第2姓 冥菜

一緒に帰宅することになったんだけど。

なんか冥菜ちゃんが避けられている気がする。


「めーちゃん。」


「なぁに?」


「なんか悪いことでもしたのか?

言いたくないなら言わなくてもいいんだけど。」


「してませんよ、私は。」


「なんか引っかかるけど、まぁいいや。

人避けてて辛くねぇ?」


「いいえ?」


「じゃ、いいか。

すまん、余計な世話だったな。」


「詮索しないんですか?」


「言いたくないこと聞いてどうする。

俺が気にするかしないかの問題だろ?

え? 人やっちまった?」


「やってません!」


「じゃあ気にするところはねぇかな。

誰でも一つ二つは悪いことしてるもんだろ。

稀に聖人もいるけどそれは凄いなってことなだけだし

それで自分の価値が変動するわけでもないしなー。」


「なんか変わった考えをお持ちですね。」


「そおかぁ?」


ぶらぶら歩いているとコンビニが見える。


「あ、コンビ。

めーちゃんなんか飲む?

買うよ。」


「コンビニ……?」


「お? 知らない感じ?」


「コンビニくらい知ってます!」


「ほいほい、じゃ行こうか。」


「えぇ。」


ピンポーン。

らっしゃっせー。


「何飲むー?

食べる?」


「……。」


目をキラキラさせてキョロキョロしている。

本当に知っているのだろうか……?


「めーちゃん、炭酸行けるクチ?」


「たん……さん?」


「シュワシュワする飲み物って言って通じる?」


「……あの。」


「ほ?」


「嘘をつきました。

コンビニに入ったことはありません。」


「入ったことないだけで知ってるんだろ。

じゃ、嘘にならないかなぁ。

炭酸知らないってことは大切にされてるのな。」


「どうして?」


「体にはよくなさそう。」


「あはは。」


「では、この濃縮還元オレンジジュースをご馳走しましょう。

俺はミックスジュースでいいや。」


ばこん、とガラス戸を開けるとびっくりした顔をしている。


「どした?」


「引っ張るんですね……。」


「まーな!」


ありっしたー。


外に出てオレンジジュースを渡すと不思議そうに見ている。


「およ?」


「液体が入っていますが、どう飲むんですか?」


「あー、こうやってな、キャップを。」


パキンとひねって開けると、同じようにひねって開ける滅菜。


「……よくできてますね、これ。」


「だよなー、発明だと思わね?」


こくこく飲んでいると、滅菜が不思議そうにこちらを見ている。


「なんかあった?」


「歩かないんですか?」


「あ、歩いてよかった?

なんか育ちがよさそうだから飲み歩きって行儀悪いかなって。」


「ふふっ。

じゃあ悪いことをしましょう。」


歩きながらこくりと滅菜の喉が動く。


「けふっ!」


「だ、大丈夫か!」


「慣れないことをするもんじゃないですね……。

うん、少しずつなら大丈夫です。」


「無理しなくても。」


「悪いこと、興味あるんです。」


「そうかぁ?

なんかお嬢様みたいだなぁ。

いやー、実際お嬢様ってめーちゃんみたいな人な印象あるけど。」


「お嬢様だとしたら?」


「めーちゃんはめーちゃんでしょ。

何を言っている。

確かに俺なんかとは住む世界は違うだろうが

袖が触れた以上は縁があるんだろ。」


「……あの」


言いかかったところで黒いスーツを着た男が数人やってくる。


「これまでです。」


その言葉に滅菜は信じられないほど眼光を鋭くする。


「誰が出て来いと言いました!?

下がりなさい!」


「しかし。」


「この責は私にあります。

どうか、自由にさせてください。」


「畏まりました。」


そう言うと男たちは下がっていった。


「あれ? マジでお嬢様?」


「……内緒にしてたかったなぁ。」


足元の石を蹴る滅菜。


「見方変わったでしょう?」


「何の?」


「私の。」


「さっきめーちゃんはめーちゃんだと言ったけど……。」


「変わらないんですか?」


「嫌じゃなけりゃなー。

付き合い変えられるほど器用でもない。」


「信……じられない。」


「じゃ、そうだなー。

そのオレンジジュース。」


「これですか?」


「さっきコンビニで飲んだ時と、今とで味変わってる?」


「え? そんなマジックが……。

こくり。 ん? 一緒ですけど。」


「変わらんものは変わらんのだ、そーゆーこと。」


「……ではこう言ったら?」


「ん?」


「お父様はこのあたりの権力者で、何人もの人生を壊してきました。」


「あれ? 三羽扇なんて名字があったら死ぬほど覚えてそうだけどな。」


「それは……。」


「ま、いーや。

俺がアホなだけだろ。」


「いいんですか……。」


「親がしたことって子供が責任負う必要あんの? 知らんが。」


「無視できないほどに罪は大きいですよ。」


「親にそうしてくれって言ったら同罪かもしれんが、違うだろ?」


「えぇ。」


「何だっけ、あれだ。

親の借金って子供が払う必要ないじゃん?

