被追放回数最多の探索者は、それでもパーティーに入りたい ~窮地に追い込まれると強い能力はとても魅力的だけどずっと窮地はごめんです~

天野 星屑

第1話 また追放された探索者

「ルーク、すまないが君をパーティーから追放させてもらう」


 俺、ことルークは、もう何度目かもわからないパーティー追放の危機に瀕していた。

 瀕していたというか、既に宣告されていた。


「……ふぅ……。理由は、まあ言われんでもわかるが……」


 話があるとパーティーのリーダーに呼び出されたのは、パーティーで借りているギルドハウスの一室。

 そこにリーダーだけでなく他のパーティーメンバー達も集められていたことで、俺は長年の経験からこれから起こることを察していた。

 察していたが。

 それに抵抗出来るかどうかは別問題だ。


「これまでは雑用係の君に助けられてきたが、深い階層に潜ることが出来るようになった今では戦力が一人でも欲しい」

「実際ルークさんのお守りで戦力が減っちゃってるわけだしね」


 パーティーリーダーの青年に続いて、格闘家の少女も同意の声をあげる。

 それは全くもって正論だった。

 遠慮が無い分正論しか言わない彼女の言葉は、いつもどこかグサリと刺さるような圧を持っていた。


「つか、いつまでも人のパーティーに寄生してんなよ。おっさんはおっさんの身の丈にあったところで死んどけ。つかポーターでもやってろや」

「ギャズ、やめろ」

「へいへい」


 槍使いの彼の口の悪さには俺も大概辟易させられたが、彼は特にパーティーに雑用係として俺を加えることに不満を持っていた。

 この際にそれが爆発してもおかしくはないだろう。


「まあ、しゃーないだろ。元々あんたは雑用係として雇われてただけ。これからはそれが必要ないから雇わないってだけの話だ。ポーターと大して変わらないだろ?」


 弓使いの彼の言葉もまた正論である。

 俺と彼らの立場は相互利用。

 絆で繋がっている彼らのパーティーメンバーと俺では立場が違う。

 最後に念の為に魔法使いの少女にも視線を向けるが、口数の少ない彼女が何かを言ってくることはなかった。


「そうか。残念だ」

「……今までありがとう。ルーク。俺達は君から貰ったものを糧に、更に高みに登る」

「ああ、是非とも頑張ってくれよ。俺を追放した価値があったと言えるぐらいにな」


 捨て台詞を一言吐き、俺は彼らに背を向ける。

 それが、俺と彼らがパーティーメンバーであった最後の瞬間だった。



******



「あー、うま。やっぱショウガ焼きしか勝たんわ」

『ルーク、いい加減に食べ過ぎだろう』

「うっせ。たまには良いだろ。普段は節約してんだから」


 夜、行きつけの居酒屋にて。

 俺はいつもより多くの料理を頼み、それをかっ食らっていた。

 特にお気に入りはこのショウガ焼きという料理。

 東方の島国にあるダンジョン都市が発祥らしい豚の肉を焼いた料理だ。

 まあダンジョン都市であるここルサーナでは豚肉の代わりにオーク肉が使われていたりするが。


『偶にストレスを溜めて暴発するぐらいなら、毎日適度に発散していけば良いだろうに』

「それじゃあ金がかかるだろ。俺はなるべく安全に生きたいの」


 話をしているこいつはフェル。

 昔から俺に取り憑いている、なんかよくわからんやつ。

 ちなみにこいつの声は何故か俺にしか聞こえないので、普通に会話をしているだけで俺は一人で空中に向かって話しているやばい奴になってしまう。


『またそれを言っているのか。私が力を貸せば、お前一人でも十分以上の稼ぎを得ることは出来るだろうに』

「お前の力なんて追い込まれないと発揮出来ないポンコツものでしょうが。俺は安全に稼ぎたいの。楽に稼ぐのはもう諦めたから、せめて安全にな」


 それでもこうして話してしまうのは、こいつが人生の殆どを共に過ごしている相棒であるから。

 そして今日の俺は、久しぶりにパーティーを追放されて少しばかりやさぐれて周囲なんてどうでもいいと思う状態に入っているからだ。


「おいルーク、他の客が気味悪がってるから独り言は他所でやれ。後これ、コロッケの追加だ」


 そしてこの横合いからコロッケの載った皿を持ってきたのが、俺が好んでいるこの『豊穣の泉』という酒場を経営している店主のオーロック。

 名前が長いので俺はロックと呼んでいる。


「独り言じゃないっての。コロッケはありがとう」

『私の言葉は他の者には聞こえないのだから、独り言で間違いないだろう』

「うっせ」

「独り言だろ。にしても、今日は荒れてるな。あれか、またパーティーでも追い出されたか?」

 

 ニヤニヤと笑いながら言うオヤジ顔に、俺はフンと鼻を鳴らして無視してコロッケにかぶりつく。

 そんな俺の反応を見て、ロックはニヤニヤ顔を苦笑に変える。


「その反応は当たりだな。これで何回目だ?」

「知らね。30回超えたあたりから数えてねえわ」


 ロックに答えた通り、俺がパーティーから追い出されたのはもう何十回か。

 数は忘れたが取り敢えず最多追放回数を更新し続けているのは間違いない。


「ポーターには転職しないのか? あれならパーティー枠とは別に連れていけるだろ?」

「あっちだと雇用がその日その日の不安定なものになるし、最悪俺も戦う立場ではあるからな。ポーターにはなれん。つか日給が安すぎる」


 ポーターというのは、俺達探索者とは違って雑用や物資の運搬を主に担い、基本的には戦闘をしない職業の人たちのことを指す。

 パーティーに入って雑用係をやっている俺のやっていることはポーターとほとんど同じだが、毎日その日その日の仕事を探す必要のあるポーターと違って、パーティーに所属していればその間は食いっぱぐれない。

 

 ただその分パーティーの枠を埋めてしまうという欠点もある。

 普通であれば六人パーティーは全員戦闘員で、ポーターを雇うならば追加で一人二人となるところを、俺はパーティーメンバーなのに雑用係という変則的な形になってしまうのだ。

 

 そしてそうした変則的なパーティーメンバーは、新しいメンバーを勧誘しようとしているパーティーにおいて瑕疵になってしまう。

 だから今回のように、新しいメンバーを募集する際にはお荷物の俺を切り離すことが多いのである。


 それでも俺は、ポーターではなく探索者でありたい。


「なんでそこまで探索者にこだわるんだ? ポーターでも十分食っていけてるやつは多いだろうに」

「けどそいつが次の日には仕事を失ってるかもしれないのがポーターだろ。その点パーティーメンバーなら、追放するにしても追放する側にも葛藤がある。実際今回もそれで十日は保ったしな」


 ポーターよりも探索者の方が食いっぱぐれがない、なんて周りからしたら自分勝手な理由だろうが。

 それでも俺は、探索者としてパーティーに所属していたいのだ。


~~~~~~~~

追放ざまあ系を読んでいて、『追放されても仕方ない探索者』ってどんなのだろ、と考えて書いてみました。

ストーリーはしっかり練ってあるので、ただ追放ざまあをして終わりの小説にはなりません。

本日夜にもう一話投稿します。

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