第3話 竜の魔法少女

 竜の魔法少女……本名は鈴原竜華で年齢は15歳。


 気性が荒く、態度も悪い。


 そしてなにより、人に魔法少女の力を使ってしまう癖があった。


 簡単に言うならば、彼女には性格に難があった。


 そのため、歴代の監督官は彼女にほとんどノックアウトされてしまったらしい。



 魔法少女という存在は監督官にとっても絶対的なものだった。


 そんな魔法少女がこんな性格だったら、いくら監督官とはいえ気に病んでしまうだろう。


 しかし、彼女の厄介さの本質はそんな単純なものではなかった。




 俺は竜華に引き摺られ、狭い路地裏に連れ込まれていた。


「ねぇ、私の……もう濁ったわ」


 すると、竜華は俯いたまま胸のペンダントを俺に見せた。



 魔法少女の胸の辺りに装着されているペンダントは、基本的に飾りだ。


 しかし、稀にそのペンダントが濁り、魔法少女の【闇堕ち】という現象を事前に警告してくれる有難い道具だ。


 そんな有難いペンダントではあるが、基本的にその恩恵に預かることは少ない。


 そもそも闇堕ちする魔法少女なんて数十年に一度だからだ。


 そんな簡単にペンダントが濁ることはありえない。


 そのはずだった……。



「ペンダントが濁ったって……そんな短期間で……」


 俺は薄々分かっていながらも、竜華から差し出されたペンダントを見つめる。


 そのペンダントは予想通り、半分ほど黒く濁っていた。



 ペンダントが半分ほど濁る。


 それは上層部に伝えれば即時案レベルの問題だった。


 数十年に一度レベルの闇堕ちが、今、ここで起こるかもしれないのだ。


 そのため、上層部は早いうちに竜華の処分を決定するだろう。


 それが魔法少女としての処分なのか、人としての処分なのか。


 それは別としても、それ程までにペンダントが半分濁るとは大事だった。



 そんな大事が……こんな短期間で繰り返されていた。


 竜華が最初にペンダントが濁っていると言い出したのは、監督官となって間もない頃だった。


 ようやく気難しい竜華が心を開いてくれたと思ったら、ペンダントが濁っていることを告げられた日は普通に絶望した。


 しかし、ペンダントの濁りは何とか治すことができた。



 しかし、その日から数ヶ月おきに竜華のペンダントは濁っては治ってを繰り返すようになってしまった。


 最近では、一ヶ月に一度は必ず半分以上濁るようになってしまっていた。


 つまり、明らかに濁るサイクルが短くなっていた。



「り、竜華……こんな短期間に半分も濁るのは……」


 俺は何とか声を振り絞る。


 こんなに短期間に半分も濁るのは……流石に上層部に報告しなければならない。


 俺の口から、そんな言葉が漏れそうになった。


 俺としても既に最初のペンダントの濁りから、上層部への報告義務を放棄していた。


 しかもその上、こんな短期間で再び濁ってしまうのは……流石に報告しなければならない。


 俺の規則違反で、この組織全体の損害になりかねなかった。


「……監督は私が必要だって言った」


 すると、竜華は俺のネクタイをガシッと掴み、小さくそう言った。


 まるで俺を脅すかのような竜華の行為に、俺はちゃんとビビり散らかしてしまう。


 いくら少女とはいえ、相手は魔法少女。


 普通に本気のパンチを喰らえば、俺は飛び散る肉片だ。


「い、いや、でも……流石に……!」


 俺は恐怖を抑えながら、何とか竜華に反論しようと抵抗する。


「嘘だったの……? 私が必要だって……私だけが必要だって言ってくれたのに。そんな簡単に私を捨てるの?」


 しかし、そんな俺の反論を、竜華はメンヘラ全開で強行突破する。


 本当にどうしてこうなった……??


 俺はどこで選択を間違ったんだろう。


 俺は尽きない後悔をしながら、竜華に白旗を上げる。


「……俺が悪かった。今回だけは報告しない」


「本当……? 本当に私を信じてくれるの?」


 竜華は不安そうな上目遣いで、俺を見つめる。


「あ、ああ……も、もちろん、そうだ」


 俺は歯切れの悪い返答を、竜華にするしかなかった。


「……じゃあ、アレ……しましょう?」


 竜華は満足そうに笑うと、俺の耳元でそう囁いた。

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