第2話 微かな希望の光も
「はぁ゛、ば…あ、はぁ、んぐっはぁ、はぁ、」
僕は、足を引きずりながら、戦友たちが倒れている戦場を歩いている。どうやら、足は骨折しているらしい。痛くはない。
戦友たちの中には、見慣れた顔もあったが、なんの感情も沸いては来なかった。ただ、心のなかは喪失感と大きな虚無感が占めていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」
僕は歩いた。ただひたすらに歩いた。大佐が逃げた方向へ。そこに何かあると信じて。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」
立ち止まった。そこには、僕が逃がした、ただの肉塊と化した、嘗ての上司の顔があった。
「ああ…、あなたもそうなったんですか、大佐。」
先ほど逃がした上司がもう死んでいる。ということは、奴らはもっと先にいったに違いない。
敬愛していたはずの上司の顔も、今はただの数ある死体の中の一つとしてしか考えられず、そのぐちゃぐちゃになった体も今となってはうざったいだけだった。
「ああ…、これが。」
これが、戦争なのか。これが、壊れるということなのか。
今の僕は端から見たらどうだろう。多分、今の大佐と同じに見えるだろう。
誰かが言ってたな。人は感情を失ってしまったら死んだも同然だって。
じゃあ、今の僕は死んでいるんだな。生きているのに死んでいるなんて、ただの皮肉でしかないな。
「…行くか。」
僕はまた、歩き始めた。先ほどと同じ、別になにも感じない。
「…感情なんて、感じるだけ無駄だ。」
苦しいなら、感情なんて作らなければいいのに。
少し歩いて、本部と思われるテントにたどり着いた。
「おい!大丈夫か!」
どうやら今の僕は相当ひどい状態らしい。でも僕には、感じていないからわからない。
「お前、メイーリー分隊のやつか?他の奴らは?」
ほんの数時間前に大佐と話したはずなのに、話すということをしたのがひどく昔のような感じになった。
「メイーリー分隊の人たちは…、僕以外全員。」
最後まで言わずとも分かったようで、その人は顔を顰めていた。
「とりあえずお前は休め。あそこのテントに入ってろ。」
「はい。」
僕はもう思考を放棄した。いや、ほとんど放棄したと言ったほうが正しいだろう。
僕は、言われるがままにテントへ行き、そこにあったベッドにダイブするように倒れこんだ。
時間の密度が高い。いつもならすぐに1日が過ぎるはずなのに。なんでこんなときに。
半ば気絶するように僕は、真っ暗な世界へ入り込んだ。
一時間後くらいだろうか。僕は目が覚めた。
むくりと体を起こし、改めてテントの中を見回してみる。
テントの中には、頭を抱えてがたがた震えているような人だったり、ぶつぶつと何かを唱えている人だったり、僕みたいに死んだ人だったりがいた。
数時間前までの僕だったら、気の毒だと思ったりしただろうが、今の僕にはただいるという、存在を認識していることだけだった。
(この人たちのことは僕には関係ない。また眠ってしまおう。できれば、寝ている間に死んでくれないかな。)
そう思って寝ようとしたとき、
「ねぇ。」
僕は話しかけられた。
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