第27話 必殺

「ユウキ、何か反論があれば言ってくれないか?」


 オレは沈黙を守り続けるユウキに祈るような気持ちでそう語りかける。


 本音を言えば、オレの推理が的外れなものであって欲しかった。これまでの旅の中で苦楽を共にしてきたユウキが敵であったなど、到底信じられることではないし、信じたくなかった。


「いや、特に反論はないな。連続殺人の真相は概ねケンの推測通りだ。ボクの魔法の効果は、触れた対象の重さを100キログラム増やすというもの。勇者の魔法がただ物を重くするだけだなんて、格好悪いと思うだろう? まさかここまで完璧に見破られるとは思わなかったよ」


 ユウキがメガネを押さえながら、涼しい顔でそう言った。


「……ユウキ、テメェ自分が何言ってるかわかってんのか!?」


 ヌスットが鬼の形相でユウキを睨み付けている。


「わかっているさ。むしろ、状況をわかってないのはお前たちの方だ。ボクはただ粛々しゅくしゅくと正義を執行しているに過ぎない」


「……くッ、外道め!! よくもジジイとノーキンをッ!!」


 ヌスットが脚に仕込んだ短剣を抜いて、ジリジリとユウキとの間合いを詰める。


 しかし、ユウキは壁に背中をつけて、冷静に迎え撃つ構えだ。


「……それじゃあユウキ、最後の謎解きの時間だ。チュウチュウの背中の切り傷だが、これが何時付けられたものかお前にわかるか?」


 オレは少しでもユウキの注意をこちらに向けようと話を振る。が、ユウキはヌスットへの警戒を一切緩めない。


「知らないな。そんな傷、ボクは付けた覚えないよ」


「それはそうだろう。


「……なッ!?」


 これには流石のユウキも予想外だった様子で、驚きを隠しきれずにいる。依然ヌスットに注意を向けつつも、わずかに意識を話の内容に割かせることに成功した。


「……馬鹿な、一体何の為に自分で自分の背中に傷を付ける必要がある?」


「まァ、こればかりは結果的にそうなったというだけのことなんだろうがな。この館の絶対的なルール。それは壁やドアを破壊しようとすれば、100%の威力で攻撃が返ってくること。仮に扉を剣で斬りつけても斬りつけた本人が斬られるだけで、攻撃箇所には傷一つ残らない」


「……そんなことは今更説明されなくても知っている」


「ならば話は早い。何のことはない、チュウチュウは持っていたナイフで床を傷付けようとしたんだよ。その床のダメージが自分に返ってきた結果、チュウチュウは自分の背中に傷を負うことになった。ではチュウチュウは何の為にナイフで床に傷を付けようとしたのか? 勿論、それは自分を殺した犯人を告発する為だ」


 オレはチュウチュウの死体が着ている服を脱がせて、背中を露わにする。そこにはとある文字が刻まれていた。



『BRAVE』



「……うッ!?」


 そのとき、ユウキが突然胸を押さえて苦しみ始めた。


「おい、ユウキ、どうした!?」


「……く、苦し……し、心臓がッ……!!」


 オレは思わずヌスットの顔を見る。

 ヌスットは目を丸くして首を横に振るばかりだ。


 ユウキを攻撃したのはヌスットではない。だとすると、誰だ?


「……何やこれ、めちゃ重いんやけど。ホンマに開くんかいな?」


 すると、部屋のドアが大きな鈍い音を立てながら、ゆっくりと開いていく。


 部屋に入ってきたのは、行方がわからなくなっていたマジカ=アリエヘンテだった。


「……マジカ!? お前、ユウキに何をした!?」


「隣の部屋からユウキの心臓を狙って凍らせた。狭い部屋の中での戦闘になれば、必ず壁に近付いてくると思っとったで」


 その口ぶりは、一連の殺人事件の犯人がユウキであることを既に知っている様子だ。


「……お前、ユウキが犯人だとわかっていたのか?」


「そんなわけないやろ。隣の部屋でケンの推理を盗み聞きして、今さっき知ったところや」


「……だったらどうして一階の部屋から抜け出したりした?」


「それはウチには誰が犯人がわからんかったからや。……ま、ここから先はケンにはちょっと言いにくいねんけど、ウチの『氷』魔法を使えば密室を作れることはもう知っとるやろ? その応用で外からドアを凍らせて、アンタら三人をまとめてこの部屋の中に閉じ込めてまおうと考えたんや」


「…………」


 確かに、オレたち三人が部屋の中にいる間にマジカに外からドアを氷で固定されたら、中にいるオレたちが外に脱出することはできない。力尽くで外に出ようにも、ドアを破ろうとすれば攻撃が跳ね返ってくるし、ヌスットの『開錠』は鍵にしか効果がない。


「そしたら館を出られる時間まで安全に過ごせるって思ったんやけど、会話を盗み聞きしとったら、ケンの推理で犯人はユウキやって突き止めとるところやないか。ほならやることは一つ。ユウキがケンとヌスットに注意を向けとるところを、意識の外側から攻撃して殺す」


「……さ、寒い……ボクは……死ぬの……か?」


 ユウキは小さくしゃがみ込んで、両肩を抱いて震えている。


「残念やったなァ、心臓が凍り付いて動かんのや。今から何やっても、もう助からんで。杖がなくても、人間の臓器一個くらいなら凍らせて動き止めるなんて、ウチにとってわけないねん。ちょこまか動かれたり暴れ回られたりしたら狙いが定まらんかったかもしれへんけど、壁に近付いて受け身になってくれたお陰で心臓狙うん楽で助かったわ」


 マジカが冷徹にユウキを見下ろして言う。


「……ま、待ってくれ……違う。……ボクは犯人じゃ……ない!!」


「ふん、何を今更。あの世で閻魔えんまにでも言うとれ、ドアホ」


「……ボクはまだ……死ねない……ッ!!」


 そのまま暫くすると、ピクピク痙攣けいれんしていたユウキ=ムテッポーの肉体は完全に動かなくなってしまった。


 ♢ ♢ ♢


【素敵なおしらせ】


 カクヨムでは、12月26日から「積読消化キャンペーン」が実施されています。

フォローしている作品を、10エピソード以上読んだ方にアマギフが当たるそうです。

 読んだエピソード数に応じてアマギフの金額も上がるので、これはもう絶対読むしかない!!


 エントリーが必要ですので、こちらからどうぞ。

 詳細はこちら:https://kakuyomu.jp/info/entry/tsundokucampaign



 ……そうそう、本キャンペーンは読むだけでは意味がないぞ。先に作品をフォローしてからでないとエピソードを読んだことにはならないので、まだ『勇者ホイホイの殺人』をフォローしていない人はこの機に必ずフォローするのじゃ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る