第17話 詭弁
ノーキン=キタエテルの死体は、ベッドの上に酷く不自然な姿勢で横たわっていた。
背骨が折れて有り得ない方向に曲がっていることから、死んでいることはやはり一目瞭然である。
ノーキンの死体の傍らには彼の死因を物語るように、真っ二つにへし折れた魔法の杖が捨てられていた。
「……馬鹿な!? あのノーキンが殺されたじゃと!?」
ノーキンの死に最も動揺していたのは、雇い主のチュウチュウだ。目の前の光景が信じられないのか、大きく目を見開いてブルブル震えている。
最強の手駒を失ったのだから、そのショックは計り知れない。
「……し、しかし、一体誰がこんなことをッ!?」
「…………」
そのときオレの脳裏に浮かんだのは、何もない空間に巨大な
「……死因は
チュウチュウがノーキンの死体の腰の辺りに手を触れている。『鑑定』の魔法によって検死を行ったのだろう。
「午前4時っていったらノーキンが毎朝起きて筋トレを始める時間じゃねーか!! チクショー、犯人はそこを狙ってノーキンを
ヌスットが地団駄を踏んで悔しがる。
オレは頭の中で昨夜の記憶を思い起こす。日付が変わる頃くらいまでは確かにマジカと一緒にいた記憶があるのだが、それ以降はどうにも判然としない。
マジカを絶対に守ると誓っておきながら、何と情けない体たらくだろうか。
「……おいマジカ、アンタの『氷』魔法ならノーキンを押し潰せるくらいの質量の氷を作り出せるんじゃねーか?」
そう言ったのは、地下貯蔵庫でマジカが巨大な氷を出現させるところを見ていたヌスットだ。その鋭い眼光は敵意に満ちている。
「……そんな、ウチはやってないッ!!」
「どーだかな。背骨が折れている以外に外傷がないってのも、アンタの犯行であることを裏付けている。もし仮に犯人がケンかユウキだとしたら、ノーキンを殺すとしてもこんな殺し方はできねー筈だ」
ヌスットの推論通り、仮にオレかユウキがノーキンと戦闘になった場合にまずやることは、鞘から剣を抜くことだ。剣による攻撃でダメージを与えることを第一優先に考える。それ以外にノーキンの怪力に対抗する手段がないからだ。
「それに、またしても密室だ。それもマジカの『氷』魔法なら、ドアの内側を外から氷で凍らせて固定することで実現可能なことが判明している」
ヌスットが昨日のノーキンの推理をそのまま引用する。
「違うッ!! ウチやないッ!!」
「違うと言うなら、反証してみせろ」
「…………」
状況はマジカにとって、着実に不利に働いていた。
――たが、しかし。
「いや、マジカにノーキンを殺害することは不可能だ」
オレはヌスットに対して毅然とそう反論した。
「……ほゥ。ならその根拠を聞かせて貰おうか」
「何故なら犯行当時、マジカは魔法の杖を持っていなかったからだ」
昨日、魔法の杖はユウキによってノーキンに引き渡されていた。如何に『氷』の魔法を扱える魔法使いのマジカでも、杖の補助効果なしで巨大な氷塊を作り出すことはできない。
「魔法の杖ってのはそこに落ちてる折れた棒きれのことか? だったら何の問題もないじゃねーか。ノーキンが杖を持っていたというのなら、一度奪い返してから魔法で攻撃すればいい。折るのはノーキンを殺した後でもできるわけだしな」
「おいおい、ヌスット。お前自分でさっき言ったことをまるっと忘れてるんじゃないか? ノーキンは
そこまで喋って、オレはふと気が付いた。
おそらく、ユウキはこの展開を予期していたのだ。それで、部屋に入る前にヌスットにノーキンの力量を確認していたのだろう。
――全ては仲間を守る為に。
「…………」
口先だけで絶対に守るだなどと格好付けていたオレとは大違いの策士ぶりではないか。
「……だったら、誰ならノーキンを殺せたっていうんだよ!?」
ヌスットが敵意を剥き出しにして、オレを睨み付ける。
「結論を急ぐことが必ずしも最善とは限らない。こういった議論は慎重に進めるべきだ」
ユウキが少しもズレていないメガネを押さえながらそう言った。
「それからヌスット、物事を都合の良い部分だけ切り取って考えるという行為は冷静な推理とは呼べない。それは、ただそうであって欲しいというだけの願望だ」
「……くッ!! そんなこと言ったら、ノーキンを殺せる奴なんて誰もいねーだろがよ!?」
「そう。誰にも犯行は不可能。それが現時点での正しい解答だ。何か新しい情報でもない限りはね。今のところ、ボクたちの中の誰が犯人かを論じることに意味はないということだ」
「ふん。生意気な小僧が。知ったような口を聞きよるわ」
チュウチュウは目を細めて、ユウキとヌスットのやり取りを冷ややかに見ていた。
「誰にもできないからワシらの中に犯人はいないじゃと? 稚拙な
「……詭弁ではない。事実を言ったつもりだが?」
「だったらワシが論理的に謎を解いてみせようではないか。フィジカル最強のノーキンを武器なしで倒して
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