにいる場合はパーティーメンバーと同等の取り分を用意しなければならない。
そういう意味で言えば、確かに人の稼ぎに寄生している害虫かもしれない。
だがそれでも、俺は俺なりに出来る限りのことをこなしている。
ただポーターがやるように倒したモンスター剥ぎ取った魔石やドロップアイテムを運搬するだけでなく、ダンジョン内の地形の確認に出現するモンスターの情報収集。
それにパーティーメンバーが休んでいる間の警備など、出来る限りはやっているつもりだ。
数日間ダンジョンにこもる遠征をするときなんかは料理係やキャンプの設営なんかもやっている。
だからこそその対価として、俺はただのポーターの安賃金だけでなく探索者と同じだけの報酬を求めているのだ。
わざわざ危険なダンジョンに潜るのに、何故安賃金で甘んじなければならないのか。
ああ、一生食っていけるぐらいに金が貯まれば、今すぐ探索者などやめてダンジョン都市から離れて生きていくのに。
「はあ、憂鬱だ」
『ダンジョンに入るならば気持ちを切り替えろ。でなければ死ぬぞ』
「ういうい」
フェルの言葉に軽く返しつつ俺は眼前にそびえ立つ
世界各地に存在するモンスターを生み出す大迷宮、ダンジョン。
ここルサーナでは、そんなダンジョンからモンスターが溢れないようにするために巨大な蓋をした。
そしてその蓋の地盤の堅固さから、いつしかその上に幾層にも及ぶ塔が建てられ、今では
そのルサーナで最も高くダンジョンの上に立つ立地の優越感からか、またはダンジョンに最も近い場所という立地の良さからか、
特に大手の鍛冶師
後は大手探索者
ああ、でも聖堂教会の礼拝堂には行ったことがあるか。
そしてその1階部分に開けた口こそが、地下に広大に広がるダンジョンへと繋がる入口となっている。
「さーて、どう稼ぐかねえ」
『一人になってしまった以上、モンスターと戦うしか無いだろう』
「ま、最悪はな」
ダンジョン内部の構造は、
ダンジョン探索が進んでいなかった大昔にはダンジョン内の壁をぶち抜き整備しようなんて考えもあったらしいが、今では廃れて影も無い。
理由は単純。
このダンジョンは、生きているのだ。
まるで人が切った爪が再生するように砕かれたダンジョンの壁は時間経過で修復し、人が手を加えた痕跡など容易く消し去ってしまう。
だからダンジョンを人の好みに改造しようなどという考えは、今はもう誰も持っていない。
そしてまた同時に、ダンジョンはモンスターを生み出す母胎でもある。
ダンジョンに入った俺が、普通の探索者は通らないような細い通路を歩いていると、やがてちょっとした小部屋のようになっている場所に出る。
「二、四、五体か。」
そこでは今まさに、ダンジョンの壁が割れ、その中からモンスターが出現しようとしていた。
ダンジョンはこうして、モンスターを生み出している。
何故モンスターが生み出されるのか、何を元に、何の力を使って生み出されているのかなんてことはわからない。
ただ、ダンジョンはそういう場所である。
故にダンジョンに蓋をし、大勢の探索者が日々ダンジョンに潜ってはモンスターを討伐することで溢れ出さないようにしている。
それがダンジョン都市の存在意義。
まあ探索者として活動している者に、そこまで大したことを考えている者はそういないだろうが。
ただ探索者がダンジョンに潜って、魔石やその他のドロップアイテムなどの資源を持ち帰って金にする。
その経済活動が自然とモンスターの地上への進出を抑え込むような仕組みが、ここでは作られている。
壁から出現したモンスターは、第一層で出現するモンスターであるウルフが五体。
この程度のモンスターならばダンジョンではまだ優しい方であるし、なんならダンジョンの外の自然の中でもこれより強いモンスターは普通に生息している。
故にこの程度ならば俺でも倒すことが出来る。
出来るが。
「大した金にならんのだよな」
『来るぞルーク』
「へいへい」
壁から出現したウルフはすぐに俺を見つけて襲いかかってくる。
先頭の一体に対して俺は抜剣し、その牙を避けながら胴体を斬り裂く。
続けて飛び込んでくる二体目の牙にはなんとか剣での防御を間に合わせて受け止め、足で蹴り飛ばして突き放す。
三体目の攻撃はバックステップをすることでなんとか回避をして、ようやく体勢が整ったところで四体目五体目が同時に飛びかかってくるので回避に集中する。
そもそも俺は弱い。
これは俺の戦闘経験などの問題ではなく、探索者ならば誰しもが持っている
その原因は未だに判然としないが、そもそもステータスの成長率等は人によって大きく違うものであるため、シンプルに俺が探索者に向いていない人種であったというだけの可能性が高い。
それでも、俺は探索者をやるしかない。
身元も不明の孤児でも稼ぐことが出来るのが探索者だからだ。
そういう意味では夢のある職業である。
「ふい、疲れた」
なんとかウルフの群れを退け、その死体から魔石を引き抜く。
そうすればモンスターは魔力に溶けて消えていき、後には僅かな塵が残るだけとなる。
そうやって幾度か戦闘をこなしつつ人の来ないような裏側の道を進んでいると、とある広場であるものを見つける。
黒い布の塊のようなもの。
記憶している限りではこの階層のモンスターにあんなものはいなかったはずだ。
そう思いながらも用心して近づき、布をめくる。
するとその布の下から、真っ白な顔色をした少女が姿をあらわした。
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