第3話 同じような人

 「なんですか?」

 僕は隣のベッドに腰かけている人から声をかけられた。女性だった。

 「君、なんでここ来たの?」

 なんでわざわざこんなこと聞くんだ?分かり切ったことだろうに。

 「……僕がいた分隊が敵に突破されて僕以外全員死んだから。そして僕の足が折れているから。」

 「素っ気ないな。もうちょっと君という人間を教えてよ。」

 「話しかけられたことに答えただけですけど。」

 なんだか調子狂うな。

 「私の名前はメアリー・ライル。ジュート地区にいたんだ。君の名前は?」

 なんだろうこの違和感は。何かがおかしい。

 「……僕の名前はロスです。メイーリー地区にいました。」

 「メイーリー地区か。災難だったね。」

 「別に。もう何も、感じなくなりましたから…。」

 そう言って頭を少し俯く僕を見て、メアリーは目を少し細めた。

 「私の話をしよう。」

 「え?」

 何言ってるんんだこの人。

 「私がいたジュート地区は、他のところに比べて割と戦闘が激しくないところでね。比較的楽なところだった。しかし、潜んでいたスパイにより、私たちの分隊は壊滅。生き残っていたのは私だけだった。」 

 僕と似たような感じだ。

 「そのジュート地区を仕切っていたのは私の父親でね。父も死んだよ。でも私は悲しくなかった。なんでか分かるかい?」

 僕は少しの沈黙の後、口を開いた。

 「もう…、壊れていたから。」

 「正解。私は目の前で戦友たちが生きたまま脳天を貫かれたり、生きたまま大量の軍人に踏みつぶされたところを見た。だから私は、父の死にざまを見てもなにも感じなかった。私はもう壊れた。感情を亡くした私は、もう死んだんだ。」

 この人の違和感の正体が分かった。

 発言に感情が乗ってないんだ。さっき僕に聞いてきたことも、文字に表せば気丈に聞こえるかもしれない。でも、この人にはもう感情がない。何も、感じないんだ。

 僕と一緒だ。

 「どうした、ロスくんよ。固まってしまって。傷が痛むか。」

 「いえ、その…。僕と一緒だと思って。」

 「フーン…。君もか。…一緒だな。」

 「一緒です。」

 僕たちの間には沈黙が流れた。

 「なぁ。」

 「はい?」

 「この戦争、終わると思うか?」

 メアリーは、言い方を変えれば非国民と取られかねない発言をした。だが、僕たちには、死が怖いという感情も無かった。

 「終わらないでしょう。…少なくともあと一年は。」

 「私も君と同じ意見だ。」

 そうメアリーは言うと、布団の中に入った。

 「私は寝る。明日、君が先に起きてたら起こしてくれ。……あわよくば寝ているときに死んでくれないかな。」

 「分かりました。…あと、死に場所ならいいところがありますよ。絞首台が。」

 「そりゃ、いい場所だな。」

 そう言って、メアリーは寝てしまった。

 「この戦争は、何のためにやってるんだろう…。」

 戦争なんて、労働力である人がただ沢山死ぬだけの、非生産的な行動だ。

 戦争なんて、ただ力を見せびらかすだけのものだ。

 力がある方がやっているのは、ただの脅迫と変わらない。恐喝とも変わらない。

 勝っても負けても、どちらも同じくらい苦労する。

 「……そんなのくだらないな。」

 やる意味などあるのだろうか。

 「やめよう。考え過ぎたらキリがない。横になろう。」

 そうして僕は、ベッドに倒れこんだ。

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