第34話 難題

「おお、よく来てくれた、勇者・ユウキ=ムテッポーよ。ワシがナナヒカリ王国、国王・エライ=ナナヒカリである」


 モンキリによって城に連れてこられたオレたち勇者パーティー四人は、さっそく国王と面会する。

 エライ王は白いモジャモジャヒゲに、太鼓のように腹の突き出たサンタクロースのような風貌の大男だった。赤い王冠に赤いローブを身に纏っている所為で、余計にその印象を強めている。


「隣にいるのが娘のサチウスだ」


 エライ王の隣の椅子には、白いドレスを着た美しい娘が、膝の上に手を置いてちょこんと座っている。こちらはあまり父親には似ておらず華奢きゃしゃで、手足は枯れ枝のように細かった。


「我が国の事情については既にモンキリから簡単には聞いておるだろう。国を守る為にはウワバミ様の力は必要不可欠。だが、その為には娘のサチウスの命を犠牲にしなければならない。国の存亡がかかっている状況とはいえ、可愛い一人娘のサチウスを死なせることは忍びない。何とか不憫ふびんな娘を救ってやって貰えないだろうか?」


「エライ王、そもそもの疑問なのですが、何故ウワバミ様にサチウス姫を生贄として捧げることになったのです?」


 ユウキが居住いずまいを正して、エライ王にそう質問する。


「うむ。それは初代国王がその昔、ウワバミ様を調伏ちょうぶくしたことに端を発しておる」


「ちょい待ち!! ウワバミ様って確かドラゴンのことなんよな? 人間がドラゴンを調伏やなんて、そんなことが可能なんか!?」


 マジカが王様相手でもため口で言う。


「ただの人間ではない。初代国王・ツヨイ=ナナヒカリは膨大な魔力を持つ大魔道士だったのだ。ウワバミ様は今でこそ我が国の守り神として民にまつられる存在だが、元々は人々を襲う邪神として恐れられていた。ウワバミ様を調伏したツヨイ王は英雄となり、ここにナナヒカリ王国を建国した。そして国を永遠のものとする為に、ウワバミ様の力を利用することにしたのだ」


「その方法が人身御供ひとみごくうだと?」


「左様。ツヨイ王はウワバミ様を倒したときに、その力の一部を奪って自身の体内に取り込んだ。それからウワバミ様の力の一部は代々、国王の娘の肉体に引き継がれていくこととなった」


「……ちなみにツヨイ王が奪ったウワバミ様の力の一部というのは?」


「『不死』の力だ」


 なるほど。ようやく話が見えてきた。ツヨイ王はウワバミ様に未来永劫みらいえいごう自分の国を守らせる為に、言わば人質をとっておいたのだ。


 ウワバミ様が生き続けるには、王家に生まれてきた姫の肉体を取り込み続けなければならない。それ即ち、戦争や疫病で国が滅んだり、王家の血が絶たれることは、ウワバミ様自身の死に直結するということだ。


 ――つまり、ナナヒカリ王国とウワバミ様は運命共同体ということになる。


「エライ王、一つ確認したいことがあります。ウワバミ様に捧げる生贄は、サチウス姫以外の者には務まらないのですか? たとえば国民の中からよく似た影武者を用意して、姫の代わりにウワバミ様に差し出すというような方法をとってみては如何でしょう?」


 ユウキがそう言うと、エライ王は顔を真っ赤にして怒りだした。


「……な、何と怖ろしいことをッ!! そんなことがバレればウワバミ様の逆鱗げきりんに触れ、我が国はたちまち滅ぼされてしまうではないかッ!!」


「果たしてそうでしょうか? 国が滅ぶことは、王家の存続を望むウワバミ様にとっても大きな痛手でしょう。もしもウワバミ様が馬鹿でないのならば、そんな自分の首を絞めるような真似はしないと思いますが」


「ならぬッ!! 駄目なものは駄目だッ!! もしも仮にウワバミ様を騙し仰せたとしても、今度はニセモノを取り込んだことでウワバミ様の力が弱まってしまうかもしれない。そうなれば、他国に攻め込まれたとき国を守り切れないだろうがッ!!」


「…………」


 自分の娘の命は守りたくても、ウワバミ様に頼り切った国家体制を見直すつもりは毛頭ないらしい。


「……お父様、もう良いのです」


 すると先刻まで黙っていたサチウス姫がポツリと呟いた。


「何だサチウス、もう良いとはどういう意味だ?」


「わたし一人の命で国が助かるのなら、それでわたしは本望です。わたしはその為に生まれてきたのですから」


「……サチウス、何を馬鹿なことを!! ワシは決してお前を死なせるようなことはせん!! だから、お願いだからそんな悲しい顔をしないでくれ」


「……お父様」


「……サチウス」


 オレたち四人は王と姫のそんなやり取りを冷めた目で見ていた。おそらく、お涙頂戴のつもりなのだろうが……。


「エライ王、あなたの要求は理解できました。つまりは、ナナヒカリ王国はウワバミ様の加護をこれからも受け続けつつ、サチウス姫のお命は守りたいと、そういうお考えですね?」


 ユウキがこれまでの話を三行でまとめる。


「……うむ。簡単に言えば、まァそういうことになるな。成功した暁には、我が王家に伝わる『黄金の財宝』を君たちに譲り渡そう。タイムリミットは、今日から15日後のサチウスの18歳の誕生日だ。どうだ、やってくれるかね?」


「はい。サチウス姫のお命、このユウキ=ムテッポーにお任せください。必ずや、王の望みを全て叶えてご覧に入れましょう」


 ユウキが片膝をついて、うやうやしく頭を下げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る