お前らは「金を出す」という現実の極みの様な手段で夢を買っている。なにが夢の国だ死ね。

 僕は今、ディズニーランドにいる。

 まわりは家族や恋人、学生などに溢れていて、誰もがにこにこ笑ってる。幸せを凝縮した空間は、きっとこんな空気なんだろう。


 そこに、僕だけが浮いている。


 僕がぼーと突っ立っていると、肩をぽんぽんと軽い調子で叩かれた。振り返ると、そこにはミッキー。となりにはミニーもいる。

 ミッキーもミニーも可愛らしい動きで、僕になにかを伝えようとしている。「楽しもうよ」、とでも言いたいのかな。僕はそれににこりと笑いこう言った。


「大丈夫だよ。僕はこんなところに来なくても、いつでもどこでも夢の国へ行けるんだから」


 そう、だから安心してよ。ミッキー、ミニー。



 僕の言葉にミッキーとミニーはぎくりと動きを止めた。そして暫く硬直していたかと思うと、いきなりだらんと腕を垂らし、のろのろとどこかへ行ってしまった。先程までの可愛らしい動きの面影は微塵もない。


 僕は二匹の締まりのない背中を見送り、また、通りすぎていく人々に視線を戻した。


 相変わらずの幸せそうな世界。

 みんながみんな、夢の中。



 ディズニーランドは夢の国。

 みんなは夢を見に来てる。

 楽しそうにするみんな。



 でも、僕は全然楽しくない。




 ディズニーランドは夢の国。




 ……夢の国とはよく言ったもんだ。





 ディズニーランドは夢の国。









 じゃあ「夢の国」の"夢"って、"誰の夢"だと思う?





 僕たち人間の夢?





 いや、違う。


 夢は人それぞれだろうけど、実際人間にとっての理想境がディズニーランドってことはきっと無いだろう。






 じゃあ誰だ?







 残るは一つしかない。










 ミッキーたちの夢さ。






 ミッキーたちの住む国は、ミッキーたちの理想境。

 僕たちは、ミッキーたちの夢の中で楽しんでいるんだ。




 ……いや、別に。

 それが悪いとは思わないよ。



 けど、僕はそんなミッキーたちの夢に潜り込まなくたって、夢の国へ行ける。


 僕の夢とあいつの夢は全然違う。

 僕にとっての夢の国は、きっとあいつにとっては馬鹿みたいで頭がおかしくなりそうな国だろう。




 誰だって、人の夢を理解出来ない。

 別にしようとも思わない。する必要もないからね。


 誰かの夢を理解しその世界に浸るより、自分の夢の世界にどっぷり浸かっていた方が断然良いに決まってる。




 だからミッキーは、自分の夢の国にひきこもってるんだ。




 僕だって夢の国へひきこもる。

 あいつほどじゃないけどね。


 何にも見えず、見ようともせず。

 夢の国へひきこもっては現実から逃避する。

 時々夢の国から出てちらりと現実を見てみるも、あまりの現実と理想の違いにショックを受けて、また夢の国へひきこもる。



 それなのに、人はあいつを見て憧れる。



 それはあいつが、みんなが未だに出来ていないことをやってのけたからだろう。

 人は無意識の内にあいつの完璧な理想境を見て「いいなぁ」と羨ましがってるんだ。

 終いには「ずっとディズニーランドにいたい」と思いだす。自分じゃ理想境を作れないもんだから、他人が作った他人の理想境に住みたいと思う。



 でも僕はそうは思わない。

 なぜなら僕はすでに自分の理想境を作り上げたからだ。

 場所は脳内だけど、すぐ行ける。

 それは僕にとってのディズニーランド。

 すっごく楽しくて、幸せになれるんだ。








 ディズニーランドは夢の国。

 みんながみんな、夢見てる。


 さぁ。

 みんなもはやく、ミッキー・マウスになろうぜ。






 僕はディズニーランドを後にした。

 夢の邪魔をしないように、静かにね。

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