第2話 魔法少女

 ビルの屋上から戦場を見下ろす。


 深獣は都市であろうと田舎であろうと出現する。


 そのため、栄えた都市部が戦場になることも少なくない。



 そんな都市部の戦場で、俺の指揮する二人の魔法少女が戦っていた。


「い、いいぞ……今日は調子がいいな」


 俺は戦場の様子を見下ろしながら、小さくそう呟いた。


 戦場では、体長30メートルほどの深獣と魔法少女が激しい攻防を繰り広げていた。


 しかし、目に見えて分かるように、二人の魔法少女が深獣を圧倒していた。


 今日は、主な火力要員である《竜の魔法少女》の調子がすこぶる良かった。


 もちろん、もう一人の魔法少女の調子も悪くはないのだが、今日は際立って竜の魔法少女の調子が良かった。


「嬉しそう……監督」


 そんな俺を見てか、隣でスマホを弄っていた未来視の魔法少女がそう言った。


「ゴホン……まぁこれも当たり前だ。これくらいやってもらわないと困る」


 俺はハッとして表情を引き締めた。


 そうだ。俺は監督官だ。


 魔法少女たちに舐められてはいけない。



 俺は気を取り直し、戦場に再び視線を移す。


 その頃には、深獣は跡形もなく消滅していた。


 目を外したうちに、二人が深獣を消滅させたのだろう。


 俺は手元の時計を見る。


 じ、10分40秒……!?


 すごいぞ! これは新記録だ!


 これなら最下位脱出も夢じゃない……!



 俺は内心上機嫌になりながらも、表情を緩めず、わざわざ険しそうな顔を作る。


「監督さん。今、戻りました」


「……戻ったわ」


 すると、そんな俺の前に二人の魔法少女が戻ってきた。


 この二人こそ、さっきまで戦場を駆け回っていた魔法少女だ。


 この二人と俺の隣でずっとスマホを弄っている魔法少女を合わせ、この三人が俺の指揮する魔法少女だ。



 赤髪でツリ目の性格がキツそうな方が、竜の魔法少女。


 銀髪で清楚かつ優しそうな方が、時空の魔法少女。


 黒髪でいつも気だるげな方が、未来視の魔法少女。



 三人とも個性的ではあるものの、一見してみれば普通の女の子だ。


 しかし、俺は知っている。


 彼女らが息を吸うように簡単に闇堕ちしてしまうことを。


 そして、彼女らが多くの監督官を引退させた……いわゆる訳アリ魔法少女だということを。




 ****************




「10分台であの大きさの深獣を倒すのは新記録だ。本当によくやったぞ!」


 俺は三人に向かって、監督らしく激励の言葉を放つ。


 そうだ。これは凄いことなんだ。


 今までは深獣を倒せずに退散することも、1時間かかってやっと倒すことも多々あった。


 それなのに10分だ。本当にすごいことなんだ。


 その自覚さえ持ってもらえれば、三人の士気は上がるはずだ。



 そ、それなのに……。


 俺は目の前の三人の様子を見つめる。


 竜の魔法少女はそっぽを向いたまま、話を全く聞いていない。


 時空の魔法少女はニコニコと笑みを浮かべてはいるが、何も反応を返さない。


 未来視の魔法少女に至っては、スマホを弄ったまま俺の話を聞いてすらいなかった。


「そ、そうか……あんまり興味無いか……」


 俺はそんな三人の反応に、分かりやすく狼狽える。


 ま、まずい。俺は監督官なのに。


 魔法少女を指揮する監督官なのに……。


 俺は内心泣きそうになる。


「監督、ちょっと付き合いなさい」


 すると突如、そんな俺を構いもせず、竜の魔法少女は俺の腕をとんでもない力で掴む。


 え? 普通にめちゃくちゃ痛いんだけど。


 魔法少女って人間にそんな力出しちゃダメだよね?


 そう習ったよな?


 俺は竜の魔法少女の信じられない行動を目の当たりにしながらも、魔法少女という絶対的な力に為す術はなかった。


 そのまま、俺は引き摺られるように竜の魔法少女に連れて行かれてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る