第29話 弁明
――大聖堂のある町、西の出口にて。
「本当にこのまま魔王の宮殿へ向かうつもりか?」
チュウチュウが珍しく神妙な面持ちでユウキに尋ねる。
「ああ。そこに魔王がいるとわかっていて、行かないわけにはいかないからな」
そう答えるユウキの表情は、どこか晴れやかだ。
「……承知の上だとは思うが、まともに戦って勝てる相手じゃない。かなりの高確率で無駄に命を散らすことになるぞ」
「たとえそうなったとしても、それがボクの旅の目的だからね。誰に何と言われようと、そこだけは譲れない」
「……そうか。そこまでの覚悟なら、もはや何も言うまい。協力はしてやれんが、武運を祈っておるぞ」
ユウキとチュウチュウが固く握手を交わす。
「チュウチュウ、短い間だったが世話になったな。それじゃあ、息災で」
「ああ、お前もな」
二人の間を爽やかな風が吹き抜ける。
「……っておい!! ユウキ、何かええ感じにまとめようとしとるけど、ウチはお前のこと全く許してへんからなッ!!」
マジカがユウキに刺すような視線を投げつけながら、冷たく言い放つ。
「……わかっている。長年仲間として連れ添ったお前にさえ、ボクは自分の魔法について虚偽の申告をしていたんだ。当然、許されるとは思っていない。ボクのことが信用できないなら、パーティーから抜けてくれても構わない」
「いやいやいや、それもそうやけど、許されへんポイントそこやないやろ!! 何で誰にも何も相談せず、勝手にウチらを一人ずつ殺すような真似をしたんかっちゅう方が重要やろが!! どう考えてもッ!!」
「それについてはあの場合、仕方がなかったと思っている。ボクの立場からすれば、誰が敵で誰が味方なのか全くわからない状況だったのだから。そんな状況で相談した相手がもしも敵だったら、目も当てられないだろう。ボクとしては、何が何でも自分一人でパーティー全員を皆殺しにする必要があったんだ。パーティー全体を守る為にはね」
「サイコパスなんかおのれはッ!! ケン、お前からも何とか言ってやってくれ!!」
「……うーん」
マジカから急に話を振られて、正直オレは困ってしまう。
「ユウキに人の心がないことは今に始まったことじゃないからなァ。以前からユウキはオレが死ぬことを前提に作戦を立てたり、仲間が死ぬことを何とも思っていない節があった。まァ、ユウキは元々そういう奴だという感想しか出てこない」
「そうですよ。ユウキさんは元から腐れ外道です!!」
ナマグサが赤い顔で嬉しそうに言う。
「お前には訊いてへんわ、この酔っ払いの糞野郎!! チュウチュウ、アンタはどうや? あんな殺され方して悔しないんか?」
「……いや、寧ろワシは見直したがの。分不相応な理想を語る、頭デッカチの単なるいい子ちゃんだとばかり思っとったが、中々どうして頭の中はしっかりイカレておるわい。英雄になる人間というのは存外、こういう奴なのかもしれん」
「絶対に一緒にパーティー組みたくはねーけどな」
とヌスット。
「そこでじゃユウキ、お前の勇者としての資質を見込んで頼みがある。ワシら三人をお前たちと同行させてくれんかのう?」
「……ん? それってどういうことや? 結局ウチらと同盟結びたいっちゅうことか?」
「いや、同盟は結ばん。ワシらはお前たちの手伝いはしない。じゃが、お前たちが魔王の気を引いている間に、ワシらはワシらの目的を果たさせて貰う」
「はァ!? それって、ウチらを
マジカが大声で喚き立てる。
「何を言う。お前たちはワシらがいようがいまいが関係なく、魔王の宮殿に向かうのじゃろう? だったら、金魚の糞が付いてきたところで気にする必要などないではないか。それにワシとノーキンは一度ユウキに殺されとるわけじゃし、それくらい大目に見えくれても罰は当たらんと思うがのう」
「わかった。同行を認めよう」
ユウキが平然と言う。
「おい、ホンマにええんか? コイツらウチらだけに戦わせて、自分らはお宝盗んで逃げる気やぞ?」
マジカが猫のような瞳を更に吊り上げてユウキに言い募る。
「正味問題ない。ボクらに利用価値があると思ってくれている間は、ボクらがチュウチュウたちの力を借りることもできるだろう。それに館の中で過ごした一週間で、一つわかったことがある」
「……わかったこと?」
「少なくとも今のところ、魔王はボクたちと戦う気はないということだ。館の中には敵はおろか、ボクたちを陥れるような罠のようなものさえ存在しなかった。魔王にボクらをどうにかしようという気がまるで感じられない。だがしかし、脱出不可能な館の中で、長時間足止めをされたということもまた事実だ」
「……うーん。攻撃はしてこんけど、妨害はしてきよったっちゅーことか。つまり、向こうにもウチらと極力戦いたくない何らかの事情があるのかもしれへんってことでええのか?」
「マジカ、ボクたちの最終目標はあくまで世界を救うことだ。魔王と戦わずに対話でそれが実現できるのなら、それに超したことはないと思わないか?」
「……うーん。せやったらええねんけど」
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