僕の夢
いつも通り家に引きこもって妄想をこねくりかえしていると、低くお腹が鳴った。
その音で朝から何も食べていないことに気づき、遅めの昼食をとることにした。もそもそと冷蔵庫を漁るも、いいのが見つからない。僕は仕方なく外に出ることにした。
コンビニに行く途中、数人の男の子とすれ違った。小学生であろう彼らはどうやらふざけあっているようで、小さな彼らには似つかわしくない「殺すぞ!!」などという言葉が飛び交っていた。言われた子供も負けじと「その前にオレが殺してやる!!」と声を荒らげる。
彼らを通り過ぎ、僕はコンビニに入った。適当に弁当を選んで店員に渡す。店員は僕より二つぐらい年上の姉ちゃんで、髪の毛は馬鹿みたいに真っ赤だった。その姉ちゃんは僕を一瞥すると舌打ちし、タルそうに「あっためますか?」と聞いてきた。金貰ってんだろちゃんと仕事しろよ犯すぞ、とも言えず僕は「いいです」と呟く。
姉ちゃんの眉毛は無かった。
コンビニから出て、家に帰る。帰る途中、道端に車にひき殺された猫の死体があった。行く際には気づかなかった猫の死体。
「なんでこんな人間が生きているのにお前は死んでいるんだ」
僕は猫に問いかけた。猫は答えなかった。
「なんでなんだよ」
もう一度問いかけた。猫は答えなかった。
当たり前だ。
だって猫は死んでいる。
それくらいわかってるよ馬鹿にするな。
通り過ぎていく人は僕達をちらりと見るも、近寄りはしない。
僕は素手で死体を抱き、近くにあった公園に埋めた。その間、公園で遊ぶ子供達やその保護者達は僕を見ていたが、やはり誰も僕に話しかけようとも近寄ろうともしなかった。
遠巻きに、見ているだけだった。
ただ、見ているだけだった。
家に帰り自室に入る。床の上であぐらをかいて、袋から弁当と割り箸を取り出した。割り箸はあの姉ちゃんが僕に聞かずに勝手に袋の中に突っ込んだものだ。
僕はその割り箸を力任せにへし折った。二本に分け割ったんじゃない。文字通り、へし折った。
そして弁当のふたを開け、手づかみで食べる。土まみれの手だったけど気にしなかった。時たま口の中でじゃりじゃりと音が鳴ったけど気にしなかった。
僕は味のしない弁当を一心不乱にむさぼった。
あああああああああ。なんだよ。なんなんだよ。わからないことだらけだ。なんで小学生があんなこと言ってんだ。なんであんなことが普通に言えて言われても普通なんだ。なんであんな姉ちゃんが金貰えるんだ。なんであんな姉ちゃんが職につけるんだ。なんでみんなは僕を見るんだ。なんでなにもしないくせに僕を見るんだ。大根役者も顔負けな下っ手くそな見てみぬフリをするくせになんで僕を見るんだ。なんであの猫は死んだんだ。なんであの猫は死んだんだ。なんであの猫は死んだんだ。ちくしょうちくしょうちくしょうふざけやがってなめてやがるころしてやりてぇよおまえらをぼくはころしてやりてぇよぶっこわしてやりてぇよめちゃくちゃにしてやりてぇよちくしょうちくしょうちくしょう。
頬に涙が伝う。涙の量は次第に増え嗚咽が激しくなり、弁当が食べれなくなった。
低く唸りながら何度も何度も口を動かす。
それでも口の中のご飯が飲み込めなくて、その場に吐いた。すると吐き気が止まらなくなって、勢いで胃の中のものまで出してしまった。
げろげろげろげろげろげろげろげろ。
胃を奥底から突き上げられた様な感覚に悶えながらも、思い切り吐く。吐き終わっても涙は止まらず、頬を伝ってはぽたぽたとゲロの上に落ちる。もう顔をあげる気力なんてなかった。
僕の荒い息と嗚咽が部屋を満たす。ふと、外から窓を通して微かな声が聞こえてきた。
楽しそうに喋る、学生の声。……まだ聞こえる。あれは…、楽しそうに喋る子供の声だ。ああ、楽しそうに喋る親子。楽しそうに喋る恋人。楽しそうに喋る人間。
薄い壁や薄いガラスの向こう側に、いつもと変わらない情景が広がっていた。
ああ…狂ってる。
絶対に狂ってる。
おまえらみんなくるってる。
きちがいばっかだよ。
このせかいはきちがいばっかだ。
僕は天井を見上げた。
そして、ゲロと涙にまみれながら
天に向かって叫んだ。
「書き続けてやる!!お前らが不快に思うようなものを!!!僕の存在を否定したくなるようなものを!!!僕は書き続けてやるよ!!!!!」
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