第39話 閃光

 王国騎士団に連行されたオレたち五人は、城前の広場で横一列に十字架にはりつけにされていた。

 広場の周辺には多くの野次馬たちが罪人の顔を一目見ようと集まっている。


「勇者・ユウキ=ムテッポーよ。このようなことになってしまい、ワシとしては非常に残念に思っている」


 エライ王が壇上からオレたちに向かって語りかける。


「お主たちなら、もしかしたらサチウスを助けられるかもと期待していたのだがな……」


「なーにが『お主たちなら、もしかしたらサチウスを助けられるかもと期待していたのだがな……』やッ!! 自分の実の娘を独房に入れて、最初から見殺しにする気満々やった癖にッ!! この冷血オヤジ!! ヘビ!! トカゲ!! ナマコッ!!」


 マジカが両手両足を十字架に縛られた状態で、エライ王に啖呵たんかを切る。


「おい女!! 国王陛下に向かって何という口の利き方だッ!!」


 筋骨隆々の死刑執行人の男がマジカの首元に剣先を突き付ける。


「不敬罪で生きたまま足元から輪切りにしてやろうか?」


「ひィィィッ!! 今のなしッ!! 今のなしッ!! ごめんなさい~ッ!!」


「……よせ、その者が言っておることは事実その通りだ。確かにワシは王としても父親としても失格なのだろう。そのことはワシ自身が一番良く理解しておる」


 エライ王はそう言って自嘲じちょうする。


「だが、どんなに情けなくとも、二千年続いたナナヒカリ王国をワシの代で潰すわけにはいかない。周りからどう思われようと、それだけは曲げられない」


「でしたら陛下、罰を受けるのはそれがし一人で充分の筈。ユウキ殿たちは姫が助かる方法を模索していただけで、国家転覆を目論んでいたわけではありません。姫を危険にさらした責任は某にあります。どうか彼らには寛大な措置を」


 モンキリが縛られたままエライ王に嘆願する。


「残念だがそういうわけにはいかない。モンキリ、お前たちがサチウスを助けようと行動していたことは知っている。だが、その行動がウワバミ様、ひいてはナナヒカリ王国の存亡をも脅かしたことは紛れもない事実。到底看過かんかできるものではない」


「さっきから何を偉そうに。アンタが最初から姫が死ぬ責任をウチらに擦り付けるつもりで、ユウキに姫を助けるよう頼んだことはわかっとんねん!! 自分では何一つ決断せずに、責任だけ他人に負わせるやなんて卑怯やぞ!! 恥を知れ!! 恥をッ!!」


「……ワシのことならどんな言葉で蔑まれても甘んじて受けよう。しかし何と言われようと、お主らの処遇は変わらない。勇者・ユウキ=ムテッポーよ、最後に言い残しておくことはないか?」


「最後に言い残しておくこと? そんなものはありませんね」


 ユウキはエライ王を真っ直ぐに見返してそう言った。


生憎あいにく、ボクはこんなところで死ぬつもりはありませんし、まだサチウス姫救出の任務も諦めておりません」


「……何を言っている? サチウスなら先刻城を立ち、ウワバミ様への供物くもつとしてスネカジリ山へ運ばれたところだ。娘が助からないことは既に決定している。お主らの意志とは無関係にな」


「そうですか。でしたらエライ王、ボクと賭けをして戴けませんか?」


 ユウキがそこでニヤリと笑う。


「……賭け、だと?」


「もしもこれからボクたちがサチウス姫の命を助けることができたなら、ボクたちをこの十字架から解放してください」


 ユウキはやはり自信満々でエライ王にそう言うのだった。


「……何をわけのわからないことを言っている? イカレているのか?」


「そうやで、ユウキ。この状況で姫を助けるも何も、身動きすらとれへんのにアンタに何ができんねん? ああもう、何もかも全部あっさり捕まって人質の姫を奪われたナマグサの所為やッ!!」


 マジカが横目でナマグサを鋭く睨み付ける。


「……そ、そんなーッ。全部わたしが悪いって言うんですか?」


「当たり前や、ドアホッ!! お前、ウチらがウワバミ様のとこに行っとった間、何やっとってん?」


「……何って、そりゃ色々と、ね」


 ナマグサがそこでニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべた。


「エライ王、賭けに乗っては戴けませんか?」


「……ふん。賭けも何も、そんなことは絶対にあり得ない。国も娘もどちらも助かるのなら、特例としてお主らの罪を不問にすることもやぶさかではないが、娘の死は既に確定したことだ」


「どちらも助かれば不問。その言葉に嘘偽りはありませんね?」


「……ああ。そんな奇跡は絶対に起きないと断言するがね。馬鹿馬鹿しい」


 エライ王が軽蔑するようにユウキを睨み付けた。


「……おい、どういうつもりだユウキ?」


 オレはエライ王に聞こえないように、小声でユウキを問い質す。


「ハッタリで少しばかり時間を稼いだところで、オレたちがここから助かる見込みなんて殆どゼロに等しいだろうが。勿論、何か勝算があるんだろうな?」


「勝算? ケン、お前もおかしなことを言うね。『殆どゼロに等しい』ということは、ゼロではないということだ。だったらどうせ失う命、運を天に任せても損はないだろう?」


「……お前それ、本気で言ってるのか?」


 オレはユウキの言葉を聞いて絶望する。


嗚呼ああ、もうお終いや!! こんなことなら一攫千金なんか狙わず、地道に酒場でバイトでもしとけば良かった~ッ!!」


 ――そのとき、スネカジリ山の頂上から眩いばかりの閃光がほとばしる。


 広場に集まった全員が幻想的な七色の光に包まれた。


「……ッ!?」


「……な、何や、この光はッ!?」


「今しがた、ウワバミ様の生贄の儀式が終わったのだ」


 エライ王が静かにそう言った。


「サチウスはウワバミ様の供物として国の為に死んだ。次はユウキ=ムテッポー、お主らの番だ」

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