第5話 晩餐
食堂のテーブルには古代魚の塩焼き、ライ麦のパン、
「何はともあれ、一週間この館で共に過ごすことになったんじゃ。遠慮せず食べるといい」
チュウチュウはそう言ってオレたちに料理を勧める。
「……ち、ちょい待ちィや。一つ確認させてくれ。この食材って、どこから持ってきたもんなん?」
マジカが眉間にしわを寄せて質問する。
「どこって、館の地下にある貯蔵庫だけど?」
ヌスットが然も当然のように答える。
「アホかァ!! 敵が用意した食いもんとか罠に決まっとるやないか!! 毒が入ってないわけがないやん!!」
マジカが自分も敵の用意した館に泊まろうと言い出したことを棚に上げて、声高らかにツッコミを入れる。
「その心配は無用じゃ。ワシの『鑑定』の魔法は食べ物に含まれる毒の有無も調べることができる。このテーブルの上にあるものに毒は入っていないと保証しよう」
そう豪語するチュウチュウの隣で、ノーキンがガツガツと手掴みで料理を
「…………」
とりあえず、料理に毒が含まれていないことは信用して良さそうである。
「食糧は地下の貯蔵庫にあると言ったが、あと七日間、この人数で保ちそうなのか?」
ユウキがヌスットに尋ねる。
「今のところ食糧にはまだ余裕がある。ただ貯蔵庫の巨大な氷が溶けてきていて、このままだと傷んだり腐ってしまうものもあるだろうな」
「ほなら、ウチに任しとき。ウチの魔法で氷を作り直せば、肉や野菜の鮮度も保っておけるやろ」
マジカがドンと自分の胸を叩く。
「ほゥ、それは頼もしいな」
「ところで、アンタたちは何時からこの館に閉じ込められているんだ?」
オレは料理を小皿に取り分けながら、チュウチュウに質問する。
「……そうじゃな、かれこれもう二週間程経つじゃろうか」
どうやらチュウチュウたちは、オレたちがここに来る随分前からこの館の中で三人で生活していたらしい。
「そもそもなんだが、何故こんな森の奥深くにいたんだ? こんな場所、魔王の宮殿を目指さない限り普通近寄らないだろ」
チュウチュウは魔王討伐を無意味だと言っていた。そんな彼らが何の目的で森の中を歩いていたのか?
「うむ、確かにワシはヌスットとノーキンを金で雇って、魔王の宮殿を目指していた。じゃがそれは魔王を倒すことが目的ではない。宮殿のどこかに隠されているという、伝説のお宝を盗み出す為じゃ」
「……伝説のお宝?」
「『無限の聖杯』といってのう。その杯はどれだけ中の酒が零れても決して空にならないという、現代の科学でも魔法でも説明できない摩訶不思議な代物なのじゃ」
「おー、無限に減らないお酒ですか。それは素晴らしい!!」
そう叫んだのは勿論、ナマグサだ。
「ほゥ、まさかお前たちの中に『無限の聖杯』の価値がわかる者がいるとはな。ヌスットとノーキンには何度説明してやっても理解できなかったというのに」
「……別にアタシらはアンタから金で雇われたってだけで、アンタの思想や目的に賛同するわけじゃないからな」
とヌスット。
「本来であれば魔王が封印されているうちに聖杯を盗み出す計画だったのじゃが、思わぬ形で足止めを食らってしまった。全くもって
チュウチュウがそう言って、グラスの中の葡萄酒を飲み干した。
「……ふん。そんなガラクタが目的とは。下らないな」
ユウキが心底軽蔑するように呟いた。
「何を言ってるんですかユウキさん。その聖杯が手に入れば一生タダ酒が楽しめるんですよ? 一生飲み放題ですよ?」
「……ナマグサ、お前は少し黙っていろ。ボクたちの旅の目的を馬鹿にした割に随分と下らない旅の動機じゃないか、チュウチュウ=タコカイナ」
そう言ってユウキがチュウチュウを鋭く睨み付ける。
「ふん。別にお前に理解されようとは思わんよ。ワシとて魔王を倒すことに意味などないと思っておるからのう。魔王の存在が邪魔なのは、今の地位が脅かされる可能性のある特権階級の者たちだけで、多くの民にとっては従う相手が変わるだけじゃろう。じゃがその実、ワシらの利害は一部では一致しておるとも言える」
「……どういうことだ?」
「『無限の聖杯』とはその名の通り、無限に酒が湧き出る
チュウチュウはそこで意味ありげに、ニヤリと笑う。
「もしもそこからエネルギーを取り出すことができれば、これから未来永劫、人類は資源の
「…………」
何と壮大なホラ話か、というのがその話を聞いたオレの正直な感想だった。
だがチュウチュウが言うとおり、オレたちの利害がある一点に
「こんな場所で出会ったのもきっと何かの縁じゃろう。ワシらはお前たちが魔王を倒すことに協力する。その代わり、お前たちはワシらが聖杯を盗み出すことに協力してくれればそれでいい。お互い世界を救う為、ワシと組まんか? ユウキ=ムテッポー」
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