RUN

 

……ん?…あ。ちょ、ちょっと。


 あー、おいおいおい。待った待った。

 疲れた?諦める?いや、あの……え?放棄?


 …放棄?


 いやいや…放棄って君……あ。

 ちょ、だから、うおおおいおいおいおいおい。いや、待ってって。ね。ちょっと待って。ちょっとさ、ね。とりあえずさ、ね、僕の話を聞いてくれ。



 疲れたんなら休もうか。

 諦めるのと休むのは全然違う。

 ほら、道路に寝っ転がって。うん、そう。

 僕もとなりに寝てもいいかな?…よいしょ。

 あぁ、コンクリートの冷たさが気持ちいいね。



 …うん、空は少し曇っているけど、いずれは晴れるよ。むしろ今太陽出てたら、アレじゃん。暑すぎて休んでる間にも体力を奪われてっちゃうからさ。うん。それじゃ休んでる意味ないし。ね。これくらいが丁度いいんだ。曇ってるくらいが丁度いい。僕はそう思う。











 …………。










 ……ちょっといいかな。






 休んでいるところ悪いんだけど、ちょっと聞いてくれるかい?

 少しうるさいかもしれないけど、君に聞いてほしいんだ。





 僕たちはすごい勢いで走ってる。

 いつもいつも、馬鹿みたいに走ってる。


 でもそれは僕たちが望んで走ってるわけじゃなくて、もはや強制的に走らされている。

 どんなに嫌でも、どんなにキツくても、まわりが走れと急かすんだ。

 偽善者共は「自分のペースでいい」なんて歌や詩で綺麗事をほざくけど、実際現実ではそれは相当難しい。そんな事が出来ないから息切れしているのに、偽善者共は口から泥を吐き出してへらへら笑ってる。なにを血迷ったか、その場の空気に流されて泥水を目から垂れ流し始める時だってある。そんなことしてもらっても、こちらとしては何の意味もないのに。




 だから君は走るのが嫌になる。

 こんな世界で走る意味がわからなくなる。

 時には、走る事を放棄しようとする。さっきみたいに。


 でもそれは駄目なんだ。

 放棄しちゃいけない。


 僕たちは走っていかなくちゃいけないんだ。

 まわりが目まぐるしく変化して、それによって足元がふらつくかもしれない。思わぬ障害物にぶち当たって、傷だらけになるかもしれない。


 それでも僕たちは走るんだ。

 放棄するなら、休めばいい。

 足を止めて空を見上げて息を整えればいい。


 僕たちは休む術を知っている。

 ただ馬鹿みたいに走るだけのロボットじゃない。


 休むことは出来るんだ。

 そして休んだら、また走り出せばいい。



 それでも体力が追いつかなくて足もぶっ壊れて道すらわからなくなったら、その時は、地面に這いつくばろう。

 そして進むんだ。

 四つんばいになって、手と足を闇雲に動かすだけでいい。そしたら絶対、道に戻ってくることが出来るから。



 いいか。諦めちゃ駄目だ。


 僕たちは動ける。

 どんなかたちでも、動くことは出来る。


 だから放棄は無しだ。



 そうだ。僕と約束をしよう。

 指きりげんまん。


 ……え。指絡めるのヤダって…、ちょ……。それはひどいんじゃ……え、だって気持ち悪いからとか…そういう…、……まぁいいよ。うん。でも約束だよ。






 ……あの、さ。




 時々、さ。





 どうしても走れなくなって、もがいても道がわからなくてさ。どうしたらいいかわからなくて、筋肉も萎みきっちゃって…。

 そんな時、自分の筋肉に空気を入れようと自分に切れ込みを入れたりする人もいるけど、僕はそれも一種の方法だと思う。

 自分を傷つけては駄目なのはわかるよ。

 でもさ、自分に空気を入れようとした結果なんだぜ?それは悪いことなんかじゃないと思うんだ。

 だって、それは走ることに真正面から立ち向かった証拠じゃないか。

 君がもしそういうふうに筋肉に空気入れて自分を奮い立たせていたとしても、僕はとやかく言わないよ。

 ただ、回数が少しでも減っていけたらいいと思う、……ね。







 ……あー……。





 風が気持ちいいね。





 ……ん。

 あ、もういいの?走る?そう。

 じゃあ僕も走ろうかな。

 僕はこっちの道だから…うん。君はそっちか。


 んーと……、じゃあ、また会えたらよろしくね。約束は守ってくれよ。しつこいとか、そう言わないで。ね。約束だよ。



 じゃあ。

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