第38話 復元
「さあ、皆で考えよう」
――スネカジリ山の頂上にて。
ユウキが大きな満月をバックに、一同に向かって声高にそう言った。
「ナナヒカリ王国の平和と国力を保つには、守り神であるウワバミ様の存在が必要不可欠だ。しかし王国がウワバミ様の
「……なァ、一ついいか?」
「ああ、発言は自由だ。何でも遠慮なく言ってくれ」
「……何故それを
赤い
「そんなの決まっているだろう。ボクたちが死ねば人質のサチウス姫の命はない。そうなれば当然、ウワバミ様も死ぬことになる。つまり、ボクたちが生き残ることがウワバミ様の勝利条件でもあるということだ。ボクらの利害は完全に一致する」
「ふざけるなッ!! 貴様らが姫を殺したりさえしなければ、吾輩は永遠に生き続けることができるのだ!! それなのに何故吾輩が貴様らに協力せねばならんのだ!?」
「……聞いていた話と違うな。やはり噂というのは当てにならないらしい」
ユウキがそう言って小さく肩を
「あん?」
「ドラゴンというのは極めて知能が高いモンスターだと噂に聞いていたが、実際には随分と頭が固い生き物のようだ」
「……くッ!! どいつもこいつも吾輩を
今現在、スネカジリ山にいるのはオレ、ユウキ、マジカ、モンキリの四人だけである。
「ナマグサなら姫と一緒にアジトで留守番だ。ボクたちがウワバミ様に殺されない為の保険だよ」
「……とは言え、ウワバミ様に殺されなくても、このままではオレたち王国騎士団に捕まって打ち首だぞ。全員が助かる、何か良い方法はないのかよ?」
オレは先刻から脳細胞を総動員させて解決策を考えているのだが、どれだけ頭を捻っても妙案は浮かんできそうにない。どうやらオレにそういう才能はないらしい。
「……あッ!!」
すると、マジカが何かに気が付いた様子で口に手を当てる。
「マジカ、何か
「もしかしたらやけど、ナマグサの『蘇生』の魔法を使えば、全部丸く収まるんとちゃうかなと思って」
「……どういうことだ?」
「確かナマグサの『蘇生』魔法は肉体の九割が残っていれば、完全な状態で復活させることができるんやったよな? せやったら一度ウワバミ様を殺して、その上でナマグサの魔法で生き返らせれば、サチウス姫の生贄がなくても力を取り戻せるんやないか?」
「…………!?」
なるほど。肉体の九割が残っていれば完全に復活するということは、逆に欠損が一割以下なら『蘇生』魔法で生き返るときに修復されるということだ。それなら確かに理屈の上では、全ての問題を解決することができる。
強大な力を持つウワバミ様を一度殺して蘇らせるという、ダイナミック過ぎる方法故に盲点になっていた。
「……だが、問題はウワバミ様がオレたちを信用して殺されてくれるかという点だ。ナナヒカリ王国と縁もゆかりもないオレたちを、果たしてウワバミ様が信じて命を預けてくれるかどうか」
「いや、その点は心配いらないだろう」
とユウキ。
「王国騎士団から追われる身となった今、ウワバミ様の死は同時にボクたちの死を意味する。ボクたちがウワバミ様を見殺しにすれば、自分たちも王国騎士団に処刑されるだけだ。ボクたちがそんな選択を取らないことくらい、わからないウワバミ様ではないだろう」
「……うーん」
お尋ね者になったことで事態が好転するというのも、何だか複雑な心境だった。
「ほならこれで一件落着やな!!」
「……喜んでいるところ誠に言い辛いのだが、おそらくその方法でウワバミ様を完全な姿に戻すことは不可能だろう」
そう言ったのは気まずそうに俯いているモンキリだった。
「モンキリ、何でや?」
「確認したいのだが、
「……片目程度なら蘇生と同時に修復されるやろな」
「ならば、元々片腕がない者を『蘇生』魔法で生き返らせた場合はどうなる?」
「……うーん、それはちょっと微妙なとこやな。欠損箇所が全体の一割を超える場合、失った腕は復元されずに生き返ると思うで」
「ウワバミ様、質問が御座います。ツヨイ王に奪われた力の一部というのは、ウワバミ様の本来の力の何割程度になるのでしょう?」
「……半分だ」
モンキリの問いかけに、ウワバミ様が焼け糞気味に答える。
「ツヨイとの戦いで、吾輩は内臓の半分近くを奴に食われた。定期的に姫の肉体を取り込むことで一時的に力を取り戻すことはできるが、それも時間の経過によって失われるものだ。吾輩とナナヒカリ王国は一心同体。お互いがお互いの半身と言っても良いだろう」
つまり、ウワバミ様を一度殺してナマグサの『蘇生』魔法で生き返らせたとしても、サチウス姫を救うことはできないということだ。
「……何や。ええ考えやと思ったのになァ」
そのとき、プレートアーマーにサーベルを装備した兵士の大群が、突如としてオレたちの前に姿を現した。
「賊ども、そこまでだ!! お前たちは完全に包囲されている。無駄な抵抗はやめて、直ちに投降せよ!!」
「……ちッ、王国騎士団のお出ましか。だが、サチウス姫の身柄はオレたちの仲間が預かっている。オレたちに手を出せば、姫の命はないぞ!!」
オレは強気の姿勢を崩さず、鞘から剣を抜いて臨戦態勢をとる。
「ふん、間抜けめが。お前たちの仲間の僧侶なら、我々が捕縛している」
「……なッ!?」
「サチウス姫は城に戻られた。お前たちは既に敗北したんだよ」
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