第6話 勇者
オレ(ケン=クローニン)、ユウキ=ムテッポー、マジカ=アリエヘンテ、ナマグサ=オサケスキーの四人は、二階の空き部屋を一部屋ずつあてがわれることになった。
部屋の中は窓がなく、狭い上にベッドの布団は
今日だけで二度も死んだが、こうして久々に屋根の下で休めるのだから、案外悪くない一日だったと言ってもいいのかもしれない。
そんなことを思いながら
「……ケン、少しいいか?」
「こんな夜更けにどうしたんだよ、ユウキ」
「酷く疲れている筈なんだが、何故か眠れなくてね。五分だけでいい、話し相手になってくれないか?」
「……仕方がないな。五分だけだぞ」
オレはそう言ってユウキを部屋の中に入れてやる。
ユウキは板張りの床の上に
「ケン、お前はチュウチュウからの提案についてどう思う?」
夕食時、ユウキはチュウチュウから同盟を組まないかと誘われていた。ユウキはその場での即答は控え、とりあえず返事は保留ということになっている。
「……うーん、確かにあの商人の爺さんは少々胡散臭いが、『鑑定』の魔法はかなり使い勝手が良さそうだ。それから一緒にいた武闘家の男と盗賊の女も、戦闘要員としてはそこそこ優秀そうに見えた。前衛が足りていないオレたちパーティーにとっても、組むメリットは大いにあると思うな」
「……そうか」
ユウキが神妙な顔で頷く。
「おい、人に質問しておいて何だその素っ気ない返事は」
「……なァ、ケン。ボクたちこのまま旅を続けてもいいのかな?」
ユウキが思い詰めた表情でオレの顔を見ていた。
「おい何だ、まさかチュウチュウに言われたことを気にしているのか?」
チュウチュウは魔王を倒すことに意味などないと言った。そんなことをしても世界は何も変わらないと。
確かに魔王が世界からいなくなったとしても、それで世の中が平和になるとは限らない。今度は人間同士で争うようになるだけなのかもしれないし、まだ見ぬ新たな敵と争うことになるのかもしれない。
だが、それを無意味と断ずるには早計なように思える。
「……いや、それもあるが、それより魔王軍はどうしてボクたちを殺そうとしないのだろうか?」
「……どういうことだ?」
「絶対に中からは脱出できない館に閉じ込めたというのに、敵は何故館の中に水と食糧を置いていったのか? そんな余計なことさえしなければ、ボクたちパーティーは簡単に全滅していた筈だろう?」
「…………」
言われてみれば確かにその通りだ。オレたちは既に敵に
「……ケン、魔王とは本当に討伐するべき存在なのか?」
そこでオレは我に返る。そうか。
敵の目的が、オレたちに考える時間を与えることなのだとしたら?
命の危険がなく、取り立ててやることもない環境に身を置くと、人はつい色々なことを考えてしまう。そんな中で魔王軍に敵意がないことを思い知らされれば、ほぼ確実にこちらの戦意を削ぐことができる。
もしそうだとすれば、今の状況はかなりまずいのかもしれない。オレたちパーティーの中のリーダー格であるユウキが戦意を喪失すれば、パーティーは高確率で空中分解することになるだろう。
――ならば、今オレが考えていることをユウキに話してみるか?
否、それもあまり良い結果に繋がるとは思えない。敵陣営について考えを巡らせること自体が、既にもう敵の術中に嵌まっていると言ってもいい。
これは思っていた以上に深刻な状況なのかもしれない。
「ユウキ、今はあれこれ考えずに、体を休ませることだけに専念しろ。敵の目的はまだ不明だが、こちらが迷いを持つと勝てる戦いも勝てなくなるぞ」
「……そうだな、すまん。どうも少し疲れているみたいだ」
それも違う。ユウキが魔王討伐に疑問を抱いたのは疲れの所為などではない。この館に滞在していれば、遅かれ早かれその考えに思い至ることだろう。
かく言うオレも、魔王を倒すことが正しいことなのかどうか、段々わからなくなってきている。
それでも魔王が邪悪な存在であって欲しいと願う理由は、オレたちのこれまでの冒険が無意味なものであったことを認めたくないからだ。
それを認めるだけの勇気が、オレには足りないからだ。
これまでの苦労も喜びも勝利も敗北も出会いも別れも、その全てを無価値と言われて正気を保っていられる程、オレは強くない。ただそれだけだ。
「……急に訪ねたりして悪かったな。でも、胸の内のモヤモヤをお前に話せて少しだけ気が楽になったような気がするよ」
「いいよ、別に。どうせ明日になってもやることなんて何もないしな」
「それもそうだな。……それからケン、何時もお前にばかり危険な役を押し付けて悪いと思っている。ボクたちがここまで来れたのは、間違いなくお前のお陰だよ」
「よせよ、水臭い。オレの方こそキレて悪かったな。明日、マジカとナマグサにも謝っておくよ」
「ああ、それがいい。それじゃ、そろそろお
「ああ。おやすみ、勇者」
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