あれと同じじゃないの。

払う意思を見せたら責任は出るだろうが、

十字架背負いたい奇特な人ならわからんけど。」


「嫌です。

私は自由に生きていきたい。」


「じゃ、今日やった悪いこと。」


「ん?」


「紛れもなく自分の意志でやったろ。

飲み歩き。」


「えぇ。」


「めーちゃんって鳥っぽいよなー。

決められているようで自由に羽ばたいてるかんなー。」


「……萌菜さん。」


「あ、ワーリィ。

いつもの癖で言いたいこと俺ばっか喋ってるな。」


「もういいかな、うん。

お願いがあります。」


「何だどうした、何でも言ってくれい。」


「何でも? 後悔しませんか?」


「おう。」


「私の家に来てくれませんか?

あなたを知りたくなりました。」


「お、いーよー。」


「SP!」


その掛け声と同時に横に黒塗りの車が止まる。


「お?」


そこから黒いスーツの人が出てくると滅菜へ丁寧に案内をし

彼女が車に乗り込んだ。


「お嬢様、よろしいんですね?」


「はい。」


「萌菜、と言ったか。

乗れ。」


「ゑ?」


「乗れと言っているんだ。」


「あ、はい。」


「……丁重にもてなしなさいね?」


奥からにっこりしてるけど冥菜ちゃん覇気っぽいのが凄いんだが。

車に乗ると発進、ガラスは暗くて景色は分からない。


「目、閉じてた方がいいのかな。」


「大丈夫、気楽にしてください。

いつものあなたのままでいてほしいです。」


「了解。」


キッと音がして止まった。

あまり走っていないような気がする。


扉が向こう側から開く。

ほー、こういう扱いされてるんだね。

と、少ししてこちら側の扉も開いた。


「萌菜さん。」


「めーちゃんが開けてくれるの!?」


「中からは開きませんから。」


「ありがとう。」


で、入口まで来たんだがメイドさんに執事さんが並んで


「おかえりなさいませ!」


って言ってるー……。

マジでお嬢様だー……。


「やめてって言ってるのに、もう。

萌菜さん、こっちです。」


「ほい。」


広間に通されると、座るように言われて待機。

少し待つと冥菜ちゃんと綺麗な淑女が。


「あ……。」


「そのままで。」


立ち上がろうとしたら、制された。


「あなたが……。」


ジロジロではなくジーッとみられている感じ。

品があるね。


「あなた、冥菜の何でしょう?」


「どこまで答えたらいいんだ。

お友達です。」


「あら、冥菜。

婿じゃないの?」


「なんで恋人もすっ飛ばしてるんですか!」


「でも、あなたが気にいるなんて珍しい。

てっきりもう友達すら持たないんだと思ってたわ。」


「まぁ、そうですね。」


「ん? お母さんですか?」


「冥菜の母、深雪(みゆき)です。」


「これはご丁寧に、自分は」


「萌菜、でしょう?」


「お恥ずかしい、そうです。」


「恥じることはありません、あなたはあなたですからね。」


「あ、はい。」


「で、冥菜。

彼のどこを気に入ったの?」


その言葉に赤くもならずに答える。


「性格に。」


「……ん? あなたオレンジの香りがするわね。

何か食べたりした?」


「萌菜さんにジュースをいただきました。」


「買い食いしたのね、悪い子。」


「ごめんなさい。」


「ふふ、あなたがそれをしたってことはそれなりの理由はあると思うから。

いいわ。」


「はい。」


「萌菜さん、冥菜のことありがとうね。」


「いやぁ。」


「ふむ、じゃ私はこの辺で。」


何かを悟ったのかお母さんは部屋を出て行った。


そこからは滅菜ちゃんと冗談を交えながら何でもない話をしていた。


さっきコンビニでしていたような何でもないような話。


少々沈黙もあったが、数時間話し込んだ。


「ふふ。」


「何だ?」


「私、下手ですね。

会話が続きません。」


「わりぃ、俺あんま話題無くてよ。」


「いえ、広げない私が一番乏しいと思います。

見分が狭いので申し訳ありません。」


「じゃ、知ればいいじゃん。

くだらねぇことならいくらでも知ってる。」


「ふふ。」


特に意識もしてない。


お屋敷を出たらなんか車で送ってもらっちゃったんだけど。


「では萌菜さん、また明日。」


「またー。」


窓が閉まると車は去っていった。


終わったか。


可愛い子だとは思うけど住む世界違うしなぁ。


そして次の日になった。

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俺、蘭家次男、萌菜16歳 大餅 おしるこ @Shun-Kisaragi

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