第35話 姦計
「なァ、王様の前であんなこと言ってホンマに良かったんか?」
エライ王との
「当然、姫を助ける何らかの手立ては思い付いとるんやろうな?」
「いや、今のところ特に何かアイデアがあるわけではない」
ユウキが平然とそう答える。
「アホかッ!! 何でアンタは何時も考えなしにそうやって安請け合いするねん!! 失敗したらウチら全員打ち首かもしれへんねんで!!」
「流石にそれはないだろう。エライ王も自分が無理難題を言っている自覚くらいはある筈だ。サチウス姫を犠牲にしなければ国を守れないことも、頭では重々承知していることだろう。それでもボクたちにサチウス姫を救うよう頼んだのは、このまま何もせず娘を死なせる罪悪感に耐えられないからだ」
「それじゃあ、エライ王がウチらに求めとることって……」
「自分の代わりにサチウス姫を死なせた責任をとってくれる、体のいい
「…………」
何とも小心者のあの王らしいやり口ではある。
「それでどうするユウキ? このまま指をくわえてことの成り行きを見守るつもりか?」
オレがそう言うと、ユウキはメガネを押さえながらニヤリと笑う。
「まさか。それでは
「交渉が通じるような相手ならいいんですがねェ」
ナマグサが他人事のように
「流石に話くらいは通じるやろ。初代国王が手懐けて、言うこと聞かせたくらいやねんからな」
「うん、手懐けたというのとは少し違うようだけどね。だが国を半永久的に存続させる方法としては、ツヨイ王のとった行動は最適解とも言える」
「……どういうことだ?」
「人の命には限りがあるということさ。そして、優秀な王の子がまた優秀な王であるとは限らない。どんなに豊かな国でも愚王がタクトを振れば、国力は落ちていき、たちまち滅びてしまう。これは王政最大の問題点だが、国を自分たちより遥かに長く生きるウワバミ様に守らせることができれば、ツヨイ王の死後もナナヒカリ王国の守りは
なるほど。そう考えれば政治システムとしての『ウワバミ様』は確かによくできた仕組みなのかもしれなかった。
「それで、どうやってサチウス姫を助けるつもりだ? ウワバミ様に泣いてお願いでもしてみるか?」
「初代国王のように暴力で交渉を有利に進めることができれば楽なのだが、ニセモノでもあの迫力だ。戦闘でボクたちに勝ち目はないと見て間違いないだろう。となれば、話し合いの中で妥協点を探っていくしかないな」
「……そんなんでホンマに上手くいくんかいな?」
とマジカ。
「ああ。だからそれとは別に、保険の意味でサチウス姫を独房から連れ出しておきたい」
「サチウス姫を? 何故だ?」
「場合によってはウワバミ様との交渉で、サチウス姫は有効な
「……それは別に構わないが、サチウス姫を独房から出すことをエライ王が認めるとは思えないぞ」
エライ王は最終的には必ず、サチウス姫を生贄に捧げることで国を守る決断をする筈だ。換えの利かない大事な生贄に何かあっては困るエライ王の立場で、姫を自由の身にしておくのはリスクが高過ぎる。
「ああ。だからエライ王には秘密にことを進めるつもりだ。独房には代わりの影武者を入れておいて、誰も近付かせないよう見張りに言いつけておけば、暫くの間は姫の不在を誤魔化せるだろう」
「……代わりの影武者って、まさか今から探すつもりじゃないよな? そんなことをしている間に、15日なんてあっという間に過ぎてしまうぞ」
「影武者の適任者なら既に見つけている。見た目を再現するだけなら、うってつけの奴がいるじゃないか」
「あ」
そうか。ユウキは地下迷宮にいたスライムをサチウス姫の影武者に使おうと考えているのだ。あのスライムなら姫の髪の毛からだけでも、本人と見分けが付かない程のそっくりさんを作り出すことが可能である。
「サチウス姫の影武者はコピースライムで何とかするとして、ウワバミ様との交渉の方はどないすんねん?」
とマジカ。
「その件ですが、直接ウワバミ様と交渉する役はわたしに任せて貰えませんかね?」
そう言ったのは意外にもナマグサだった。
「……ナマグサ、お前、大丈夫か? 熱でもあるんじゃないのか?」
「ケンさん、わたしが名乗り出たことがそんなに意外ですか?」
「……ああ。率直に言って、お前が自分から仕事を引き受けるとは思っていなかった。明日は大雪だな」
「これまた随分な言いようですね。確かにわたしは喧嘩はからっきしですが、荒事以外なら少しは皆さんのお役に立てると思いますよ。まァ、見ていてくださいよ」
ナマグサはそう言って不敵に微笑んだ。
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