第33話 騎士
地下迷宮の出入り口になっている洞窟を出ると、外には大勢の兵を引き連れた騎馬隊が待ち構えていた。
「そこの者たち、止まれ!!」
オレたちが騎馬隊を無視して通り過ぎようとすると、槍を持った兵士に行く手を阻まれる。
「何やアンタら、ドラゴン教の信者か何かか? 言うとくけど、あのドラゴンはスライムが合体して擬態しとったニセモノやからな。ウチらがドラゴン殺したって恨んどるのやとしたら、お門違いもええとこやで!!」
マジカが杖を振りかざして怒りを露わにする。
「……いや、マジカ。コイツらはドラゴンの信奉者などではない。
ユウキが睨みをきかせると、全身を鉄の鎧で覆った大柄な兵士が一歩前に進み出る。
「いやはや、流石は迷宮の謎を看破したお方だ。相当なキレ者とお見受けした。
「……ナナヒカリ王国騎士団って?」
マジカがユウキの耳元でそっと耳打ちする。
「この国の王家直属の治安維持部隊だよ。その騎士団長殿が、何だってボクたちの力を試すような真似を?」
「……それについては弁解の余地もない。ただ某にはどうしても、真の意味で知恵と勇気の両方を兼ね揃える者を探し出す必要があったのだ。どうか我々に力を貸して戴けないだろうか?」
「断る。顔も見せないような相手の話を
「…………」
すると、モンキリはおもむろに頭に被っていた兜を脱いだ。
そこに現れたのは、燃えるような赤い髪の美女だった。その凜々しくも美しい顔の左目の辺りに大きな赤い傷痕が残っている。
「うひょー、これはどえらい
ナマグサが鼻の下を伸ばして言う。
「……この見苦しい傷を見せることは、かえって失礼に当たるのではないかと愚考した次第。重ねて非礼を詫びよう」
「ユウキさん、勇者として困っている人を見捨てるなんて真似はできませんよね? それに会いに行くのが王様なら、ご馳走にありつけるかもしれませんよ!!」
「……ふッ、それもそうだな。ボクたちがどれだけ役に立てるかはわからないが、話だけでも聞きに行くこととしよう」
オレたちは用意された馬車に乗り込んで、国王のいる城へと移動することになった。
美しい山々と田園が広がる車窓からの眺めは平和そのもので、人々は皆一様に幸せそうに笑っていた。
「それにしてもこの国はとても治安がいいのだな。ボクはここまで平和で豊かな国を見たことがない。これも王国騎士団の活躍の賜物だな」
ユウキにしては珍しくおべんちゃらを言うが、モンキリの表情は何故かそこでより一層暗くなる。
「……いや、ナナヒカリ王国が今日まで平和でいられたのは某の力ではない。ウワバミ様のお陰だ」
「……ウワバミ様?」
「二千年前からこの国を守る神の名だ。姿だけなら
「……えーと、それってまさか地下迷宮にいたあのドラゴンのことか?」
オレは迷宮の最深部で見た怪物の姿を思い出して身震いする。
「ご明察だ。ナナヒカリ王国はドラゴンの
「ははァーッ、そりゃまた随分と面倒見のいい神様なんですなァ」
ナマグサが赤い顔で自分の額をピシャリと叩く。
「……いや、残念ながらウワバミ様の存在は某どもにとって都合のいいばかりではない。ウワバミ様のご加護を受けるには、王家に生まれた娘を満18歳になる誕生日に生贄として捧げなければならないのだ」
「なるほど。
ユウキが納得したように頷く。
「だが姫一人の命で国を守ってくれるとは、随分と破格の条件なのではないか? 悩むような話とも思えないが」
「はいでましたー、ユウキのサイコパス発言。アンタ、マジでそれ直さんと何時か痛い目見るで」
マジカが呆れた様子で溜息をつく。
「……いや、ユウキ殿の言うことは全面的に正しい。国とは民の為にあるもの。王族一人の犠牲で大多数の民が助かるのなら、迷わず民を選ばなければならない。それはわかっている。だがしかし、姫を溺愛する国王陛下のお気持ちを考えると、某としては他に何か良い解決策が見つからないかと願わずにはいられないのだ」
モンキリが沈痛な面持ちで思いの丈を
「……ところでユウキ殿、何故急に陛下と会う気になってくれたのだ? 某としては喜ばしい限りだが、どういう心境の変化があったのか是非ともお聞かせ願いたい」
「もしかしてやけど、人の心がないユウキもギャップ萌えには弱かったりしてェー」
マジカが茶化すように言う。
「なに、最初から国王と会う気はあったさ。ただ一方的に騙されたようで気分が悪かったから、少しばかりお前を困らせてやりたいと思った。それだけだよ、モンキリ」
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