第三十六話 《六魔大祭》
《六魔大祭》――それは、一年に一度『マディステラ』の首都・『ケントルム』で開かれるお祭りである。この祭りは『マディステラ三大祭』の一つであり、毎年盛況を見せている。
最初、この《六魔大祭》は三大祭と呼ばれるほどの大きな祭りではなかった。
マディステラの最高魔法教育機関である六校――『レウゼン魔法学校』を筆頭に『アルビス魔法学校』、『エルビナス魔法学校』、『ローゼンティル魔法学校』、『ジェノリア魔法学校』、『フルトリエ魔法学校』。
この六校に所属している生徒たちによる学校対抗戦であり、自分の実力を魔法騎士団に見せる格好の場であったのだ。それが次第に騎士たちが見学に来て、民衆が学生たちの勇姿を見んと集い、屋台が出始め、次第に祭りの様相を呈していった。
その結果、今となってはマディステラを代表する祭りとなっていったという歴史がある。
「《六魔大祭》には有望な騎士候補たちが集う。《
フローリアは険しい顔をしながら「そんなチャンスを《
リオンも大方フローリアと同意見だ。
仮にシャルルという狙いを手に入れられなくても、他の優秀な生徒を連れ去る事や邪魔者を排除するといったことなどができてしまう。
そんなチャンスで《
「……というか、野外演習でもちょっかいを掛けてきたんだ。《六魔大祭》で何もしない方が有り得ないか」
「そう。下手すれば、野外演習よりもっと被害が拡大する可能性だってある」
リオンの発言にフローリアは肯定を返した。
「あの隊長。そもそも、《
リエルが手を挙げて疑問を口にした。
その疑問は当然のものだ。普通、人を攫うならもっと目立たず、人目につかないタイミングで仕掛けるべきだろう。
だが、前回の野外演習ではそれをせず、わざわざ襲撃という形でシャルルを攫おうと動いたのだ。
明らかに目的と動き方が矛盾している。
「それがわからないんだよなぁ……。確かに、リエルの言う通りなんだ。攫うなら夜や人気のないところが良いはずなんだよ。なんで態々真っ昼間に、それも生徒たちの目もある野外演習で襲撃を掛けたのか……」
リオンは溜め息交じりの声でそう言葉を漏らした。
それに続くようにフローリアが自身の考えを話し始めた。
「…………そもそも、誘拐することが目的じゃないとかか? 例えば、邪魔だからシャルルを殺すって言う名目だったり……」
「確かにその線はあるけど、あの娘のなにが邪魔と取られたのかわからないしなぁ……。流石に研究目的で攫うって言う名目の方がしっくり来る気がする」
「でも、それじゃあなんで《
結局、ここで《
リオンがジオに対して、奴らの目的を聞いた際もそれを教えては貰えなかった。
なんの情報もなしに考察するのは愚策だろう。
「一先ず、《六魔大祭》での動き方なりなんなりを話し合おうか」
フローリアは三度手を叩くと、話の流れを切り替えた。
「…………とは言っても、結局その場その場で対処しか方法なんて無いよねぇ」
「ま、そうだな」
「同じく」
恐らく手を出して来るであろうと予測は立てたが、実際どうなるかはその時になってみなければならない。
そもそもとして、《六魔大祭》にはリオン達の他にも数多くの魔法騎士たちが一堂に会するのだ。幾ら《
無論、油断しているわけではないが、今対策を講じたところでその通りに状況が動く訳でもない。
相手の出方が分からない以上、作戦など立てられる訳もないのだ。
「じゃ、次は学校としての話をしようか」
「学校としての話? なんだよ、それ?」
「リオンもリエルも知らないだろう? 《六魔大祭》が学校にどんなメリットがあるのかとか、そもそも出場者はどうやって選抜するのかとか」
フローリアの問いに二人は首肯を返した。
「一先ず、《六魔大祭》が行われる目的について話そうか。前提として《六魔大祭》は学生たちが騎士団に自己アピールをする場だということ。ここで副隊長以上の目に留まれば卒業時に推薦を貰えるんだ」
魔法騎士団に所属するには二つの方法がある。一つは副隊長以上からの推薦。もう一つは採用試験を受けて自力で所属を勝ち取る方法。
ここで言う推薦と言うのは、採用試験などの過程を飛ばして、推薦をしてくれた人物が所属する隊にそのまま入ることができるシステムの事だ。
仮に、入りたい隊が既に決まっているのなら、その隊の副隊長や隊長から推薦を貰う方が良いに決まっている。
推薦を貰えず、厳しい採用試験を合格して魔法騎士になれても、自分の入りたい隊に入れる可能性は低いのだ。だからこそ、学生たちはこの場で自分がどれだけ優れているのかアピールをするのだ。
「そして、アピールするのは学生達だけじゃない。学校側は生徒達がどれだけ育っているかを国にアピールしてみせるのさ」
