第17話

 私は裁判の結果は、格子の向こう側からやってきたのでした。食事を差し入れるついでに、看守が言いました。


 死刑でした。


 たまらず、私は裁判に出なくていいのかと聞きました。裁判にはきっと父も来てくれて、なんとかしてくれるのではと思っていました。


 看守は、殺人犯に機会なんかあるものか、この事件は、私がやったことに違いないから、わざわざ陳情なんか聞かないのだと言いました。


 なるほど、そうか、でも、と思いました。言い訳の機会など、殺人犯には与えない方がいいものかもしれません。裁判に出て、父の技量で守ってもらいたいと願っていましたが、同時に、少しでもあの事件の臭いがするものには耐えられず、直視させられると、神経はギリギリと両脇から引っ張られ、バイオリンを弾くようにのこぎりで挽かれました。


 消灯した頃、ようやく横になることが許されました。小部屋の壁が、一段とひやりと冷たくなっていました。ベッドの壁側からなるべく離れて、私は膝を折って、体を丸めて寝ました。


 もう長い間、ぐっすり眠った感覚からは離れていました。寝ているのか、体を横たえているだけなのか、後者であったとしても、意識がある時の痛みと比べれば、多分な安息の時間でした。


 移送の時は、事件の写真を見せられるよりははるかにましでした。動物なんかを入れるようなケージを看守が持ってきて、その時にはもう嫌な予感はしていたのですが、そこに入ることになりました。


 私は小さくなって膝を抱え、首も前に倒し、楽とは言えない姿勢でした。


 ドアの鍵穴に、看守が腰から下げている鍵をガチャンといわせ、大きなハンドルを回すと、死刑房のドアはゆっくりとせりあがります。この仕組みは私のような死刑囚にとって、途方もない闇の中に葬り去られるような、絶縁と孤独を味あわせるためのものだったのでしょう。


 でも、その日に一番つらかったのは、大人しく暗い穴に入ることより、面会の方でした。死刑房に移送されたその日から、面会が始まりました。


 週に五日、一日三組、一組三時間までのその枠の中、私が誰と面会するかは、その日の担当の看守が決めるらしいのです。


 週に五日、長ければ九時間、私は錆びついた細い格子の向こうから、あらゆる質問、あらゆる非難、あらゆる憎悪を浴びました。でも、私がその人たちの時間の代わりにさしだせたものは、何もありません。


 目の下のたるんだ、ぽっちゃりとした腹のおじさんは、私が面接室に入った時、もう椅子に座って待っていました。丸い両目は充血していました。私を、部屋に入ってきた瞬間から、まばたきもせずじっと見ていました。


 そして、なぜ私の孫を殺したのかと問うのでした。私のことを、何度殺しても殺し足りない、両目を奪って指を切って、豚共にくれてやりたいと言われました。


 あの日、孫を預かってもらうことに決めたのは他ならぬ自分で、自分は昼食を外で食べるために、孫をよそにやった豚なのだと叫んで、私が小さな雛のことを考えていても、考えていないよりも我慢がならないと、膝の間に頭を入れて、オ、オ、オ、オ、オ、オと、声帯を引きちぎらんばかりに咳こんでいました。

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