第11話
あの下見から一晩も立たないうちに、私はあの家の玄関が見えるところに戻ってきました。路上で壁にもたれて、道ゆく人や空を眺めるふりをしながら、家人が出てくるのを待ちました。
家から人が出払った後に裏の窓を割って忍び込み、帰ってきた家族を襲う計画でした。待ちながら眠ってしまったら、どんなに父ががっかりして怒るだろうか、追い出されてしまうかもしれないと、ぼうっと考えていました。
ゴチン、ゴチンと後頭部を壁に、軽く打ち付けました。父に頭をどつかれた時の、意識が体に引き付けられる感覚をもう一度、取り戻そうと思ったのです。待ちに待って、早くこれを終わらせて、パンを買って帰らなければなりませんでした。
待ち遠しくも玄関のドアがパッと開いて、女と、女の子を抱えた男が出てきました。その人たちはこちらを見ませんでした。女の方は、腕時計をチラリと見て、玄関の鍵を閉めていきました。あれが私の母なのかと思ってもみたのですが、何の感傷もわきませんでした。
三人の背中を見送ってから、やっと、私は布の包みを拾って、抱えることができました。中には四本のナイフと、腰から下げるための紐、手にナイフを結わえる紐、そしてガラスを割る石が入っていました。
私は家の裏側に回りました。履いていた靴を格子の向こうに投げ、裸足の足の親指を格子に引っ掛けて登り、大慌てで降りました。柵の間から、先に布に包んだナイフを差し入れ、それから柵にどうにかよじ登って、やっとベランダに入りました。
誰かに見られたら、またこの柵と格子を飛び越えて、今度は走りに走って、逃げなくてはなりません。
家人はみんな外出しているはずでしたし、早く家の中に入ってしまわなければなりませんでしたが、ガラスに右耳をつけて中を伺いました。向こうからは、何の音もしませんでした。
先に柵に差し入れておいた包みから石を取り出し、それで窓を割って鍵を開けようとして、錠がされておらず少し驚きました。軽い窓をゆっくり、細目に開けて、何の音もしないのを、また確かめました。
それからもっと窓を大きく開け、私は青の重い遮光カーテンと、白いレースの薄いカーテンの二枚を、向こう側に人がいないか、それは緊張しながらめくって、中に入りました。
人様の家だと思うと気が尖りました。これから悪い生き物を退治しに行くというのに、私は気弱さを捨てきれていない、と自分を叱責し、奮い立たせようとしました。部屋の中には本棚があり、様々な厚さの本が、几帳面に並んでいました。
複雑な模様が組み合わさって、壁一面に広がる壁紙を見ました。壁を頭にして、大きなベッドに白いシーツや掛布団が整然とベッドメイクされ、脇には小机とランプまでありました。私が幼い頃に父と住んだ家のどれよりも、清潔な部屋でした。
整った部屋に圧倒され、本などを触り、ベッドシーツの質感を調べ、先ほども触ったものをまた触るのを繰り返し、やめられませんでした。
あまりに異世界で、この部屋の物や雰囲気全てを、感じてしまいたいと思ったのでしょうか。実際のところ、私が何かを考えていたとは思えないのです。
なぜなら、私は家に侵入後、間取り図に従ってキッチンに行き、包丁などがあれば集めておいて、家人が帰ってくるのをどこかのクローゼットの中で待つ算段だったからです。それをすっかり忘れて、私は遊んでいたのでした。
ふと、玄関の外でビニール袋が、ガサガサ、ガサガサと鳴る音が聞こえました。鍵をジャラジャラいわせる音もしました。
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