生徒たちのアピールがイコールで学校側がどれだけ優秀な教育を施しているのかの指標になる。
つまり、優秀な生徒たちが多ければ多いほど教育機関として優れており、逆に少なければ教育機関としてさして優れていないという評価を受ける事になってしまうのだ。
「そもそも、学校側がアピールして何になるの?」
「いい質問だね、リエル」
フローリアはリエルに向けて指を鳴らし、ウィンクをしてみせた。
「簡単に言うと、次年度に貰える予算が変わる。《六魔大祭》は競技の結果によって、それぞれの学校にポイントが配布されるんだ。得たポイントによって一位から六位まで決まるんだけど、その順位によって国から割り振られる予算が決まるんだ」
表向きは学生達のアピールの場。
だが、裏向きでは学校側がどれだけの金額を国から引っ張って来られるかという戦いをしているのだ。
「とても神聖なお祭りには見えないだろう? 裏では大人達の薄汚い金銭競争を行っているのさ。因みに十年連続でレウゼンが一位を独占してるんだ!」
「知ってる。……十年前にお前が無双して以来、お前が卒業するまでの五年間全ての種目で一位を総なめ。卒業した後もその快進撃は止まらないって、新聞記事で見た」
「へぇ、リオンも新聞なんて読むんだねぇ?」
「…………なんだよ」
「フフッ……いや、なんでもないよ」
フローリアは頬を緩ませながらニヤニヤしている。
リオンも気恥ずかしいのか、頬を少しだけ赤くしている。
二人の異様な雰囲気に勘付いたリエルは頬を膨らませた。そして、勢いに任せてリオンの腕を取って、思い切り引き寄せた。
「うわっ!? なんだよ、リエル!」
「…………隊長は私のもの」
「なぁにぃ? 嫉妬しちゃったのぉ?」
フローリアは先程の仕返しと言わんばかりに、リエルに対して嫌味を込めて笑いかけてみせた。
フローリアの煽りによって、リエルは余計不機嫌になり余計にリオンを引き寄せる腕に力が入る。
「貴女みたいな胸に栄養が行っただけの間抜けに嫉妬なんてする訳ない」
「へぇ……言うじゃないか。そう言う君は胸どころか頭にも栄養が回ってないみたいだけど、どこに栄養が行ってるのかなぁ?」
フローリアとリエルの間に火花が散り始めた。
間に挟まれたリオンは顔を引き攣らせている。
「…………とりあえず、学校のメリットは分かったから出場者の選ぶ方法を教えてくれないか?」
「む、確かに。こんな煽り合いしてる暇ないよね。リオンもこれから授業あるだろうし」
フローリアは一度咳払いをした。
「…………ン゙ン゙ッ! さて、選抜方法なんだけど単純明快でね。一週間後に出場を希望する者達で行われる《剪定戦》を経て決めるんだ。七日間で七回の模擬戦をしてその勝利数が多い人から出場者に選ばれるってシステムだね」
《剪定戦》を持って実力を見ての選抜。
実力者を選ぶ方法としては、これより合理的な方法は無いだろう。
だが、当然疑問はある。
例えば――
「……ちなみにそれは一年から五年全部混ぜてなのか?」
一から五年生までの全学年が入り混じっての《剪定戦》なのかどうかという事だ。
仮にそうだとしたら、まだ経験や技術不足を否めない一年生には厳しい戦いになるだろう。
「いいや。一年生は一年生で、二から五年生はごちゃ混ぜでやるよ。《六魔大祭》では『新人戦』と『本戦』があるからね。あ、もちろん『本戦』に出たいならごちゃ混ぜの《剪定戦》をすることになるけど、そんな一年生はあんまり居ないかな」
各学校の一年生しか出場できない『新人戦』。本戦の前に行われる前座のようなものだ。
これがあるからこそ、一年生は一年生同士で《剪定戦》を行う事になる。
無論、フローリアの言う通り一年生が本戦に出られないという事はない。だが、それは鬼門である。自分たちより体格に優れ、知恵に富み、実力の高い上級生を相手にしなくてはならないのだ。
無理とまでは言わないが、極めて不可能に近い。
その不可能を可能にしてしまう怪物も過去には数人いたが、それは特異な例だ。
ちなみにだが、フローリアも一年生にして本戦に出たという伝説を残している。
本人はこれを未だに自慢しており、誇らしく思っているらしい。
「まぁとりあえず希望者募っといてね。色々事件があった影響で《剪定戦》の開催も遅れたし、他の魔法学校よりも一年生の教育は遅れてるんだ。この一カ月あまりでどれだけ生徒達を伸ばせるかはリオンの腕の見せ所だからね!」
フローリアは腕を曲げて力瘤を作ってみせながら「ファイト!」とリオンを応援してみせた。
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